あまりやりすぎるとよくないかもと思いつつ…(写真:siro46 / PIXTA)

モノ情報誌のパイオニア『モノ・マガジン』(ワールドフォトプレス社)と東洋経済オンラインのコラボ企画。ちょいと一杯に役立つアレコレソレ。「蘊蓄の箪笥」をお届けしよう。
蘊蓄の箪笥とはひとつのモノとコトのストーリーを100個の引き出しに斬った知識の宝庫。モノ・マガジンで長年続く人気連載だ。今回のテーマは「耳」。あっという間に身に付く、これぞ究極の知的な暇つぶし。引き出しを覗いたキミはすっかり教養人だ。

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1. 音を知覚するための器官、耳

2. 耳はまた、からだのバランスをとる平衡機能に関係する重要な場所でもある

3. 耳は、外から見えている部分はごく一部で、外耳、中耳、内耳の3つの部分から成り立つ

4. 耳介と外耳道から鼓膜までの部分を「外耳」と呼ぶ

5. 耳介は耳殻とも呼ばれ、とくに体の外に突き出ている部分を指して「耳」という場合が多い

6. 外耳は音を耳の中へと集める役目をもつ

7. 鼓膜は直径約10mm、厚さ約0.1mm

8. 鼓膜の奥の空間を「中耳」という

9. 外耳が集めた音を面積比やテコの原理で内耳に向け増幅するのが、中耳の主な役割

10. 中耳には耳小骨と呼ばれる骨があり、これが鼓膜が受けた振動を増幅する役目を果たす

耳という器官

11. 耳小骨は基本的に全206ある人体の骨(成人)のうち、最も小さな骨といわれる


12. 耳小骨は、鼓膜の近くから順にツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨の3つ

13. 中耳は、進化の過程で陸での生活を始めた動物が水中ではなく空気中を伝播する音を聴くため発達させた器官

14. 内耳は、蝸牛(かぎゅう)、前庭、半規管からなる

15. 聴覚に関係するのはこのうち蝸牛のみ。蝸牛はカタツムリの殻のような形で、まっすぐ伸ばしても32mmほど

16. 蝸牛は耳小骨からの振動を電気信号へと変換、聴神経によって脳へと伝達する

17. つまり物理的な音を脳で処理するための神経信号に変換する作業を、耳という器官が担っている

18. 内耳の前庭と半規管は平衡覚に深く関係している。前庭は頭の位置や直進運動の加速度を感じる器官

19. 半規管は回転運動を感じる器官

20. 音の方向がわかるのは耳がふたつあるから。左右の各耳に聞こえる音の、音量と時間の微妙な差を認識し判断する

21. 耳穴の入り口から鼓膜までの距離は約3cm。外耳道はS字状に曲がった形をしている

22. 人間の耳の穴の直径は約5mm

23. 人間の耳は、入口から約1cmの範囲に毛があり、外部からの異物侵入を防ぐ役目を果たしている

24. 外耳道にはアポクリン汗腺という特殊な汗腺があり、タンパク質や脂肪分の多い分泌物を出す。この分泌物がいわゆる耳垢

25. 人間の耳垢には乾型(カサカサ)と湿型(ベタベタ)の2つのタイプがあり、日本人は70〜80%が乾型といわれる

26. 耳垢の乾型と湿型のタイプを分けるのは遺伝子のごくわずかな差による

27. 正常な耳垢には雑菌の繁殖を抑え、皮膚を保護する効能がある。そのため頻繁な耳掃除は必要ないともいわれる

28. 外耳道にはもともと自浄作用が備わっており耳垢を自然に外耳道の外側へ排出するように働く

29. 耳たぶは人間の体の部位のなかで、電位がゼロの場所

30. 外耳道の入口、前方(顔側)にある三角に出っ張った軟骨を「耳珠」、耳たぶの上部にある軟骨を「対珠」という

最古の身体装身具のひとつ

31. 耳の部位によるピアスの名称として、耳珠を「トラガス」、対珠を「アンチトラガス」、耳たぶを「イヤーロブ」、耳輪上部を「ヘリックス」と呼ぶ


耳朶環と呼ばれるピアスホール(写真:Rike_/iStock)

