家族風呂に入る親子。写真はイメージ(写真:Fast&Slow/PIXTA)

日本人は大の温泉好きだ。火山列島ゆえ、日本中いたるところで温泉がわき出ているということがあるが、新たに温泉を掘って日帰り温泉施設などが多く作られ、各地で盛況だ。

先日、東京の郊外、あきる野市にある「瀬音の湯」に行った。大浴場のほかに貸切風呂があるのだが、そこでの利用制限の説明が気になった。

東京都の条例により10歳以上の男女の混浴が禁止されておりますので、家族風呂、ご夫婦などのご利用はお断りさせて頂きます。

と書いてあったのだ。

貸切風呂=家族風呂と信じていた筆者には奇異だった。

男女別の共同浴場では夫婦や子どもが一緒にお風呂を楽しめないため、貸切風呂があるものだと思っていた。同施設で利用可能なのは、1人利用あるいは同性同士か、介護が必要な場合の入浴だけとのことだった。しかし、今まで、家族で入れる貸切風呂は全国各地の旅館で見てきたので、不思議であった。

旅館と日帰り入浴施設は適用法が異なる

旅館には貸切風呂がある場合も多い。これは基本的に混浴可だ。旅館は1948年にできた旅館業法に基づく、「旅館業における衛生等管理要領」の適用を受けており、同要領は「共同浴室にあっては、おおむね10歳以上の男女を混浴させないこと」としている。貸切風呂についての文言はないので、旅館の貸切風呂は混浴が可能なのだ。

そもそも客室の浴室には混浴という概念もないだろうから、客室から離れた貸切風呂も同様ということだろう。

では秘境の宿などには共同浴場が男女別ではなく混浴のところがあるのはなぜか? これは「目こぼし」だ。旅館業法ができる前から伝統的に存在している混浴の浴場は黙認されているというのが実態のようだ。したがって、現在、混浴で営業中の旅館が廃業すれば、減っていく運命にある。新設は認められていない。

他方、冒頭の「瀬音の湯」のような日帰り入浴施設を規制する法律は公衆浴場法だ。実際には同法に基づき、都道府県あるいは保健所を設置する市または特別区が定める公共浴場条例があり、混浴の規定もここにある。

まず、すべての自治体において公衆浴場条例により原則的に男女の浴室・脱衣室を区分することとされている。したがって、同条例の適用を受ける日帰り入浴施設の共同浴場の混浴はほぼ見かけないはずだ。あったとしても、規制が強化され、廃止されてきているはずだ。水着等の着用を義務付けた施設について例外を認めている自治体もある。

子どもの扱いも自治体によって異なる。異性の大浴場に入れる子どもの年齢制限は9歳以下とする自治体が多いが、6歳以下から11歳以下までバラつきがある。

貸切風呂への対応はさらにバラバラ

貸切風呂についての公衆浴場条例の扱いもバラバラだ。東京都は10歳以上の男女の混浴を認めておらず、貸切風呂についての例外もない。それゆえ今回訪れた瀬音の湯の貸切風呂は共同浴場と同様、10歳以上の男女は利用禁止なのだ。ただ、介護が必要な人を入れる場合は男女であっても混浴とはみなしていない。これについても自治体によって差があり、介護でも着衣を求めている自治体もある。

大阪府では浴場側が入浴者と直接面接できることなどを条件に、家族風呂を同一家族が一緒に入浴することを認めている。兵庫県でも条例を改正し、家族等に限り混浴を認めている。

そもそも旅館では貸切風呂での混浴は許されて、日帰り入浴施設では基本的に許されないのはどうしてであろうか。

明確な公的見解はないが、旅館の場合は旅館業法に基づき、チェックイン時に宿泊者名簿の記載を求められるが、日帰り入浴施設にはそれがないということがある。どちらの施設も浴場の衛生・風紀の維持が求められるが、誰が入浴するか分からないことも対応の違いを生んでいるのかもしれない。

風紀の維持の面では、安易に日帰り入浴施設の貸切風呂の混浴を認めると無店舗型風俗店のサービスなどに使われるといった懸念も自治体担当者にはあるようだ。

旅館でも日帰りプランを設定したり、温泉利用だけを認めているところも多い。逆に日帰り入浴施設に隣接して宿泊棟がつくられるような場合もある。旅館と公衆浴場の区分けも現代人の消費スタイルを考えると意味が薄れてきていると言えよう。

家族で貸切風呂を利用できないことは妥当か

古くは、日本では温泉が溜まってできた野湯の利用から入浴が始まり、男湯・女湯という概念はなかった。人工的な湯船による銭湯が発達した江戸時代でも同様で、1791年に江戸の銭湯での混浴を禁止する男女混浴禁止令が出されたが、混浴は主流であり続けたという。


地方の温泉地などでは混浴が続いてきたが…(写真:YUMIK / PIXTA)

明治になって、西洋人の常識から野蛮とみなされ、今日のような混浴禁止の流れができたが、それでも地方の温泉地などで共同浴場の混浴が続いてきた。共同浴場の混浴は日本の温泉の風情のひとつともなっているが、最近の利用者のマナーの悪さ、カメラの小型化・IT技術の発展などによる盗撮などの増加により、その存続も怪しい。否応なしに廃止の運命だろう。

一方、貸切風呂の混浴禁止は意味があるのだろうか。公衆浴場法の「風紀に必要な措置」として男女の混浴の禁止が進んできた歴史がある。

風紀を乱す利用という問題があるため、未成年や未婚の男女同士の利用を制限する必要は確かにある。家族であれば、利用者を公衆浴場側が確認できるなどの手続きを設けることで男女でも利用を認めるのが妥当のように思う。