妻との良好な関係を保ち、充実した老後を過ごすために、退職前から真剣に考えたい(写真:プラナ/PIXTA)

サラリーマンも50代、あるいはそれ以上になると、重要なポストに就き、忙しくも日々充実している人は少なくないと思います。その一方で、60歳までのカウントダウンが始まり、「自分も年を取ったな」と感じる人も多いのではないでしょうか。

「若い社員にはまだまだ負けたくない!」と思いながらも、仕事の処理速度や発想力、体力で差を感じることが増えたりします。こうして自らの衰えを実感することで、退職がだんだん待ち遠しくなってくるのだそうです。「バブル世代」の人たちはこれからこんなふうに感じるシーンが急速に増えると思います。

妻のホンネは「家に一日中いられたらたまらない」

仕事中心で過ごしてきた人ほど、趣味といえるものが特になく、たまに飲み会に参加する以外は真っ直ぐ帰宅する人が多いようです。羽目を外すことも、無駄遣いすることもなく、仕事同様に家庭も大切にしている人の大半は、老後は夫婦水入らずなんて考えていたりします。

ところが、妻のホンネは、夫の思いとはかけ離れたところにあるものです。なぜなら、まじめな夫を持つ妻ほど、「自由になりたい」願望を強く持っているからです。いつも寄り道もせず、決まった時間に帰ってきて夕食を食べる夫に、たまには外で食べてきてほしいものなのです。こうした夫婦間の気持ちのズレは、年を追うごとに少しずつ広がっていきます。

年々責任が大きくなり、早出、残業などが当たり前で、長時間働いている人が多いのもこの世代の特徴でしょう。家族にとっては、いつも家にいないのが当たり前になっています。そのため、夫が定年間近になると、妻は「夫がずっと家にいたらどうしよう」とそわそわするものです。明るい老後に向けて退職を心待ちにしている夫とは裏腹に、不安な気持ちを抱いている妻は少なくないはずです。

大手家電メーカー勤務だったAさん(現在64歳)夫妻も、こうした典型例です。もともとAさんは60歳で定年退職するつもりでした。ところが、家族の希望もあり、娘が大学を卒業するまで働き、2年前の62歳のときに念願の退職日を迎えました。

Aさんは大学を卒業して以来、同じ会社でずっと働き続けてきました。そのため、達成感いっぱいで仕事を辞め、ようやく手にした自由な時間を楽しむつもりでいたのです。しかし、いざ自由な身分になると、何をどう過ごしていいのかわからなくなったそうです。

ずっと家にいるAさんに対して、痺れを切らした妻からは、とうとう「外に行ってください」と言われてしまいました。そのため、Aさんは今では仕方なく近所の図書館で時間を潰す日々を送っています。「図書館には学生が勉強をしに来るもの」と思っていたのが、周りを見渡すと、自分と同じように時間を持て余したシニア男性がたくさんいたといいます。行き場をなくしたAさんは、仕事以外に楽しめる何かを現役のときに作っておけばよかったと激しく後悔したそうです。交遊する友だちもなく、何をしていいのかわからない……。年金も月10万円ほどなので、頻繁に旅行するわけにもいきません。

ここであえてお聞きしますが、読者の皆さんは、リタイア後の時間について考えたことがあるでしょうか。女性の2人に1人、男性の4人に1人が、90歳まで生きる時代です。これから医学はさらに進歩し、エイジングケアもどんどん進化していくので、さらに多くの人がますます元気に、長生きすることが予想されます。人生を100年と想定すると、60歳でリタイアした場合、残り40年間というとても長い時間が待ち受けています。リタイア後の余生は、働いていたのとほぼ同じ年数もあるのです。

「自由な時間が楽しい」のは最初の3カ月だけ

実際、自由になる時間はどれくらいあるのでしょうか。現役時代、1日10時間働いていたとすると、40年間で14万6000時間になります。ここから土日祝日、正月休み、GW休み、夏休みを除くと、さらに短くなります。それに対して、リタイア後の自由時間は、1日24時間から睡眠時間の8時間を除くと、23万3600時間もあることがわかります。働いている時間よりも多くの時間が残されていることがわかります。

Aさんも、余生がこんなに長いとわかっていれば、それなりの準備をしていたかもしれません。とにかく、Aさんは退職を区切りと考えて、それを待ち遠しく日々を過ごしているだけでした。本当は2年の延長もしたくなかったのですが、娘の学費のためにと頑張りました。やり切った思いでセカンドステージに入ったわけです。

退職後の3カ月ほどは、自由な時間がうれしくて、楽しく過ごせたそうです。しかし、目標や夢を持たない生活はだんだん退屈なものに変化していきました。

Aさんのように、せっかくの自由な時間を後悔しながら過ごさないために、今からどのように考え、行動していけばいいのでしょうか。

60歳は新しいステージに変わるときです。リタイア後の生きがいや健康、そして経済の面から考えてみましょう。それには60歳ではなく、できるだけ早い内から考えるに越したことはありません。

まず50歳になったら、60歳以降の自分のあり方を具体的にイメージしてみましょう。60歳以降、会社に再雇用などの制度がありますか。実際に再雇用されている人は、どのような働き方をしていますか。自分が同じ立場になったら、同じ仕事をしたいですか。

再雇用されるということは、役職がなくなった途端に部下が上司に変わるということです。それはとても居心地が悪くなるとよく耳にします。私が以前勤めていた職場のように、現役時代と同じようにそれなりに責任ある立場で働くことができても、給与が格段に下がることもあります。多くの人が60歳以降も仕事を続けたいと考えているようですが、皆さんはいかがでしょうか。その際、働き方は次の3つに分かれるでしょう。

リタイア後の3つの働き方と事前準備とは?

