上映中のシーンに合わせて、着用するベストを通じて振動や衝撃を伝える、新しい形の鑑賞方法が生まれた(編集部撮影)

特殊なベストを装着して、劇中の振動・衝撃を体感できる――。映画鑑賞にまた新しい技術が導入された。

ソニーが研究・開発を進めている最先端テクノロジー「ハプティクス技術」(触覚提示技術)を用いた映画興行「超体感シネマ 『マジジュマンジ』」が、3月29日にオープンしたばかりのシネコン「TOHOシネマズ日比谷」にて、4月5日までの期間限定で行っている。

ハプティクス技術とは、人間の五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)のひとつである「触覚」を、振動デバイス等を使って人工的に作り出し、疑似的に再現する技術のこと。視覚、聴覚と同様に、長年オーディオ分野で培ってきた信号処理技術に基づいた、「身体で感じる新感覚のインターフェース」となる触覚提示の技術を研究・開発し続けてきたという。

映画の振動や衝撃を身体で感じられる

そして、映像・音響技術とを統合したシステム、「ハプティックベスト」を開発。同様の仕組みは、これまで舞台やゲームで使用されたことはあるが、映画の興行で使用されるのは初めて。ベストを着た映画鑑賞システムも世界初となる。

ハプティックベストは、ベストの中に10個の振動デバイスを搭載し、 振動パターン、衝撃の強弱によって無限大の組み合わせが可能。さらに、複数の振動デバイスを連動させた制御により、多様なシーンをリアルに再現することが可能になった。

観客は、劇場に設置されているハプティックベストを装着して、映画を鑑賞する。すると劇中の出来事や演出に合わせて、さまざまな振動・衝撃がベストに伝わる。それによって、観客はまるで映画の中のキャラクターになったかのようなリアルな触感を体感し、没入体験が可能となる。


ハプティックベスト映画初使用となった、 『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』。4月6日からTOHOシネマズ 日比谷ほかで全国公開(MX4D/4DXにて先行上映中)(写真:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)

この装置を体験できる上映イベントが「超体感シネマ 『マジジュマンジ』」だ。仕掛けたのは、ソニーと、上映作品『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』の配給を手掛けるソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、そしてTOHOシネマズ 日比谷を運営するTOHOシネマズの3社だ。

『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』は、4月6日より全国公開予定のアドベンチャー作品で、4人の高校生たちが主人公だ。呪われたテレビゲームの中に吸い込まれてしまった彼らは、体も性格も性別までもが真逆のゲームキャラに入れ替わってしまい、生きて現実世界に戻るために、ジャングルの中でゲームクリアを目指すことに――という物語だ。

TOHOシネマズ日比谷の開業イベントで実現

東京の有楽町・日比谷エリアに13スクリーン約2800席を有する新たなフラッグシップシアター「TOHOシネマズ日比谷」がオープンするにあたり、スタッフが「『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』の宣伝を兼ねて何か面白いことができないか」と模索していたところ、ハプティクス技術の存在を聞きつけ、今回のプロモーションへの活用を提案したという。そこからトントン拍子に企画が実現した。


ハプティックベスト。ベストは、ケーブルで劇場に設置したシステムとつながっている (編集部撮影)

ソニーのグループイニシアティブ推進部・大原弘嗣マネジャーは「ハプティクス技術は10年以上前から研究・開発を進めてきたが、3年くらい前からソニーグループとしてこの技術をエンタメ業界に活用しようと研究開発を進めてきた。世界中で大ヒットを記録している『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』の日本公開がこれからで、TOHOシネマズ 日比谷がオープンする時期でもあった。コンテンツとしての魅力に加えてタイミング的にもバッチリだった」と振り返る。

座席シートの振動や香り・雨風などで、没入感を再現する「4D」技術と違い、身体にしっかりとフィットさせた「ハプティックベスト」は、映画のシーンや演出に合わせた形で、強弱をつけながら振動や衝撃を与えることで「ものに触れている感覚=触覚」をリアルに再現する。それによって、観客は時に、動物に追いかけられたり、カバに食べられたり、ヘリコプターに揺られたりと、劇中のキャラクターの感覚を疑似体験することになる。

今回のプログラミングは日本で行われた。同作を配給するソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの堀内啓映画マーケティング部エグゼクティブディレクターは「専門のプログラマーにお願いしたのですが、その都度、試写を行って調整していきました。たとえば、格闘シーンでは、全部にアクションがついていたが、そこからあえて殴られるところをメインに動きををつけ変えた。(主役の)ドウェイン・ジョンソンに殴られる機会もなかなかないですから」と明かす。


こうした逃げるシーンなど、さまざまシーンに合わせて振動や衝撃を”ベストに表現”させている (写真:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)

さらに、映画冒頭に出てくるソニーのロゴに合わせて振動を起こし、後半の感動シーンではさざ波のように動いて、感動を増幅させる。もちろんドキドキするシーンでは、心臓の鼓動のような振動を加えている。「アクションだけでなく、感情を増幅させるような演出を行うべくディスカッションを積み重ねました」(堀内氏)。なによりも、作品そのものがアクションが多く、“ハプティクス化”しやすかったのも大きかったかもしれない。

既存設備に設置可能、導入コスト減に期待

このシステムは、既存の劇場内の各座席にハプティックベストを仕込むため、4Dシアターのような大規模工事をして新たに劇場設備を造る必要はない。だから導入コストを抑えることが可能だ。とはいえ、プログラミングおよびセッティングなどの準備にはある程度の時間がかかるため、営業中の映画館に仕込むにはハードルが高い。今回はTOHOシネマズ日比谷がオープンするということもあり、前もって設備を仕込むことができたということも大きかった。

「うちがほかのスタジオと違うのは、親会社ソニーの技術が生かせるということ。うちのコンテンツと、ソニーの技術を重ねることで、新しい付加価値を生むことができる。さらに技術、興行、配給という3社のタイミングがうまく合ったことで、この企画が実現できた」(堀内氏)

配信などの躍進により、映画を手軽に観られる時代となっている。そんな中で興行各社も、IMAX、爆音上映、応援上映など、プラスアルファの付加価値を付ける”演出上映”で、劇場に足を運んでもらおうと模索している。

「今回はあくまでもオープニングイベントの一環としてやるものなので、8日間限定となります」(TOHOシネマズ・マーケティング部の中嶋博明氏)と語る通り、3月29日から4月5日までの期間限定上映企画となる。「今後の上映は未定。まずはこの日比谷の興行が成功してから」(堀内氏)とのことだが、座席予約がすぐに売り切れるなど、早くも評判となっている。今後の興行界が手掛ける一手として注目しておきたい。