1958年竣工の大手町ビルヂング。建て替えが進む丸の内・大手町エリアで、昭和の重厚なオフィスビルの雰囲気を残す貴重なビル(写真・三菱地所)

近年の大手町では、1960〜1970年代の高度経済成長期に建ったビルが、次々に超高層ビルに建て替わっている。


以前はオフィスばかりだった街には、ホテルやサービスアパートメントなどもできて、オフィスワーカー向けの飲食店にも今時の人気店やおしゃれな店が並ぶようになった。

そんな大手町で未だに昭和の趣きを保ち続けているのが、この街の中心で巨大な敷地面積を占めている「大手町ビルヂング」だ。

1958(昭和33)年築で、今年で60周年。太平洋戦争後の戦後復興期の一大プロジェクトとして建設されたオフィスビルである。敷地面積は約3000坪、ビル内を貫通する廊下の長さは200mという、当時東洋一と言われた規模。その当時最新の全館冷房も導入されている。

内装では大理石、列柱の表層には生物の化石も

メインエントランスやエレベーターホール、階段には、トラバーチンと呼ばれる、現在ではオフィスビルの内装として使われることは稀な大理石が使われ、列柱の表層には太古の生物の化石が発見できたりもする。各階の床は、モルタルに石を混ぜて左官仕事で仕上げる擬石(テラゾー)製で、1960〜1970年代のビルの床にはよく用いられている手法だ。


大理石の列柱、テラゾー床などが印象的な1階のエレベーターホール(写真・三菱地所)

「階段の踏み板やテラゾー床の模様の目地、エレベーターの乗り口などには真鍮が用いられており、これが常に美しく金色に光るのは、60年の歳月、清掃スタッフが磨き上げてきた証しです」と、三菱地所ビル運営事業部で大手町ビルを担当する井上祐介さんが教えてくれる。

1階の長い長い廊下は、ビル内にある路地のようにも利用されているようだ。書店やカフェなどが並び、花屋さんとメガネ屋さんは竣工以来のテナントだとか。

地下1、2階の飲食店フロアは、お昼時はたいへんなにぎわいで行列ができている店も。それ以外の時間帯も、地下鉄の乗り換え通路ともなっているため、常に人通りは多い。ビルの周囲を地下鉄5線に囲まれ、各線の駅と連絡しているのも便利な点。

今回取材で初めて2階以上のオフィスフロアに入ってみたが、テラゾー床に重厚なデザインの鋼鉄製のドアが並ぶ廊下は、昭和30年代築のオフィスビルならではの味わい。今時のビルにはない、歴史を重ねてきた物だけが持つ風格を感じる。

築60年の重厚なデザインがイノベーション空間に

大手町地区は、都市銀行、政府系銀行、外資系金融、弁護士、会計事務所といったプロフェッショナルファーム、コンサルティングなどのオフィスが多い国際金融センター。その地域性に合わせて、この大手町ビル内の4階に昨年設けられたのが、テクノロジーを利用して金融に関する技術革新を生み出すための拠点「フィノラボ」だ。近年、フィンテックによってモバイル決済、クラウド会計ソフト、仮想通貨など新たなサービスやシステムが生まれているが、フィノラボは、このようなフィンテックの新たな技術を開発するベンチャー企業の創業、成長を支えることを目的にしている。家具や環境、清掃などのサービス付きオフィスのほか、会議室、ラウンジ、イベントスペースなどを備え、頻繁に入居者同士の交流イベントが行われているほか、仕事上のマッチング、記者発表などの場ともなる。


2016年2月、東京銀行協会ビルに開設された「The FinTech Center of Tokyo,FINOLAB」は、2017年2月に、大手町ビルヂングの4階に拡張移転した(http://finolab.jp/)(写真:三菱地所)

フィノラボ内は、天井はダクトや空調機械が見えるスケルトン仕上げで、一見不完全さを感じるが、壁面は本物のブリックタイルを使用しており、ニューヨークの古いビルのよう。カラフルなデザインの家具が明るい雰囲気を演出している。この地区でもっとも古いこのビルに、意外にも金融とテクノロジーの最先端を追い求める、こんなスペースがあるというのがおもしろい。


イベントスペースでは、セミナーや入居者の交流イベントなどが行われる(写真:三菱地所)

この日の取材では、ビル内の意外な場所をもうひとつ案内してもらった。

それは屋上にある観音様「大手町観音」。ビル竣工時の三菱地所の社長渡辺武次郎氏の発意により、昭和42年に建立された。「毎年春にはご開帳を行い、この地区の就業者の方に参拝していただく機会を設けていますが、毎回たくさんの方がお見えになります」(井上さん)という。

創建時の趣を保ちながら、今の時代にマッチした形で活用されている昭和
のシブいビル。今後もリノベーションしながら使い続けられていくということで、このビルの将来をたのもしく思った。