今の会社で働き続ける 

今の会社で働き続けるとして、そのときに求められるスキルは何でしょうか。今部下に任せている仕事を自らすることになったら、はたしてできるでしょうか。以前は当たり前にできていたことも、部下に任せていると、いつの間にかできなくなっていることがあります。しかも、後進を指導する立場で、「教えて」とは聞きにくいものです。

もし同じ会社で働き続けるならプレイングマネジャーになって、自分自身もステップアップしていくのが有効です。現場を見ながら、自らも現場仕事を器用にこなせれば、いつまでも会社から求められる存在でいられます。2つのことに同時に目配せしないといけないのは困難な気がしますが、現役時代、すでに2つのことを経験しているわけですから、不可能ではないでしょう。

転職して働き続ける

資格を取得して、まったく別の職種に就くこともあるでしょう。社労士として開業したり、介護福祉士として介護の仕事に就いたりする人もいます。60歳以降、資格を生かしたい人は、定年前に資格をとっておくなど、事前の準備が必要です。そうすることで、情報収集が早めにできるので、その仕事がそもそも自分に合っているかどうかをある程度見極めることができるからです。資格取得時に同じ資格を保有する人と仲良くなれれば、将来的にその人が協力してくれるかもしれません。これらは資格がないと始まりませんが、資格があるだけでは収入に結び付かない点にも注意が必要です。

また、起業して新しい道に進む人もいるでしょう。このタイプの多くは、事前に準備を始めています。退職前に企画を立て、同業のノウハウをリサーチしておきます。そうすることで、始める段階で何が足りないのかがすぐにわかります。ただし、起業は開業後5年以内に辞めてしまうケースが約8割もあるため、事前準備をしっかり行う必要があるでしょう。

最後の3つ目は、無理せず時間を減らすことです。

時間を減らして働き続ける

60歳になると嫌でも体力の衰えを感じるものです。そのため、少し時間を減らして働きたいという人もたくさんいるでしょう。その分収入は少なくなるものの、継続して入ってくるので家計は助かります。そして、自由な時間が増えます。

そんな人は、今までとまったく違った仕事に就くことも可能です。60歳はまだまだ元気に働ける年齢です。いきなり何もしないスタイルに変える前に徐々に減らしていくことで、スムーズに新しい生活へ切り替えられます。現役時代からハローワークの情報を見たり、求人サイトに登録したりすると、情報が送られてくるので、どんな仕事があるのか事前に知ることができます。

多くの人は、どんな仕事に就きたいと考えているのでしょうか。下記のアンケート結果が参考になりそうです。60歳から69歳が理想的に思う仕事を選んでもらっています(内閣府国民生活に関する世論調査より)。

自分にとって楽しい仕事61.4収入が安定している仕事60.6自分の専門知識や能力がいかせる仕事41.3健康を損なう心配がない仕事32.9世の中のためになる仕事30.3失業の心配がない仕事26.4高い収入が得られる仕事15.2その他0.1わからない2.4計(M.T.)270.4

仕事と生きがい、健康には、大きな関係性があります。

60歳以上の人は経済的な豊かさより、心の豊かさを求める傾向にあります。無理をして高い収入を得るよりも、楽しく働きたいと考えています。そして、仕事での達成感は何よりの生きがいになっているようです。仕事は経済を豊かにするだけでなく、心と体の健康にも多くの影響を与えます。ストレスにならない程度に楽しみながら仕事ができるのが、60歳以降の働き方としては最適ではないでしょうか。

そして、老後、最も気になるのが介護です。50歳になると親の介護をしている人は増えてきます。自分は介護される人になりたくないと感じるのも、ちょうどその頃です。私の周りでも、仕事を辞めて数年で認知症を発症した人を何人か知っています。そのことから、私は仕事と認知症の発症には何らかの関係があるのではないかと感じていました。

実際、フランスの研究チームは2014年5月に『European Journal of Epidemiology』誌の中で、認知症を発症するリスクは、仕事を引退したときの年齢が上がるほど減少すると発表しています。この調査は、仕事をなるべく長く続けたほうが、認知症の発症を予防できるということを示しているのではないでしょうか。

このことからも、仕事を長く続けるのは、経済面だけでなく、生きがいと健康の両面でよい結果につながるといえるでしょう。今から60歳以降のこともイメージし、準備を進めていただきたい理由の1つが、ここにあります。50歳を過ぎた人には、これからの長寿時代に合わせたプランづくりをお勧めします。

料理を一品覚えるだけで、人生がガラッと変わる!

今回、64歳になっているAさんには、地域コミュニティへの参加をお勧めしました。地域の自主事業などには、男性向けの料理講座などがあります。一品でも料理を覚えて、作る楽しさが実感できれば、時には奥さんを喜ばせることもできますし、レパートリーの幅を広げられ、料理に開眼するきっかけにもなります。奥さんも、今まで料理をしたことのない夫に作ってもらえたら、どんなにうれしいことでしょう。

ほかにも、趣味の講座も歌や写真撮影など、至る所で多数行われています。地域事業の講座は、費用もそれほどかかりません。同じ趣味を持つ友人ができるきっかけにもなります。楽しい時間を共有する仲間ができれば、孤独な時間を過ごさなくて済みます。Aさんもまた、求人サイトにも登録を済ませ、負担のない程度で仕事にも挑戦しようとしています。短時間勤務で、近くで働けるところが見つかったら始めてみようと、今からどきどきわくわくしているようです。

読者の皆さんも生きがい、健康と経済のゆとりが生まれる未来設計をぜひ立ててみてください。