■人類は未だに「未知の概念」に遭遇することがある

 「モデルベース開発」でソフト設計期間を短縮し高精度化できるが、これをもって実際に造る工程を無視して「現場・現物主義」が必要ないと主張するのは、あまりにも暴論だ。現物で確認しなければならないことは確実に残る。シミュレーションをAIに進化させても、現物が設計通りに出来ないこともあり、製造物を作るにあたって現場を重視し、最後は現物で確認することは省いてはならない。

【前回は】【未知との遭遇は必須(中)】「モデルベース開発」は「開発統合環境」

 先日の「 新幹線台車の不良」に見るように、製造はAIでもシミュレーションできないことがあると自覚して、確認をしていくことが、安全には必要なのだ。いまだ「未知の概念」が「確実に存在する」との認識も、人間には必要なのだ。

 昔話になるが、ビートルズが日本を訪問した時、乗ってきた旅客機はプロペラの付いたレシプロ機だった。そのころ急速にジェット旅客機の開発が進み、イギリスが世界初の実用化に至ったコメット機があった。そのコメット機が4度空中爆発したのだが、初めはその原因を掴めなかったために、3度の余計な事故が続いた。その原因は「金属疲労」だった。御巣鷹山に墜落した日航ジャンボ機と同じだった。

 それは、コメットが就航した当時、「金属疲労」の概念が航空機設計製造に考慮されていなかったために、事故原因がすぐにつかめなかったからだ。当時、子供の私でも「針金を切る時、繰り返し折り曲げて切る(つまり金属疲労)」こともあったのに、航空機の設計製作では「金属疲労」の概念が取り入れられていなかった。その後、国産旅客機YS-11の製造現場でも、「胴体部分」だけ水槽に漬けて、なんども水圧をかける試験を行うようになったのだ。

■AIは万能ではない、現場・現物主義の必然性

 コメットの空中分解のように、人間はいかに進歩しても、それまでに認識できていない概念に出会うときがあり、その実例は多くある。しかもそれは「実体験するまで」データ化されていないことが多いのだ。つまり、AIがビックデータを解析して、何の関係もないと感じる結論に達したときは、「新しい概念に出くわしている」と考えておくことが大事だ。結果、珍しくもない概念であってもよいのであり、さらに、AIでも見逃してしまう概念もあると覚悟すべきなのだ。

 昔、旧海軍の戦闘機で「ゼロ戦」に次いで開発された「雷電」と言う戦闘機があった。これはゼロ戦とは違って防空専用戦闘機で、長い航続距離は必要なく、速度を要求されていた。空冷星形エンジンを積んだゼロ戦は、頭が大きく、いかにも空気抵抗が大きく見える。そこで雷電の設計にあたっては風洞実験が行われ、胴体の先端から40%程度のところが最大に太い胴体が、もっとも空気抵抗が少ないと結論づけられた。

 そして、雷電はゼロ戦と同じ空冷星形エンジンを積んでいたが、風洞実験に従って、胴体を先端から40%のところで一番太くしたのだった。そのため視界が悪いとパイロットに嫌われたが、それよりも、空気抵抗が少ないはずなのに「実機で思うように速度が出なかった」。これはどうしたことかとなったのだが、実機では胴体を太くしたことで表面積が増えてしまい、空気との摩擦抵抗のほうが大きくなったのだった。実機では、「びょう」や「外板」の継ぎ目など、風洞実験では条件としていなかったことがあったのだ。

 これは、どれほどモデルを考えても実際との違いが出る例だが、現代の「モデルベース開発」でも、このような「概念の見落とし」があることを予測しておかねば「安全」は確保されない。特に、「実際の製造が設計通りにできるのか?」については、計算式であらわされる「モデル」では現在のところ取り込まれていない。

 AIは昔のシミュレーションとは違って、ビックデータを解析し、「未知の概念」を人間に替わって発見してくれる期待はあるが、AIはデータなしではそこまで進歩した存在ではない。故ホーキンス博士なら理解してくれたのだろう。