渋谷教育学園幕張高校「2017年度版の進路実績」より抜粋。

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高校生が海外大学に直接進学する動きが目立ち始めている。そうした高校生は東大を蹴って、海外進学を選ぶという。ベネッセの進学塾では東大合格者17人の全員が海外の名門大学に進んだ。高校生は海外大学のどこに魅力を感じているのか――。

■東京大学理科三類の合格者もいた

進学先に海外大学を選ぶ高校生が増えている。過去5年で48〜78人が東京大学に合格している渋谷教育学園幕張高校(以下、渋幕)では、この10年ほどで海外大学の人気が高まり、この数年は毎年10人前後が海外大学に進学している。

2008年にベネッセグループが開講した進学塾「Route H」では、これまで17人が東京大学とハーバード大学やイエール大学などの名門大学の両方に合格している。だが17人全員が海外大学に進学し、東京大学を選んだ生徒はいなかった。17人の中には最難関とされる東京大学理科三類の合格者もいたという。東大を蹴って、海外大学を選んだということだ。

進学情報大手ベネッセコーポレーションで英語・グローバル事業開発部の部長を務める藤井雅徳氏は、その背景について「日本国内における大学進学の頂点として東大に行くのではなく、世界的な視点から大学を見た結果、海外大学への進学を選ぶ生徒が増えています」と語る。

■日本の大学にはない学習環境がある

渋幕で国際部長を務める豊島幹雄氏は、海外大学の人気の高まりについて、「日本の大学では得られない環境で学びたいというのが、大きな理由でしょう」と話す。

「幅広い分野を学んだ上で、自分の専攻を決められるリベラルアーツ教育。少人数によるディスカッションを中心とした授業形態。いろいろな国からの留学生が集まる多様性のある環境。そうした点は海外大学の大きな魅力だと思います」(豊島氏)

特に渋幕の場合、2015年から17年の3年間で、のべ72人が海外大学に現役合格しているが、そのうち8割以上の61人は米国の大学だ。米国の大学はキャンパスでの過ごし方や進路の選び方など、学生に対するサポートが手厚い。日本の大学が卒業前の「就職支援」に特化しつつあるのとは対照的だ。そうした点も生徒が海外進学に魅力を感じる理由だという。

■面接時間は15分から4時間までさまざま

ただし高い学力があっても、海外大学の合格は簡単ではない。たとえば米国の大学では、「共通願書」(Common Application)の提出が求められる。これはハーバード大学やスタンフォード大学など700以上の大学が利用しているインターネット上のプラットフォームで、高校での成績、米国でセンター試験に相当するテストの点数、外国人留学生の場合はTOEFLなど英語の実力を示す成績を提出するものだ。

ベネッセの藤井氏は、「この願書がベースになるので、トップレベルの大学を目指すには共通テストやTOEFLなどの筆記試験で高成績をとる必要があります」という。

さらに活動歴とエッセイの提出も必要だ。活動歴としては、まずアカデミックな領域での受賞歴を入力。加えて、勉強以外のボランティアや生徒会、運動部などにおける活動ぶりを書く。さらにエッセイでは自分自身を伝えることになる。

「エッセイでは自分を客観的に見て、他の受験生と違うユニークな存在であるとアピールしなければなりません」(藤井氏)

面接がある大学の場合、こうした書類を通じて「会ってみたい」と思われれば、面接に進むことができる。卒業生が面接官となり、本人確認や英語力のチェックに加えて、大学の個性に応じた質問が行われる。基本的には人間性を見ることが目的のため、所要時間は15分の時もあれば3〜4時間のときもあるという。

■海外の入試スタッフが高校に訪問

海外大学の人気の高まりは、進学を検討できる環境が整ってきたことも影響している。代表例は海外の大学スタッフによる説明会だ。海外の大学には「アドミッション・オフィス」があり、学生の選抜を専門とする職員がいる。日本の場合、大学職員は入試の準備を行い、面接などでは教員が審査をするが、海外には人材を選抜するプロの職員がいるのだ。そのアドミッションオフィサーが、ツアー形式で東アジアをまわり、説明会をしている。

「優秀な学生が受験をしてくる高校では、アドミッションオフィサーが個別に説明会をしているのです。説明会をきっかけに、早い時期から学生と大学との関わりがスタートすることがあります」(藤井氏)

渋幕でも、「不定期ですが、都内で海外進学に関するいろいろなセッションが行われる毎年9月頃に、アドミッションオフィサーが本校に立ち寄ってくれることがあります」(豊島氏)という。

■中1から対象の「海外大学進学説明会」

海外大学への進学を希望する生徒に対して、高校側も動いている。渋幕では、6月頃に「海外大学進学説明会」を開催している。中1〜高3を対象に、海外大学の受験の仕組みを説明する。実際に海外大学に進学した卒業生が夏休みで帰国する時期なので、必要な準備や現地の様子などを卒業生が紹介することもあるという。

また渋幕では「次世代リーダー養成プログラム」として、希望者に向けてハーバード大学のキャンパスなどを訪問する研修も実施している。進学に有利になるとは限らないが、高校生にとっては海外大学を身近に感じられる機会だ。

■英語の外部試験も海外受験の後押しに

2021年度の入学者選抜(2020年度に実施)から、大学入試ではセンター試験の代わりに、大学入学共通テストが行われるようになる。その際、英語に外部検定試験が導入される。2023年度までは、共通テストでの英語試験も実施。共通テストと認定試験のどちらかを利用するか、両方を利用するかは、各大学が選択する。

外部認定試験の中には「TOEFL」や「IELTS」など、海外大学の留学時に使うテストも含まれている。つまり国内の共通テスト対策の勉強が、海外大学への留学に役立つことになるのだ。ベネッセの藤井氏は「受験生が海外大学を目指すことはより身近になるのではないか」と予想する。

「『SGH』(スーパーグローバルハイスクール)や『SSH』(スーパーサイエンスハイスクール)といった文科省の指定校では、論文執筆やプレゼンテーション発表の機会が数多くあります。そこで培われる能力は海外大学の入試に求められるものです。さらに外部の英語検定試験導入で国内大学の入試にも備えられるようになれば、海外大学にチャレンジしようとする高校生はどんどん増えていくと思います」(藤井氏)

■優秀な高校生が「海外流出」していく

日本の高校生が海外で活躍することは誇らしい。だが海外大学に進んだ高校生には、そのまま海外で仕事をしたいと考える生徒もいる。日本にとっては「人材流出」にもなりかねない。藤井氏は「海外進学の流れは止められないとすれば、日本の大学は、優秀な外国人留学生を受け入れることを目指していくべきだろう」と語る。

日本最難関の大学だからといって、日本最優秀の高校生が選んでくれるとは限らない。大学も国際競争に挑まなければいけない時代なのだ。現在の入試改革はそうした国際競争に対応した動きといえそうだが、結果を出すには大学独自の取り組みも欠かせない。日本の大学は、世界中の高校生から選んでもらえるような環境づくりを進められるか。残された時間は長くはない。

(フリーランス編集者・ライター 飯田 樹 写真=Science Faction/アフロ)