「うるる」の星知也代表取締役(写真:Signifiant)

「人のチカラで世界を便利に」というビジョンを掲げ、「クラウドワーカー」の労働力を活用したビジネスを展開する株式会社うるる。BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)事業、クラウドソーシング事業、そしてCGS(Crowd Generated Service)事業の3つの基幹事業で相互にシナジーを生む戦略、また今後の展望について、星知也代表取締役にお話を伺います。


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2005年創業のうるるは、「Web上にネットワークされた世界中の人の英知・マンパワー」を活用し、働き方のスタンダードを変革することを目指すIT企業。クラウドワーカーと企業のマッチングサイト「シュフティ」、BPO事業、入札情報速報サービス「NJSS」などを運営。2017年3月に東証マザーズに上場を果たす。証券コードは3979。

在宅ワークを働き方のスタンダードにしたい

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):創業以来のビジネス展開についてお聞かせください。2006年の創業時はBPO事業から始まり、次にクラウドソーシングを開始、その後CGS(Crowd Generated Service)の展開を始めた、という理解で間違いないでしょうか?

星知也(うるる代表取締役。以下、星):はい、その通りです。その3つの事業を始めた大前提がありますので、まずはそこから説明させて下さい。私たちは「人のチカラで世界を便利に」というビジョンを掲げているのですが、そこには「在宅ワークという働き方をスタンダード化したい」という思いを込めています。創業した頃はちょうど、「2007年問題」が取り上げられていました。ご存知の通り、団塊世代のワーカーが退職し始める2007年頃に、日本の労働人口が大きく減少し、労働力が不足するという問題です。

当時、在宅でできる仕事は内職くらいしかなく、子供が小さくて外に働きに出られないお母さんや、家族に介護が必要な方がいて外に働きに出られない方の就労機会は非常に限られていました。しかし、インターネットが普及すれば、場所や時間にとらわれずに、外に出ないでも収入が得られる機会を提供することが可能になる。そうすれば、日本の労働力不足を解消することに繋がるのではないかと考えました。

:そして、アルバイトや派遣という働き方が現在ではスタンダードであるように、在宅ワークをスタンダードな働き方にしようと考えたのです。現在はAIに注目が集まっていますが、「人のチカラ」でしかできないことには、特別な付加価値が出せると考えています。「人のチカラ」によって創出した価値を、企業や世の中に提供していくことをビジョンとして掲げた上で、最初に着手したのがBPO事業でした。

BPO事業だけではビジョンが実現できない


星 知也(ほし ともや)/株式会社うるる代表取締役。1976年生まれ。北海道札幌市出身。 高校卒業後、通信機器関連の企業に入社。その後渡豪し、エアーズロックの壮大さに感銘を受け、帰国後に入社した企業において、株式会社うるるを社内創業する(ウルルは、エアーズロックの原住民語)。2006年にMBO。以降、現職(写真:Signifiant)

朝倉:ということは、BPOというビジネスを展開しようという考えよりも先に、在宅の労働力を活用しようという発想があったということですね。

:その通りです。当時はまだBPOという言葉も一般的ではありませんでした。この言葉が普及するようになったのはここ5年くらいです。

朝倉:なるほど、そうでしたか。

:当時、在宅勤務を希望する方々にどういう仕事をしたいかとアンケートを採ったところ、データ入力をしたいという希望を多くいただきました。私たちは、データ入力を事業としたことはありませんでしたが、企業から名刺の入力、アンケートの集計などの作業をアウトソースして頂き、一度私たちが受注して在宅ワーカーに再委託する、というビジネスを始めました。この分野で在宅ワーカーの皆さんへのお仕事を作っていこうということで、「データ入力専門店」というサービスをスタートさせました。


2018年3月期 第2四半期決算説明資料より

こういった経緯もあり、弊社のBPO事業の主力は、今でもデータ入力です。請け負った業務を在宅ワーカーの他、国内外に100社程度あるパートナー企業を活用してデータ化しています。

企業から取ってきた案件を、在宅ワーカーにデータ入力業務として再委託するわけですが、案件が何千、何万と増えていくにつれて、とてもじゃないけど捌ききれなくなりました。つまり、私たち自身の業務量がボトルネックになりつつありました。このビジネスモデルでは、マッチングできる案件数が仲介会社のパワーに依存してしまうことに気付いたのです。これでは、在宅ワークをスタンダードにするという目的が達成できない、と考えました。そこで、私たちを仲介せずに、企業と在宅ワーカーに直接繋がってもらおうと考え、クラウドソーシング事業を開始しました。

