チェーンソーメーカーに勤めるAさんに話を聞く(筆者撮影)

「僕、チェーンソーのこと武器だと思ってたんですよね」

若い知り合いに言われた。

本来の用途である木を切る道具としての映像を見る前に、ホラー映画やゲームで人やゾンビを切ったりするのを見てしまったらしい。確かにメディアにチェーンソーが登場するときは、武器として使われることのほうが多いような気がする。

「最近の若いもんは……」と反射的に思ったが、よく考えてみると自分だってチェーンソーについては「木を切る道具」だということ以外、何も知らない。

チェーンソーは武器には向いていない

これを機に、チェーンソーについて詳しくなろうと思い、国内の大手チェーンソーメーカーに勤めるAさんにお話を伺った。

Aさんが所有するチェーンソーを2台持ってきていただき、試運転もさせていただいた。


Aさんが所有するチェーンソー(筆者撮影)

「まず誤解を解かせていただくと、チェーンソーは武器にはまったく向いていないです。武器にしてはリーチ(届く範囲)が非常に短いですし、重たい。そして音がかなり大きいので、とても目立ってしまいます」

そう聞くと確かに武器には向いていない。盲目的に向かってくるゾンビには使えるかもしれないが、現実世界にはゾンビはいない。

ちなみに映画『13日の金曜日』シリーズでジェイソンがチェーンソーを使用していると思っている人が多いが、実はジェイソンは一度もチェーンソーを使っていない。

チェーンソーを使っているのは『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスだ。『悪魔のいけにえ』の原題は『The Texas Chain Saw Massacre』で直訳すると『テキサス・チェーンソー・大虐殺』になる。

「チェーンソーは100年ほどの歴史があります。初期の頃は直接エンジンに取っ手をつけたような構造で、手に振動が直接伝わりました。そのため白蝋病(はくろうびょう)になる人もたくさんいました」

白蝋病とは、振動を長時間に及び受け続けたため血管が収縮し、皮膚が白いロウソクのようになってしまう病気だ。

現在のチェーンソーは、エンジンと取っ手の間にゴムやスプリングの緩衝材を挟むことで振動はずいぶん減った。

また「防振手袋をつける」「一度の作業を10分以内、1日の作業を2時間以内にする」などのルールが守られるようになり、発病する人は少なくなった。

作業前に講習を受ける、ヘルメットやゴーグルを着用する、などの安全対策により事故自体が減っている。(タイトル写真のチェーンソーを持った女性は機械を動かしていません)

「チェーンソーでの死亡事故は確かに起きることがあります。多くは倒木に激突したり下敷きになって亡くなるケースですね。チェーンソーで身体を切って亡くなるケースはあまり多くはありません」

チェーンソーは見た目がわかりやすく危険であるため、取り扱うときは誰でも慎重になる。そのため、チェーンに身体が接触する事故は発生しづらいという。

チェーンソーを利用する仕事は?

「実際にチェーンソーを利用する仕事の種類を挙げると、まずは林業ですね。木材に使うための木を切り倒すため、枝を切ったり、切り分けたりするのに使います」

リンゴ農家など果樹園での作業、造園業、大工仕事、などでも使われる。一般向けだと、田舎暮らしの人が薪を作るのに使ったり、家の木を整えたりするのに使う場合が多い。

珍しいところでは、さっぽろ雪まつりでの氷像製作にもチェーンソーは使われている。林業は冬に作業をする場合が多い。草や葉っぱがないほうが作業をしやすいからだ。秋から冬に販売が伸びる。

夏場は人工林の下草を刈る仕事が入る。チェーンソーメーカーは、同じエンジンを使って草刈り機を作り販売する会社も多い。そうすると1年の売り上げを平均化できる。落ち葉などを飛ばすブロワー(送風機)を作っている会社もある。

「これは手放しで喜べる話ではないのですが災害の後には、チェーンソーの販売が伸びます」

大地震があった後は、倒壊した建物や街路樹などを切断しなければならない状況が発生する。また台風が発生した後も、同じくチェーンソーが必要になるケースが増える。

鉄のドアなどを切るのは普通のチェーンソーでは無理だ。レスキューソーと呼ばれる、硬質のブレードを使った専用のチェーンソーが使われる。

エンジン式と電気式

「現在チェーンソーは、エンジン式と電気式の2種類が販売されています。バッテリーやモーターの進化とともに、電気式の販売が伸びています」

エンジン式は、小さいもので排気量20CC、大きいもので100CCくらいまでの商品がある。大きいものは小型バイクのエンジンを持つくらいの重量感がある。

ツーサイクルツーストローク・エンジンで、ガソリンとオイルを混ぜて入れて使用する。ホームセンターなどでは2万〜4万円くらいの価格で売られている。プロ仕様は10万円くらいの価格で部品の精度の質が良く、威力や安定感が高くなる。

