一見するとこれまでのN700と大きく変わらないように見えるが、実はほぼフルモデルチェンジだというN700S(筆者撮影)

東京オリンピックが開かれた1964年に、世界初の超高速鉄道として開業した東海道新幹線。その歴史は、東京―新大阪間の所要時間の短縮と、超高速鉄道としての安全性・快適性向上に向けた進化の積み重ねだったといえよう。


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今後その頂点に立つ最新型車両、N700Sの「確認試験車」が3月10日、JR東海浜松工場において報道公開され、待望の新型車の全容が明らかになった。

3月20日からは試験走行を開始しており、そこで得られた結果は2020年度から運行を始める予定の営業用車両に反映される。

外観は大差なくても中身は別物

N700Sの「S」は最高水準を意味する「Supreme」の頭文字を取ったものだが、一目見たときの印象では、これまでのN700系と形状は大差ないというのが率直な感想だった。しかし、JR東海の新幹線鉄道事業本部副本部長・上野雅之氏の話によると、内部の機器類はほぼフルモデルチェンジしたという。


日頃利用者の目に触れることはない新幹線のモーター。左がN700A、右が新型のN700S用。高速走行可能な性能を確保しつつ1台あたり70kg軽量化した(筆者撮影)

特に大きいのは、機器類の小型化・軽量化だ。たとえば、台車に搭載した駆動モーターは、電磁石を4極から6極に増やして一つひとつの電磁石を小型化することにより、出力を確保しながらN700Aに比べて約70kg軽量化を図った。制御装置も新型の半導体を用いて小型化され、その分空いた空間にはリチウムイオン電池を搭載し、停電時においても自力走行が可能となっている。上野氏は「現在、最高水準の新幹線電車」と胸を張る。

変わった部分はこのほかにも数多くあるが、N700Sに関する詳細などはすでに記事化されているので、「夢の超特急」世代の筆者はこれまでの東海道新幹線の高速化について振り返ってみたい。


快走する0系(筆者撮影)

東海道新幹線は開業直後、東京―大阪(新大阪)間を超特急「ひかり」が4時間で結んだ。1965年11月から「ひかり」は3時間10分の運転を実現している。最高時速は210kmで、これは1986年に220kmに引き上げられるまで変わらなかった。車両も100系が登場した1985年までは0系の1車種のみだった。

大きな変化が起きたのは、1987年に国鉄が分割民営化され、東海道新幹線がJR東海の路線となってからだ。1992年3月14日のダイヤ改正で、フルモデルチェンジ車の300系が投入されるとともに「のぞみ」の運転が始まった。国鉄時代には「新幹線の最高速度はせいぜい時速250kmまで、それ以上は浮上式鉄道(リニア)に頼るほかない」というのが多くの鉄道関係者の話だったが、鉄道技術の進歩によって270km走行が可能になったのである。

時速270km時代の幕開け

「のぞみ」の営業運転開始に先立つ1992年3月9日には300系の公式試乗会が行われ、午前5時59分に東京を出発した列車は、最高時速270kmで暁の東海道新幹線を疾走した。


「のぞみ」試乗列車に乗車した元国鉄技師長の島秀雄氏(左)と須田寛氏(筆者撮影)

この列車には当時のJR東海・須田寛社長と共に「新幹線を作った男」として知られる元国鉄技師長の島秀雄さんが乗車され「270km/hですか……新幹線も速くなったものです」と語っていたのが今も印象に残っている。300系「のぞみ」により、東京―新大阪間は2時間30分と大幅に所要時間を短縮した。


0系(左)とすれ違う300系(筆者撮影)

300系の次に登場したのが4代目新幹線電車700系で、フルモデルチェンジの大胆な流線形は「カモノハシ」といわれ大人気となった。しかし、最高速度は300系と同様時速270kmのままであった。車両性能としてはすでに300km対応可能だったが、東海道新幹線の開業以来の軌道とカーブなどの影響でスピードアップが思うようにならなかったこともある。

このさらなるスピードアップは東海道新幹線の大きな課題として立ちふさがり、さまざまなメンテナンスが施されてきた。線路の保守、保全や路盤、路床の強化整備などが行われ、同時にさらに高速対応の新幹線電車の開発も進められた。


最高速度引き上げに先立って運転された試乗列車の列車番号は、速度にちなんだ「9285」だった(筆者撮影)


2015年2月25日に運転された時速285km運転の特別列車内で取材する報道陣(筆者撮影)

2007年に登場した700系のモデルチェンジ車N700系は「次世代新幹線」電車として、営業最高時速300kmでの運転が可能な車両となった。前述したカーブなどの影響により東海道新幹線内の最高速度は時速270kmに抑えられたが、従来の700系が多くのカーブ区間では乗客にかかる遠心力が強くなることから最高速度を時速255kmに制限されていたのに対し、N700系はカーブで車体を内側に傾ける車体傾斜機構を取り付けたことによって、カーブでも270kmでの走行が可能になった。

さらに、その後登場した改良型のN700Aは、これまで立ちふさがっていた最高時速270kmの壁を打ち破り、最高時速285kmへの引き上げを可能にした。

285kmでの運転初日となった2015年2月25日、東京発12時23分発の特別列車9285A列車は報道陣と一般試乗客を乗せて発車した。9は臨時の列車の意味、285は最高速度を表す粋な列車番号が付けられ、JR東海の時速15kmアップに対するこだわりが込められた列車番号だった。車内で、JR東海の巣山芳樹新幹線鉄道事業本部長(当時)が運転台から時速285km走行を得意げに告げると、夢の超特急世代の筆者には万感胸に迫るものがあった。

技術の積み重ねで実現した時間短縮

「のぞみ」運行開始当初、最速で2時間30分だった東京―新大阪間の所要時間は、N700系の登場によって2時間25分に、さらにN700Aによる最高速度引き上げで最速2時間22分まで短縮された。これは早朝・深夜の列車だったが、今年春のダイヤ改正からは日中も2時間30分から3分短縮し、2時間27分で走る列車が登場した。たった数分と言うことなかれ、この時間短縮は東海道新幹線の堅実な技術開発の歴史が培った結果なのだ。


N700Sの側面に入った「N700 Supreme」のロゴ(筆者撮影)

このような経過を経て、2018年春にはさらに進化した次世代新幹線電車N700Sが加わることになったのである。この電車は営業運転用の量産車よりひと足早く「確認試験車」として新技術の検証などを行っており、今後は試運転などで走る姿を見ることも増えるだろう。そしてオリンピックイヤーとなる2020年には、営業列車の仲間にN700Sが加わることになる。