朝倉:なるほど。BPO事業では収益性が確保できないということではなく、ビジョンが達成出来そうにないという理由で、クラウドソーシング事業を着想されたわけですね。

:その通りです。当時はまだクラウドソーシングという言葉はなかったのですが、2007年にマッチングサイト「シュフティ」を作りました。現在では37万人の在宅ワーカーに登録して頂いております。


2018年3月期 第2四半期決算説明資料より

朝倉:他社のクラウドソーシングサイトと「シュフティ」にはどのような違いがありますか?

:他社様は、高度な案件が多い傾向にあります。フリーランスのワーカーが本業として扱うようなデザインやプログラミングの案件です。「シュフティ」の登録者は20代から40代の女性で8割程度を占めています。「シュフティ」は、名前の通り、いわゆる主婦の方が多いサイトです。そのため、すきま時間を使ってそれほど難度が高くない仕事がしたいという需要が強いのです。データ収集やコール業務なども人気があります。

朝倉:コール業務というのは例えばテレアポのようなものですか?

:そこまで複雑なものではなくて、たとえばDMの到着確認電話などの自宅で行える簡易的なものです。機器のメンテナンスや受注をするようなコール業務は、在宅ワークではなかなか難しいのですが、「DMを送りましたが届きましたか?」とか「明日の何時に頂いているご予約に変更はございませんか?」というような確認コールは特別な訓練や経験がなくてもこなせます。

在宅ワーカーのチカラを自社プロダクトに結集

朝倉:2007年に「シュフティ」によってクラウドソーシング事業が始まったところまで伺いました。そこからCGS事業を始めた経緯を教えて頂けますか?

:2008年にCGS事業を始めました。CGSというのは、“Crowd generated service”を略した造語です。これは、私たち自身が、在宅ワーカーの労働力を活用したプロダクトを作っていこうという試みです。例えば、「入札情報速報サービスNJSS(エヌジェス)」があります。これは、データベース化された全国の官公庁や自治体の入札情報を一括検索できる月額制のWebサービスです。


2018年3月期 第2四半期決算説明資料より

:省庁、国立病院や独立行政法人などを含む官公庁や自治体といった公共機関の数は約7000あります。こういったところが、道路を作ったり、パソコンを調達したりするときには、すべて入札になります。この入札のマーケットが、年間20兆円と非常に大きいのです。件数で言うと100万案件以上あります。

朝倉:20兆円は大きいですね。

:はい。しかし、入札情報は約7000の官公庁のホームページに、それぞれ開示されています。なので、例えば、パソコンメーカーがパソコンの入札をチェックしようと思ったときには、約7000のホームページを見張っている必要がありますが、これはほとんど不可能であるため、多くの会社が機会損失していると言えます。

こうした入札情報を私たちが、「人力」でデータベース化しました。WEB上の情報なので、ロボットでクローリングすることはある程度は可能なのですが、入札の情報に関してはPDFのスキャン画像が多いのです。

朝倉:ワードファイルでもなくて……、印刷したものをまたスキャンしているわけですね。それはなかなか不思議ですね(笑)。

:はい。なので、クローリングでは全ての情報を抽出できません。OCR(Optical Character Recognition/Reader)によってPDFを文字化する方法はありますが、精度が低いこともあり、「人力」でないと網羅的に情報を収集できないのが現状です。そこで、「シュフティ」のワーカーさんに仕事を割り振ることで、WEBサイトを閲覧してもらい、データベースへの登録をしてもらいます。こうして、年間に100万案件以上をデータベース化し、入札を扱っている企業に月額制で提供しています。

朝倉:そこで自社のクラウドソーシングを活用するわけですね。

自社で展開しているプロダクト

:弊社では、このようなプロダクトをいくつも展開しています。例えば、幼稚園と保育園にカメラマンを派遣する「えんフォト」、タブレットで送信した画像データを在宅ワーカーがリアルタイムで入力を行う「KAMIMAGE(カミメージ)」、コール業務を行う「フレックスコール」、「空き家活用ポータル」というものもあります。空き家が社会問題になっていますので、全国の在宅ワーカーさんに散歩のついでに空き家を探して登録してもらい、それを全国の不動産関係者に提供するというものです。このような自社で展開しているプロダクトをCGSと呼んでおりますが、これが私たちの収益のメインになっています。 シュフティがCGS事業の土台の役割をしているわけです。


2018年3月期 第2四半期決算説明資料より

朝倉:CGSは利益率が高いと伺っていますが、どういった理由がありますか?