林業のほうは大きさ別に2〜3種類使い分けて作業をすることが多いという。

「年々排出ガスの規制が厳しくなっています。基準をクリアするために、どうしてもパワーが犠牲になる場合が多いです。現在、エンジン式のチェーンソーの開発では、低排出ガス化がテーマになっています。具体的には、『エンジンの改良』『有害物質処理装置の取り付け』『電子制御化』になります」

電気式は、充電電池(バッテリー)式と、コンセントから有線で電気を供給するタイプに分けられる。

「電気式はパワーの点ではどうしてもエンジン式に劣ります。メリットは、エンジン式に比べて音が静かなこと。オイル混合ガソリンを用意する必要がないことがあげられます」

町中での作業では、音はなるべく静かなほうがよい。エンジン式より、電気式が選ばれることが多い。

コンセントを指して使うタイプは電源を確保する必要があるため屋外での作業には向いていないが、庭の木の剪定などに使うには十分だ。

バッテリー式は屋外での作業もできるが、充電が切れてしまうと使えなくなってしまう。約30分の使用でバッテリーは切れる。充電には時間がかかるし、代わりのバッテリーを購入するにはおカネがかかる。

ガソリン式も20〜30分の使用でガス欠になるが、ガソリンを補充すればすぐに使える。

「チェーンソーの売り上げを見ると、裾野の多い一般家庭向けのマシンが最も売れています。電気式は安いものでは1万円くらいからありますから、手軽に購入することができますね」

チェーンソーはどの国で多く作られているのだろうか? そして日本のメーカーはどれくらいの強さなのだろう?

「やはり自動車を作っている工業国が強いですね。第1位はドイツです。スチール社が販売台数世界1位です。2位はスウェーデンです。ハスクバーナ・ゼノア社はもともとはオートバイを作っていた会社でした。そして第3位は日本になります。やまびこ社が有名ですね」

海外での売れ行きとしては、先進国での販売台数は頭打ちになっており、新興国に順々に売れていっている状況だ。

10年ほど前にはロシアにたくさん売れた。ロシアでは別荘地の薪づくりのために購入する人が多かった。

その次にはブラジルで売れた。ブラジルでは、森林を切り開いていくのに使われたという。

チェーンソーを使ってみた

最後に、実際チェーンソーを使わせてもらうことにした。

チェーンソーは「どこで使ってはいけない」という法律はないのだが、とはいえ町中で使うわけにもいかない。

某県の山中にある、周り数キロに家屋がなく、人もほとんど訪れない公園で使用することにした。

Aさんは車のトランクから、2台のチェーンソーを取り出した。電気式のチェーンソーは専用の箱に入っており、取り出してバッテリーをはめればすぐに使える。

「電気式は、日本のメーカー、マキタ社のUC121DRFです。リチウムイオン充電池式です。コンパクトなボディですが、パワフルです」


マキタ社のUC121DRF(筆者撮影)

安全ボタンを押しながら、グリップを引くと「ギャイーン!!」とブレードが回る。かなりの迫力だ。小さい木は簡単に切断することができた。

電池式はパワーがないとのことだったが、家庭で使うには十分だと思った。

そしてエンジン式のチェーンソーを取り出す。エンジン式のチェーンソーは、胴体部分とブレード部分が分かれて収納されていたため、その場で組み立てる。

エンジン式には夢がある

Aさんの目がキラリと光る。

「スウェーデンのハスクバーナ・ゼノア社製のG3501EZです。排ガス規制前のパワフルなマシンです。


ハスクバーナ・ゼノア社製のG3501EZ(筆者撮影)

これは私の個人的な感想なんですけど、チェーンソーはやっぱりエンジン式がいいですね!! 夢があります!!」

赤いボディが眩しい。スターターロープを引っ張ると、

「ドルルルル、ブオン!! ブオン!!」

と音を立てながらエンジンがかかった。

想像よりずっと大きい音だ。これは確かに町中で使うと苦情がくるだろう。……しかし、確かにかっこいい、夢がある。しばらく、大音量をとどろかせながらふかす。

「ハスクバーナ・ゼノア社の製品はプロ仕様の製品が多いんです。エンジンもピーキーなんですよね」

といかにもうれしそうに語る。


赤いボディが眩しい(筆者撮影)

ピーキーとは「神経質な挙動で使い勝手は悪いが、限定的にとても高い性能を発揮するエンジン」のことを言う。メカ好きにはワクワクする仕様だ。

僕も実際に持たせてもらう。エンジン音と振動が心地よい。グリップを引くと轟音を立ててチェーンが回転する。ブレードの正面からは排気ガスが排出される。

倒木にチェーンを当てると、まるで熱したナイフでバターを切るようにスッと真っ二つになった。

すごく気持ち良い。

「チェーンソーいいでしょう? 世界にはチェーンソーのコレクターもいるんですよ。単価もそこまで高くないですから、集めやすいですよね」

Aさんには、半日かけてチェーンソーについて教えてもらい、急激に詳しくなった。

東京のアパートに住んでいる身としては、チェーンソーはほとんど使う機会がないので、自分で購入するのはハードルが高いが、それでも

「かっこいい!! 欲しい!!」

ムクムクと物欲がわいた。