32. 大型の仏像の耳には耳朶環(じだかん)と呼ばれるピアスホールがみられる

33. 縄文時代の遺跡からは石や骨製の玦状(けつじょう)耳飾りが出土。耳朶に穿孔しピアスのように着装したと推測されている

34. 古墳時代の埴輪は耳飾りなどを身につけていることも多く、身分の優位を示す装身具だったと考えられる

35. 「ピアス」は和製英語。本来の「pierce」は「穴をあける」という意味の動詞である

36. 耳につけるアクセサリーを「ピアス」と「イヤリング」に区別するのは日本独特の表現。英語では、ピアスもイヤリングも「earrings」

37. 耳かきが気持ちいいのは耳の中に迷走神経があるため

38. 迷走神経とは脳から出ている末梢神経のひとつで、第10番目の脳神経に当たる

39. 耳かきをすると咳が出るタイプの人もいる

40. 一般に人間の可聴周波数は約20〜2万Hz

41. 犬の可聴域は約65〜5万Hz

42. 猫の耳は10万Hzまで聴き取ることができ、聴力は犬の2倍、人間の4倍以上といわれる

43. 猫の耳の三半規管と前庭は他の動物より発達している。高い所から落ちても安全に着地できるのはそのため

44. 街角でたむろする若者を撃退する音として使われる「モスキート音」は1万Hz前後

45. 耳介は集音器の役割を果たしており、特に2000Hz〜4000Hzの音は、耳介によって100倍近くに増幅される

46. セーラー服はもともと水兵の制服で、大きな襟は耳の後ろでたてて音を集めやすくするために作られた

47. 耳介の凸凹構造は、音源の方向を聞き分ける役目をもっている

48. ウサギの長い耳はレーダー機能をもち、360度の範囲の音を聞き分け、4万2000Hzの高周波まで聞き取る

49. ウサギの耳は第二の心臓とも呼ばれる。ウサギの耳には無数の血管が張り巡らされ、ウサギは耳を外気にあてることで汗を出す代わりに体温調節をしている

飛び出した耳を持つのは哺乳類だけ

50. ゾウの耳が大きいのも体温調節のため。アフリカゾウは気温27℃を超えると耳を動かし始めるという

51. 飛び出した耳を持つのは哺乳類だけ。哺乳類の起源は夜行性であり、暗いなかで音を集めて聴くために発達した

52. 鳥の耳は穴が開いているだけ。通常は羽に隠れている


ミミズクの耳に見えるものは単なる飾り羽で、本来の耳は羽に隠れている(写真:Aishath Boskma/iStock)

53. ミミズクの耳に見えるものは単なる飾り羽で、本来の耳は別の場所に隠れている

54. フクロウの耳は、左右の耳の位置が上下にずれていることで獲物の声や音を正確に判断する

55. フクロウは外耳を持たない代わりに、顔全体でアンテナのように集音を行ない、耳へと誘導している

56. 爬虫類や両生類は耳の穴がなく、体表面に鼓膜がある

57. 魚の可聴周波数帯は50〜5000Hzと狭く、側線という体表面で主に低周波数を感じる

58. スズムシの耳は前足の内側に、コオロギの耳は前足の外側にある

59. バッタや蛾の仲間は後ろ足の付け根に耳がある

60. コウモリは目隠ししても行動できるが、耳をふさぐと位置関係が認識できなくなる

61. クジラの年齢は、耳の孔にたまる耳垢の年輪を数えることで調べることができる

62. 20Hz以下の超低周波は、勝手に家具が動いたりするポルターガイスト現象の正体という説もある


聴覚は最も初期から働く感覚(写真:art-4-art/iStock)

63. 聴覚は最も初期から働く感覚であり、胎児の耳の原型は妊娠6週頃にでき始め、妊娠20週では内耳で音を感じるようになる

64. 人間の耳は軟骨に支持組織と脂肪組織、その表面に皮膚がついて耳を形成している

65. 人間の耳を動かす筋肉は退化し、意図的に動かすことは難しい

66. 鼓膜は皮膚同様に自己再生力をもち、破れたとしても2〜3週間で元に戻る

67. 耳の形はよく遺伝する。かつてDNAや血液型による鑑定が一般的になる以前は耳が親子鑑定に用いられていた

68. 耳からの情報は手足と同様にクロスして脳の聴覚野に伝わる。言語野は左脳にしかないため右耳から入る言語は至近距離で伝わるが、左の耳から入る言語は右脳の聴覚野から左脳の言語野まで遠回りする。その差100分の1秒