:在宅ワーカーに直接業務を発注することによって、コストを下げることが出来るのは想像しやすいと思います。しかし、在宅ワーカーを活用するのは実は難しいのです。というのも、品質の低いものを納品されてしまったり、仕事の途中で連絡が途絶えたりするリスクがあるからです。こうならないように、ディレクションをする必要があるのですが、私たちはこのノウハウを持っています。創業以来、BPO事業をずっとやってきた経験があるからです。

新規事業で既存事業の課題を乗り越える経営

朝倉:御社は在宅ワーカーの力を活用し、BPOやクラウドソーシング、そして自社で運営するCGSを展開されていますが、これらの事業はすべて、在宅ワーカーのアウトプットの質を担保することが重要になるのではないかと思います。その点については、どのような工夫をされていますか?


(写真:Signifiant)

:「KAMIMAGE(カミメージ)」を例にするとイメージしやすいと思います。手書き文字の画像入力を在宅ワーカーがリアルタイムで行うサービスですが、一枚の画像に対して最大4名のワーカーが入力をしていきます。これによって、理論的には99.98%の精度が出せます。中には「ああああ」などの適当な文字入力をする人もいないとは言えませんが、他の人とマッチしないため、適当に打ち込んだものは納品にならず、報酬も発生しません。

朝倉:なるほど。正確性を担保するためのシステムが組まれているわけですね。クラウドソーシングの事業に関してもう一つネックになるのではないかと気になるのが、依頼についてです。いざ依頼主がクラウドソーシングを使ってみようと思ったときに、どういう人に、どうやって依頼したらいいのかがわからないということが少なくないのではないでしょうか。適切な依頼方法がわからないがために、要領を得ない案件が発生しているとも聞きます。こうした課題を解決するためには、依頼する側の依頼内容についてもクオリティコントロールする必要があるのではないでしょうか?

:おっしゃる通りです。そういった問題があるからこそ、現時点においては、ごくごく限られた企業しかクラウドソーシングサービスを活用できていません。そして、ワーカー側にも同じ事が言えます。限られたワーカーしか収入を得られていないわけです。

案件自体は常時1000件ほどありますが、仕事とワーカーのベストマッチができていない案件がまだまだ多いのが現状です。このような問題はAIで解決するなど、様々な部分で改善ポイントがありますが、大きな投資が必要になります。

現在「シュフティ」の売上は全体の3%程度であり、高収益なCGSを多数展開するための土台の役割ですが、少子高齢化や労働力不足が進むにつれて在宅ワーカーを活用する企業が増えて来ると予測されます。将来的には弊社の主力事業に成長させていきたいと考えております。

朝倉:依頼するほうも、働くほうも慣れていないと、安定してクラウドソーシングサイトを使うことができませんよね。だからこそ、CGSによって、プロダクト単位で依頼と仕事を定型化し、「シュフティ」が活きる仕組みを作られているわけですね。

改めて、御社のビジネス展開の経緯は非常に面白いですね。BPO事業から始まり、一度クラウドソーシング事業に方向付けした後、ある種BPO事業と同じように御社がクライアントとして仕事を振る立場に戻ってきているわけですね。

:CGSとBPOの違いを挙げると、BPOはどこまでいっても受託です。フロービジネスであるため売上予測もしづらい上、CGSに比べると利益率が低いという問題もあります。在宅ワーカーへと供給する業務量も、仲介業者としての我々のリソースがボトルネックになってしまうためスケーラビリティがありません。なので、我々が掲げている「人のチカラで世界を便利にする」、「在宅ワークをスタンダードにする」という目的も、BPO事業だけでは達成できません。そこで、スケールさせられるようにクラウドソーシングを作りました。しかし、今度は柱となるような収益を上げるまでには時間とコストがかかることがわかったので、その間投資し続けるのではなく自分たちでプロダクトを作り始め、CGS事業を始めた。こういった経緯ですね。


2018年3月期 第2四半期決算説明資料より

案件とワーカーのバランス

朝倉:今後事業を広げる上では、在宅ワーカー側と発注する企業側のどちらがボトルネックになってくるのでしょうか?

