リニアの開業予定は2027年。ただ談合問題で開業が遅れる可能性も出ている(撮影:尾形文繁)

この事件の被害者は誰なのか。しこりを残したまま、捜査は終結した。

東京地検特捜部は3月23日、大手ゼネコンの大成建設、鹿島、大林組、清水建設の4社および大成と鹿島の土木部門幹部を独占禁止法違反(不当な取引制限)で起訴した。東京地検によれば、4社はリニア中央新幹線の建設工事をめぐり、品川駅(北工区・南工区)および名古屋駅(中央工区)の受注者を事前に決め、入札価格をすり合わせる受注調整を行っていた。

JR東海のみ不問

業界では昨年末にも起訴とうわさされたが、結局年度末までもつれ込んだ。

捜査は一筋縄ではいかなかったようだ。関係者によれば、大成と鹿島は「4社で情報交換はしたが、受注者を決めるといった拘束力はなかった」と否認。

他方で大林と清水は「話し合いが独禁法違反と言われたら仕方がない」と受注調整を認め、課徴金の減免を申請した。だが刑事告発は免れず、課徴金についても免除までは受けられなかった。結局、捜査対象の工事を受注したのが大林と清水だったため、課徴金は減免を申請した両社にのみ科せられるちぐはぐな結果になった。


大成と鹿島は法廷でも徹底抗戦の構えだ。独禁法に詳しい弁護士は「事案が複雑で口頭弁論までに1年はかかるだろう」と指摘する。

特捜の筋書きでは、被害者は東海旅客鉄道(JR東海)ということになる。そのJR東海は沈黙を守ったまま。だが、業界からは「責任の一端はJR東海にもある。なぜ捜査を受けないのか」という不満が募る。

やり玉に挙がるのは、JR東海が採用した入札方式だ。「公募競争見積方式」と呼ばれ、価格と施工技術の両面から受注者を決める。入札方式に関し同社は「価格を抑え、施工品質を確保しつつ機動的に契約を結べる」と説明する。


最低価格の業者が自動的に落札する一般競争入札とは異なり、受発注者間の交渉が絡むため選定プロセスが不透明になりやすい。ある国土交通省発注の工事では技術で4回、価格で8回もの交渉を重ねたうえ、交渉過程を専門の委員会が逐一チェックする徹底ぶりだ。

JR東海がそうしたチェック体制を敷いていたとは考えづらい。都心の大深部や南アルプスを掘削するリニアは難工事とされ、同社もそれを察してか、事前に地質調査やトンネル掘削の研究開発をゼネコンに依頼していた。「見積もりだけでも専門の職員を要するため数百万円はかかる」(ゼネコン幹部)。ゼネコン側も慈善事業として引き受けるはずはなく、延長線上にある工事の受注を暗黙の了解としていた。業界で「汗かきルール」と呼ばれる協力行為だ。

ルート公表前に大成が土地を取得

水面下での接触をにおわせる事実はほかにもある。神奈川県川崎市麻生区で工事中の東百合丘非常口。建設現場の不動産登記簿によれば、2012年3月に大成が購入した土地は、2014年にJR東海へと所有権が移っている。リニアの詳細ルートが公表されたのは2013年。なぜ公表前に大成が土地を入手し、その後JR東海に売り渡されたのか。受注調整の温床はこの時点で生まれていた。

実際の入札でも、土木工事の実績や年間の工事出来高を条件に据えた結果、「土木技術には自信があったが、JR東海が求める出来高に至らず入札できなかった」(中堅ゼネコン幹部)など、対象となるゼネコンが絞られるシステムだった。


価格と技術の二兎を追う入札制度自体に落とし穴があった。公正取引委員会の杉本和行委員長は「(各社の技術力や手繰りなど)事前に工事を割り振らざるを得ない事情があったとしても、価格競争をルールに設けた以上、受注者同士で価格を話し合うのは独禁法違反だ。初めから(特定のゼネコンと直接契約を結ぶ)随意契約なら問題はなかった」と説明する。

唯一、随意契約となっていたのが名古屋駅(中央東工区)だ。同工区ではJR東海の完全子会社がJV(企業共同体)代表を務め、サブに同社の17倍近い売上高の前田建設工業を従える。JV出資比率は規模順が「常識」。地元対策で有力者とパイプの太い企業をJVに加える場合も、その地元企業が代表を務めるのは極めてまれだ。

すべての情報をオープンにすべき

あるゼネコン関係者は「もともと名古屋駅は一つの工区として発注されていた。だがJR東海が急きょ入札を中止し、工区を2分割した」と打ち明ける。ほかの工区で繰り広げられた壮絶な価格競争を、なぜここだけ免れたのか。

一連の騒動を受けて、国交省からは「一般の公共入札と同様に、すべての情報をオープンにすべき」という声が上がる。だがJR東海は、価格が明らかになるとそれが相場となり「価格が下がらなくなる」(柘植康英会長)として、現状ではスタンスを変えていない。


当記事は「週刊東洋経済」4月7日号 <4月2日発売>からの転載記事です

他社も事件の行く末をかたずをのんで見守る。「他社との情報交換は営業活動の一環でよくあること。何が談合に当たるのかがわからなくなった」(準大手ゼネコン幹部)からだ。「国交省主催の勉強会ですら、他社が同席しても大丈夫かと法務部に問い合わせが来る」(中堅ゼネコン幹部)との声さえある。

起訴を受けて、各地の自治体では大成・鹿島を中心に指名停止の動きが広がる。今後のリニア工事についてJR東海は、「指名回避は司法判断が出るまで待つ」としているが、その前に自身の落ち度を点検すべきではないか。