69. 成人の耳にとっては、4000Hz前後の周波数が最も感度が高くなる

不思議な耳のあれこれ

70. 静かな場所にいると「キーン」や「ジーン」という音が聞こえる現象耳鳴りの原因ははっきりとは分っていない

71. 声を発するとき、自身では気導音と骨導音の両方を聞いている。録音した自分の声に違和感をもつのは、それが気導音のみであるため

72. 大和三山のうちのひとつ「耳成山」は「みみなしやま」と読む。「耳の形を成す」ことから命名され、『耳なし芳一』とは無関係

73. 小泉八雲の『怪談』の一編『耳なし芳一』の舞台は山口県に実在する阿弥陀寺(赤間神宮)。現在は「芳一堂」が造られ、芳一の木像がある

74. 「耳取」という地名は、東北地方から新潟県までを中心として各地にみられる。多くは台地や山麓を「耳」ととらえ、その端を切り開いて耕地にしたことに由来する

75. 耳のつく地名は、ほかに青森県の耳ヶ吠(みみがほい)、福島県の熊耳(くまがみ)、京都府の耳鼻(にび)、島根県の耳耳浦(みみうら)、群馬県の耳二ツ山、福岡県の耳納山(みのうさん)、鹿児島県の耳取峠など難読地名も多い

76. 「馬耳東風」とは他人の意見を聞き流し、心にも留めようともしないことのたとえ。「馬の耳に念仏」も同様

77. 「壁に耳あり障子に目あり」と同義のことわざは「石に耳あり」「藪に耳」などバリエーションが多い

78. パンの端を「耳」というのは日本だけ。英語では「crust(外側の硬い皮の意)」、中国語では「面包皮」

79. イタリア語で耳は「orecchio」。「オレキエッテ」というパスタは「小さい耳」という意味

80. イタリアでは誕生日に主役の耳を年の数だけ引っ張るという風習がある

81. インド北部に住む男性は、最も長い耳毛を持つ男性としてギネス認定された。その記録は約28cm

82. 「世界一耳の長い犬」としてギネスに認定されたのはコロラド州に住むブラック・アンド・タン・クーンハウンドの「Harbor(ハーバー)」。左耳31.1cm、右耳34.3cm


晩年の15年は全聾となっていたとされるルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(写真:popovaphoto/iStock)

83. ベートーヴェンは20代後半より難聴の症状が出始め、30歳の時にはほとんど聞こえない状態まで進行していた。難聴の原因は耳硬化症とみられている

84. 耳硬化症は鼓膜からの振動を内耳に伝えるアブミ骨の骨細胞が増殖・硬化することで音が伝わりにくくなる症状

85. 画家ゴッホが自らの左耳を切断した事件は、当時共同生活をしていたゴーギャンとの関係悪化が引き金といわれるが、真相は謎のまま

86. デヴィッド・リンチ監督の映画『ブルーベルベット』は切断された耳を空き地で拾うことから物語が始まる

87. タランティーノ監督の映画『レザボア・ドッグス』は「耳切りダンス」というショッキングなシーンが有名

88. 映画『スタートレック』の登場人物スポックは地球人とバルカン人のハーフで尖った耳はバルカン人の特長

89. 欧米では耳栓をライブなどで使用することも多く、シーンや個人の耳のサイズに合わせたオーダーメイド耳栓も発売されている

90. BOSEでは、睡眠時の雑音や騒音をマスキングする就寝用イヤホンを開発。現在は米国限定で発売されている

複雑で繊細な耳

91. 人の脳は耳からの情報を処理する際、雑音のなかから特定の興味ある音だけを選別して聴いている。これをカクテルパーティ効果という

92. 耳には100以上のツボがあるといわれている

93. 夢診断では、“大きな耳”や“耳掃除、大きな耳垢が取れる”夢は、地位の向上、収益の増加などを象徴する吉夢

94. イルカの耳骨化石は稀に日本の海岸でも漂流物として見つけられることがある。その形状から「布袋石」とも呼ばれ、古くから漁師の縁起物として珍重され、最近ではサーファーのお守りとして人気

95. 突発性難聴の患者は年間3万5000人といわれる

96. 突発性難聴の原因は解明されていないが、「ウイルス感染説」「内耳循環障害説」などが有力視されている

97. 加齢性難聴の主たる原因は蝸牛の老化。その老化には遺伝的素因のほか騒音や振動の負荷なども影響している

98. 人間の耳は7000もの音階を聞き分けることができるといわれる

99. 音楽の周波数は「432Hzが最も美しい」という説がある

100. 3月3日は耳の日。「3」が耳の形に似ていること、「33(みみ)」の語呂合わせから日本耳鼻咽喉科学会が制定。

(文:森谷 美香/モノ・マガジン2018年4月16日号より転載)

参考文献・HP/『脅威の小器官 耳の科学』(講談社)、〈中外製薬〉〈Gakken〉〈ポーラ文化研究所〉、ほか関連サイト