:クラウドソーシングはマッチングを行うプラットフォームなので、案件とワーカーのバランスが非常に重要です。現時点のバランスでは、ワーカーにとってやりたいと思える仕事の案件の量が少し少ない状態のように感じています。

朝倉:その問題についてはどのようなアプローチを取られていますか?

:現状では、そこに対しては最低限のリソースしか割いていません。我々の成長戦略を3つ掲げていますが、いずれもCGSを伸ばすことにフォーカスしています。現在のクラウドソーシングの役割はあくまでも、我々のCGSを伸ばしていくための土台と位置づけています。


成長可能性に関する説明資料より

朝倉:CGSを展開していく上では、ワーカー数が不足するということは考えづらいのでしょうか?

:そうですね。現在37万人の登録者がいることもあり、今のところはその懸念はありません。

朝倉:御社の「成長可能性に関する説明資料」を拝見していると、2015年度と2016年度のCGS事業における利益率が大きく異なっていますね。2015年は、かなり投資されている印象があり、2016年に一気に利益が上がっています。この変化には、どのような理由があるのでしょうか?


成長可能性に関する説明資料より

:確かにあれだけ見るとようやく黒字化したように見えるため、投資家の方からもよく尋ねられる点です。CGS自体は安定して高収益であったのですが、2015年は上場前ということもあり、調達していたお金を先行投資しました。新しいCGSプロダクトを作ったり、既存のCGSに投資したりするなどして、戦略的に赤字にしたというところがあります。

朝倉:なるほど。元々事業自体は高収益であったわけですね。

:CGSについてはそうですね。クラウドソーシングについては、中長期的に見て、マーケットに明るい兆候が見えた場合には一気に投資をして、伸ばしていく可能性はありますが、まだ時間がかかるという印象です。

我々が目指しているのは、「働き方のスタンダード」を変えることなのですが、それには時間がかかるということです。派遣のマーケットは、ピーク時で8兆円、現在でも5兆円程度ですが、在宅ワークがスタンダードな働き方になれば、3兆円程度のマーケットになるのではないかと試算しています。3兆円の市場に対して、例えば僅かな手数料を得られるようなモデルが組めれば、売り上げの柱になる可能性はあります。

CGSの開発に、新薬開発のアプローチで挑む

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):CGS事業の成長戦略についてお聞きします。プロダクト1つ1つを成長させながら、プロダクトの数も増やしていく「かけ算」で成長させていくことになるのではないかと思いますが、現在目標にしている成長率を実現させるためには、どのくらいのペースでプロダクトを増やしていくべきなのでしょうか?

朝倉:新しいCGSは年に1つ以上、事業化していくのが目標です。


2018年3月期 第2四半期決算説明資料より

村上:年に1つ事業化することが適当で、逆に、それ以上やりすぎると、ワーカーの管理やプロダクトの品質管理などに無理が出ることを想定されているということでしょうか。

:その通りです。弊社の規模感では、年に1つ程度が妥当という判断です。会社の成長とともに事業開発への投資を増やしていき、事業立ち上げの数を増やしていきたいと考えています。

村上:プロダクトを立ち上げる際には、ある程度確度が高いものだけを立ち上げていますか? それとも当たらないことも覚悟で立ち上げているのでしょうか?

:我々は新しいCGSを生み出していくことを成長戦略としていますので、ある程度仕組みを作っています。具体的には新規事業を4つのフェーズに分けています。 第4フェーズが既に事業化したもので、入札サービス「NJSS」などが相当します。

朝倉:薬の治験プロセスのように、プロダクトごとに段階に応じて生き残るかどうかが決まるわけですね。各フェーズについて詳しく伺ってもよろしいですか?

:はい。おおむね投資金額の違いです。第1フェーズでは、1つのプロダクトに対してかけるコストを決めてテストすることにしています。このフェーズでは約10個のプロダクトを動かしています。第2フェーズでは投資額が第1フェーズの数倍に、第3フェーズではさらに数倍になります。第4フェーズは一定の規模の収益に到達するところまで育ったものです。そこからどう事業拡大させるかはそれぞれに異なります。

新規事業コンテストはいらない

村上:成長の要をソフトウェアやプロダクトに頼ってしまうと、プロダクトごとに激しい競争に巻き込まれることもあると思いますが、御社は背景にクラウドワーカーを押さえているという強みがありますね。


(写真:Signifiant)

