深刻化する事業承継問題、中小製造業が選んだM&Aという道

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 優れた技術を持っていても、後継者不足から廃業せざるを得ない―。経済産業省・中小企業庁の試算によると、今後10年間に70歳を超える中小企業経営者は約245万人となり、その約半数に当たる127万人は後継者が未定という。こうした状況下、事業承継の手法としてM&A(合併・買収)を使い、技術や知見を承継しつつ発展させている企業がある。中小製造業が集まる大阪の事例から、支援のあり方を探った。

美販、梱包事業を多様化
 美販(大阪府東大阪市、尾寅将夫社長)は、2017年7月、クリアパッケージを製造する淀(よど)紙器製作所(大阪市城東区)を買収した。淀紙器製作所は元社長が亡くなり、事業を引き継いだ元社長の母親が、17年8月までに事業売却または廃業を検討していたという。

 尾寅社長は、美販が得意とする梱包(こんぽう)資材の製造・販売事業を多様化したかった。銀行から淀紙器の紹介を受け、同社のクリアパッケージ技術を取り込み製品開発を進めた。屋号や雇用を維持し、事業を引き継ぐのが条件。尾寅社長は「設備や技術力のある従業員を生かし、外注してきたクリアパッケージを内製化できる」メリットを強調する。

ノースヒルズ溶接工業、テレビ会議で意思疎通
 試作に強いノースヒルズ溶接工業(大阪府東大阪市、北坂規朗社長)は、16年4月に真空装置を製造する豊栄製作所(同豊中市)を買収。両社は液晶・半導体製造装置を扱う取引先を持っていた。北坂社長の狙いは「自社の部品試作と、豊栄製作所の装置生産ノウハウを組み合わせ、付加価値のある製品を販売」すること。

 北坂社長はまず、両社の情報共有を進めた。技術的な話を含め、「全体で交流できたのは年に1回程度だった」からだ。そこでテレビ会議を使い、意思の疎通を図っている。

 年齢構成も課題。20代の若手が多いノースヒルズと比べ、豊栄は平均年齢が60歳以上と高齢化が進む。豊栄は若手採用を通じ、2年間に従業員10人の平均年齢を40代に引き下げる考えだ。その上で、「今後数年間は引き継ぎ期間」と位置付ける。「M&Aを通してメーカーとして成長したい」考えだ。

横山機工/成長には課題も
 ただ引き継ぎ後、成長軌道に乗せることは一筋縄ではいかない。工具商社の横山機工(大阪市福島区、横山利治社長、06・6452・0151)は、同じ区に本社を構える精密部品加工メーカーの三陽鉄工(現三陽アキュラシー)を14年1月に買収した。メーカー機能を持つ“ハイブリッド商社”を目指し、子会社化した。

 両社の社長を兼ねる横山社長は、「異なる企業文化を持つ従業員の交流を図り、経営体質を立て直すには時間がかかる」点を指摘する。買収当時、三陽鉄工は倒産を決めていた。手に入れた企業が製造業である以上、「設備を担保に借りた資金の返済や、老朽化設備の更新資金が必要」(横山社長)といった課題が横たわる。

 現在は、コンサルタントの協力を得ながら「月1回の会議を通して従業員の協調や生産性の向上」を図っている(同)。これまで三陽アキュラシーは9人を新規雇用し、製造部門は12人体制とした。従来の取引先と信頼を維持しつつ、展示会などで新規顧客の開拓に取り組む。

 事業承継の遅れは、政府が政策課題として掲げるほど問題は根深い。検討を先送りすることにより、機を逸して廃業もできず、倒産せざるを得ない場合もある。

大阪府事業引継ぎ支援センター統括責任者に聞く
 わが国は“モノづくり立国”を掲げるだけに、進まない中小製造業の事業承継は深刻な問題だ。大阪府事業引継ぎ支援センターは近畿経済産業局から受託し、中小企業の相談窓口やセミナーなどを通じ、事業承継を後押ししている。中小の事業承継に、どのような支援が必要なのか。上宮克己統括責任者(プロジェクトマネージャー)に、これまでの成果や今後の支援の在り方などを聞いた。

 ―支援の現状は。
 「承継問題を抱える中小企業向けに、年間約20回セミナーを開催している。親族内、従業員、M&A(合併・買収)による事業引き継ぎといった承継の方法や、そのメリットとデメリットについて事例を挙げながら説明している。個別相談は従業員の継続雇用、取引先の維持など希望する条件を基に、登録している6社のM&A仲介機関を紹介している」

 ―M&Aの成果と傾向を教えて下さい。
 「2011年10月に開始して以降、全体の相談件数は18年3月時点で1525社。そのうち当センターが直接支援し、成約に至った件数は56社。だが、17年度だけで25社の実績だ。支援機関へ紹介した件数は累計201社。このうち17年度は68社と、相談する事業者数が増えてきている。ここ2年くらいは製造業の件数が増え、全体の約半数を占める」

 ―金融機関などとの連携は。
 「銀行などの金融機関を中心に、17年度は15回の研修を開いた。支店長や次長を対象に、約10人規模で当センターの支援形態や、案件へ対応する方法などを講義する。案件を当センターへ提供すると、業績評価へ反映する金融機関も出てきた。また、約20機関からなる連絡会議に参加している。当センターと金融機関により成約に至った事例を紹介し、意見を交換して連携を強めている」

 ―中小は地域に密着しているだけに、事業承継問題と向き合うには地域の連携が欠かせませんね。
 「大阪商工会議所が、18―20年度にかけて『事業承継1万社支援アクション』を実施する。当センターを通じて金融機関やM&A仲介事業者などとのネットワークを強化し、円滑な事業承継につなげる。経営者のニーズを掘り起こし、企業へ積極的にコンタクトを取ることにより、幅広い相談に応じることが重要だ」