新入社員の早期離職を防ぐには?(写真:msv / PIXTA)

4月になり、ビジネス街では新入社員の初々しい姿を多く見かけるようになった。だが一方で現在、入社後3年以内に辞める若者も多く、上司や人事担当者の頭を悩ませている。こうした「早期離職」はどうすれば防げるのか。
組織論を専門とし『承認欲求』の著者でもある太田肇氏に解説してもらった。

この時期、ピチピチとした生きのいい新入社員を職場に迎え、早く一人前に育ててやろうと意気込んでいる人も多いのではなかろうか。

ところが残念なことに、期待した人材がすぐに辞めてしまい周囲の人を落胆させるケースも少なくない。いきなり辞表を突き付けられ、面食らったという話もときどき耳にする。

入社後3年以内に中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が離職するという「七五三」現象はよく知られているが、企業の採用増と少子化で超売り手市場のいまは、若者の早期離職にいっそう拍車がかかっている。

アンケートなどで離職の理由として上位にあがっているのは、「仕事が合わない」「成長できない」「労働条件がよくない」ことなどである。しかし、実際には「承認」の不足、すなわち周囲から認めてもらえなかったことが深くかかわっているケースが多い。

バブルのころ、日本を代表する大企業の人事担当者から、つぎのような話を聞いた。

入社間もない若手技術者がつぎつぎと辞めていった。おそらくライバル企業から高給で引き抜かれたのだろうと思われていた。ところがその後、離職者への追跡調査で辞めた理由を聞いてみると、大半の者が、上司や先輩が認めてくれなかったことを理由にあげたそうだ。好況で上司や先輩は仕事に忙殺され、新人を認めてやる余裕がなかったのである。

この事実は、上司や先輩が若手をしっかり認めてやれば、早期離職をある程度防止できることを意味する。

「承認」と「感謝」で離職ゼロも

実際、つぎのようなエピソードも存在する。

ある私立の幼稚園では、毎年2桁の教員が辞めていく異常事態に陥っていた。幼稚園の教員は20代前半くらいの若い女性が多い。それに対して園児の親は彼女たちより年長の人が多いうえ、なかには些細なことでクレームをつけたり、理不尽な要求を突きつけたりする「モンスター・ペアレンツ」と呼ばれるような親もいる。そのため強いストレスを感じたり、自信を失ったりして仕事が続けられなくなるのである。

そこで、この幼稚園の経営者は、教員に徹底して承認と感謝を伝えるようにした。「あなたのやっていることは正しいのだから自信を持って仕事をしなさい」と認め、「厳しい環境のなかでよくやってくれて感謝します」と労(ねぎら)いの言葉をかけ続けたのである。

すると効果はてきめんに表れ、辞めていく教員がゼロになったという。

経営トップからの承認は、それだけ大きな自信と安心感をもたらすわけである。

ただ、上司や先輩は必ずしも自分が直接認めてやらなくてもよい。上司や先輩から認められるより、お客さんや取引先など外部の人から認められたほうが大きな自信につながる場合がある。

某生協に採用された新人の女性職員は、なかなか仕事に自信が持てず、しばしば泣きながら「仕事を辞めたい」と上司に伝えていた。そんなある日、彼女はいつもどおり商品を組合員の家へ配達にいった。そのとき配達先の女性から、「いつも配達してくれているお礼に」といって、一輪の花を手渡された。

その花を持ち帰ってきた女性職員に対して上司は、「なぜ、その花をいただいたかわかるか?」と問いかけた。

すると彼女は、自分の仕事が認められたことだと理解し、一瞬にして表情が変わった。それ以来、彼女は別人のように自信にあふれる態度で仕事をするようになり、一度も「辞めたい」とは口に出さなくなったそうだ。

「承認」がもたらすさまざまな効果

人はだれでも自分にどれだけの力があるか、自分がどれだけ貢献できているかを知ることが難しく、また周囲に受け入れられているかどうかもわからないものだ。

まして新入社員の場合、経験がなく未熟なうえに、それまでの環境や人間関係から切り離され、不安でいっぱいである。そのため、ちょっとほめられたり認められたりしただけでも安心でき、自信にもつながる。

だからこそ、周囲からの承認が大切なわけである。

承認にはいろいろな方法がある。最も一般的な方法は、相手のよいところや努力しているところなどを具体的にほめることだ。ただ、いきなりほめるのは難しい。そこで、まず相手が一歩を踏み出し、行動するように背中を押してやるとよい。

行動すれば結果が出るし、たとえ期待したような結果が出なくても挑戦したことをほめてやればよいのである。

ほめたり、認めたりすることには離職の抑制以外にもさまざまな効果がある。

私がこれまで行った研究では、モチベーションや挑戦意欲、組織に対する貢献意欲、一体感、評価に対する信頼感、評価・処遇に対する満足感などを高めること、それに仕事の成果を向上させる効果があることも明らかになっている。

「ほめすぎリスク」にも留意しよう

しかし、一方では弊害もあることを理解しておく必要がある。


たとえば新人の職場にたまたま社長がやってきて、「君、よくがんばっているね。期待しているからな」と声をかける。すると声をかけられた新人は、それを過剰に受け止め、期待に応えなければならないという一心で、休暇も取らずに毎日遅くまでがんばる。それが続くと、いつか無理がたたってメンタルに支障をきたしたり、辞めていったりするケースがある。

とくに純粋でまじめなタイプの若者には、このような「ほめすぎのリスク」があることも知っておかなければならない。

このような弊害を防ぐためにも、「何がよいか」「どれだけ優れているか」を具体的に示しながらほめるのが望ましい。

承認が必要なのは新入社員だけではない。新人が入ってきたのを契機に、上手にほめたり認めたりする習慣を身につけたいものである。