:その通りです。CGSを伸ばしていく上で、自社でクラウドソーシングサービスを持っていることは最大の強みです。また、BPO事業を運営していることで、在宅ワーカーを活用するノウハウが蓄積されています。具体的には、これまで10年以上かけて2万件以上受託して、国内外のパートナー企業も含みますが在宅ワーカーに再委託を行っています。この経験は非常に大きいと考えています。クラウドソーシングを自社で運営していることと、BPO事業によって得られた経験があることが強みになって、新しいCGSを産むことができると考えています。

村上:それだけの経験に裏打ちされ、ニーズを注視しながら生み出したプロダクトでも、そう簡単に成功させるのは難しいですよね。この成功確率のボトルネックは何だとお考えでしょうか?

:事業化したCGSが少ないのは、高収益のものしか残していないからです。収益が低くてもよいということであれば成り立つプロダクトもあるのですが、高収益のものに注力したいという判断です。

村上:投資回収できるかどうかの判断を厳密に行っているわけですね。

:そうですね。アイデアは次から次へと出てきますから。労働力不足で、在宅ワークのニーズは非常に高いので、「これはできないか? あれはできないか?」という問い合わせが非常に増えているんです。

朝倉:なるほど。御社は多数あるアイデアを、常に実際に新規事業化して磨かれているわけですね。社内で新規事業コンテストをやっている会社はありますが、御社ではコンテストは不要ですね。実際に事業化するプロセスでノウハウが溜まりますから、事業開発に興味を持っている方にとっては面白い職場でしょうね。

:そうですね。面白いと思います。たとえば、この間も裁判の傍聴をしてみたのですが……。したことありますか?

朝倉:ええ。法学部でしたので(笑)

:ああ、そうでしたか(笑)。ならお詳しいと思いますが、非常にアナログな世界で、その日どのような裁判が行われるかは、基本的には裁判所に行かないとわからないわけです。裁判所は全国に多数あるわけですが、裁判を傍聴するのを趣味としている人もいます。あるいは、その情報をニュースにするメディアもあります。こういった情報にはニーズがあります。

また、これを単にデータベース化するだけでは終わりません。我々のリソースを使えば、すべての裁判を在宅ワーカーに傍聴してもらうことが可能です。被疑者名、裁判官名、検事名、次回の公判などについてデータベースにすることができれば何かに使えるかもしれません。

朝倉:裁判版のログミーができそうですね(笑)

:そうですね(笑)。使い方次第ですけど、会社が採用を行うときに、被疑者名のデータベースを参照すれば、犯罪歴をチェックすることができます。実際に海外ではこういうサービスがあります。

朝倉:そうか……。日本にはそういったサービスがないんですね。そういえば聞いたことがありません。

:ただ、検討してみたところ、日本にはどうやら「忘れられる権利」というのがあるらしくて、これはちょっと良くないなということになりました(笑)。

このように、「人力」でしか集められない散らばった情報を、一カ所に集めて価値になるといったサービス案は多数あるわけです。今だとロボットで集めるというのが考え方の主流ですが、だからこそ私たちは「人力」でしか集められないものの価値はどんどん上がっていくと考えています。

私たちは、在宅ワーカーがどんなことをできるのか、いくらくらいでできるのか、どれくらい集まるのかなどについて瞬時に計算できます。そのため、アイデアベースの話し合いでも具体的に実現できるのか、いくら予算が必要なのかというのがすぐにわかります。

朝倉:新規事業を考える上で、それは非常に強いですね。

村上:大きく当たりそうなアイデアと、伸びは遅いものの確実に伸びていきそうなアイデアだと、どちらを優先されていますか?

:両方です。「NJSS」が、今の主力サービスなのですが、これは今のまま成長させても何百億円にはいかないマーケットです。ニッチなところなので、大手が入ってこないというやりやすさもあるのですが。私たちは、10億円規模のCGSを作っていけばいいという考え方を元に事業化していますが、この中に、大きく化けそうなものが出てくれば、一気にアクセルを踏みます。

クラウドソーシングの「シュフティ」もそういう位置づけです。これは現在赤字事業でCGSの土台の役割的な位置付けですが、いつかは収益の柱になると思っています。

発想豊かな野武士、求ム

村上:御社は常に幾つかの新規事業を並行して開発されているということですが、新規事業は管理が難しく、また筋の良い事業を生むのも大変難しいと思います。この2点に対しては、何か工夫をされていますか?

:管理する観点では、先ほど述べたように複数の新規事業を4つのフェーズに分けて、投資ルールを定めています。が、実際には、けっこう属人的で、誰かが一人で進めていたものが、いきなり第3フェーズに進むといったケースもあります。仕組みは作っていますが、最終的にはそこで作る人の趣味嗜好や経験に依存しているところも多いのです。

また、新規事業をゼロから立ち上げること以外にも、M&Aも視野にいれています。

朝倉:新規事業を生むには、人が重要ということですね。採用にも力を入れていらっしゃるのでしょうか。

:今まではやっていなかったのですが、今年から新卒採用を始めました。人の育成や採用に力を入れ始めたところです。

村上:アントレプレナーシップが強い人に来て欲しいわけですね。


(写真:Signifiant)

:実は、優秀な人材を採用するための一つの手段が上場でした。上場すればより優秀な人材が入社してくるだろうと考えていました。ただ、ですね……。上場すると、安定志向的な優秀な人材が入ってくるわけですね(笑)。

朝倉:上場あるあるですね(笑)。我々も別の企画で話したことがあるのですが、上場前は一攫千金を狙って「野武士」が来るんですよ。安定的にオペレーションをするのが向いているかどうかはわかりませんが、非常に元気があって事業を推進する人たちですね。

一方で、上場すると、上品な「お公家さん」が来るわけです。『信長の野望』で言えば、柴田勝家みたいな人に来て欲しいのに(笑)。

:まさしく(笑)。それをいま実感しています。母数は増えましたが野心的な人材の選別に苦労するようになりました。

村上:クラウドソーシングの会社というと、安定志向なイメージがあるのかもしれませんね。しかし、実際にやることになるのは、イノベーティブな仕事なわけです。こうなると、社外へのブランディングや、社内でのインセンティブの張り方も難しいかもしれませんね。ビジネスごとに子会社化して、株を渡すというやり方ができればいいのですが。

朝倉:株式会社うるるBPOという子会社を設立されていますが、これは会社を切り分けて一国一城を作ったということでしょうか。

:まさしく。今後もそういった選択肢は考えています。

朝倉:サイバーエージェントのように若い人に事業を作ってもらい、子会社社長として事業を回すところまでやってもらうというイメージに近いかもしれませんね。

:そうですね。本当にこんなサービス作れるのかという突飛な発想を持った人材が欲しいですね。というのも、在宅ワーカーを活用したサービスが今まで世の中になかったため、今までだと我々が手がけるような新規事業は実現できなかったんです。発想が豊かな人が弊社に来ると、きっと面白いと思いますよ。

CGSの未来:人のチカラにテクノロジーを掛け算

朝倉:「NJSS」がしていることは、本来であれば官公庁が自分でやるべきことですよね?

:国が無料で一括検索サイトを提供しているので、あるにはあります。ただ、情報が網羅的でなかったり、使いづらかったりするわけです。

朝倉:「NJSS」では日本全国の入札情報をどの程度カバーしていますか?


2018年3月期 第2四半期決算説明資料より

:ほぼ100%です。「人力」でやることである以上、抜け漏れもゼロではないのですが、人材育成にも力を入れていることもあり、機械で集めるよりも精度が高いです。

「会社はホーム 社員はファミリー」

村上:最後に、経営管理や組織づくりについて伺わせてください。色々な事業がミルフィーユのように多層的になっていく中で、今後は組織のガバナンスがより重要になるのではと感じたのですが、いかがでしょうか?

:ベストな形を目指し改善を繰り返しているところです。例えば、当初はエンジニアについては、横串の組織でした。それを事業部専属に変えてみたり、ロイヤリティを変更してみたりなど、試行錯誤しています。

村上:クラウドワーカーの管理以上に、御社内の組織管理が実は一番大変なのかもしれませんね。

:我々は、創業以来、組織作りに非常に力を入れています。「会社はホーム 社員はファミリー」というような標語(=うるるスピリット)がありますし、そのスピリットを浸透させるためにイベントを行い、社員が納得して働けるような環境作りについてはずっと力を入れています。正直、何もしなかったらバラバラになります(笑)。

朝倉:今後、ますます事業が広がっていく中で、組織の遠心力が働きすぎないように、強いカルチャーが必要になるということですね。事業が広がり会社が次の段階に進む成長痛なのかもしれませんね。

今日は御社の可能性について詳しくお話しいただき、ありがとうございました!

(ライター:中村慎太郎)