開発進む茨城・水戸市(「Getty Images」より)

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 東京の人口が増え続けている。2月1日現在の東京都の人口は1375万6461人(推計値)で、前年同月に比べ10万人以上も増加している。東京への一極集中に歯止めがかからない状況だ。

 そうしたなか、興味深いレポートが発表された。企業の首都圏一極集中に歯止めがかかりつつあるというのだ。帝国データバンクの特別企画「1都3県・本社移転企業調査(2017年)」である。

 調査結果によると、2017年に1都3県(東京都・埼玉県・神奈川県・千葉県)に転入した企業は289社で、2年連続の前年比減少となった。一方、1都3県から転出した企業は279社と、14年以来3年ぶりに前年を上回った。トータルでみると10社の転入超過で、7年連続の転入超過となった。7年連続は戦後最長の景気回復局面である「いざなみ景気」の期間における6年連続(03〜08年)の転入超過を上回る。

 だが、15年の転入超過は104社、16年は93社だったことを考えると、転入超過の数そのものは大幅に減った。

 その背景には何があるのか。同レポートは「近年は、地方へ企業の本社移転を後押しする政府や自治体による税優遇措置などの制度が拡充。これらを活用し、首都圏から地方への本社移転の実施・検討を行う企業も出てきており、首都圏での本社移転をめぐる状況に変化の兆しが見られる」と指摘している。

●転出先人気ナンバー1 茨城の魅力は?

 転出転入状況をもう少し詳しくみてみよう。

 転入企業289社の元の所在地(転入元)は40道府県。上位は大阪府67社、愛知県25社、茨城県17社、静岡県・兵庫県各16社、北海道・福岡県各15社、群馬県14社、福島県11社、宮城県10社となっている。

 一方、転出企業279社の転出先は37道府県。上位は茨城県40社、大阪府39社、愛知県22社、福岡県18社、静岡県16社、栃木県14社、北海道11社、京都府10社、山梨県・長野県各9社と続いている。

 大阪、愛知、茨城といったところは転入、転出ともに上位に入っている。注目は転出先ナンバー1となった茨城県だ。前年の24社から40社と移転企業が増え2年連続でトップとなった。茨城県といえば、日立グループやつくばの研究都市のイメージが強い。なぜ、茨城県の人気が高いのか。

 レポートをまとめた担当者はこう分析する。

「茨城県をはじめとする北関東地方への転出が増えている理由のひとつは、高速道路や新幹線などの交通網が整備され、首都圏からの交通アクセスが一段と向上したことがあります。さらに、首都圏に比べ地価が手ごろなため、より広い本社・生産拠点を確保できるというメリットもあります。そのうえ茨城県には港もあります。移転しているのは製造、物流関係の企業が多いですね」(帝国データバンク産業調査部の担当者)

 茨城県では、今年3月までの間に県内に工場等を新設した企業を対象として県税の課税免除を実施するなど、企業誘致に積極的だ。こうした優遇措置に加え、アクセス、物流、本社や工場用地確保のしやすさなどの好環境が茨城の魅力を高めているのだろう。

●前年の16位から4位に大幅アップした福岡県

 首都圏からの転出先で注目されている県がもうひとつある。それは福岡県だ。

 16年の福岡への転出企業はわずか4社だったが、17年は18社と4倍以上になった。順位も前年の16位から4位へと大幅にアップした。首都圏から遠い福岡にわざわざ移転する理由は何だろうか。

「近年、首都直下型地震や南海トラフ地震等の震災リスクを避ける動きが出てきています。福岡への移転理由のひとつですね。さらに、100万人都市を抱える福岡県は経済成長が続いているうえ、人材確保でも優位性があります」(帝国データバンクの担当者)

 東京・秋葉原に本社を置いている新ケミカル商事(資本金4億円・売上高約600億円)は昨年9月、18年4月に本社を福岡・北九州市に移転すると発表した。もともと新日鉄住金化学の商事子会社として再編された同社は、14年にスタートした中期経営計画の重要項目「地域戦略の更なる推進」のために移転を決めたという。移転発表のリリースで「重要な取引先が多く立地し、中国、ASEAN諸国との都市間連携を推進している北九州市と連携することで、更なる成長を目指していきます」としている。このほか、県外からの移転ではないが、LINEの子会社LINE Fukuokaは16年5月に、福岡市内の3拠点を博多駅直結の九州最大級のオフィスビルに集約し、新しいオフィスを構えた。

 福岡地域は経済が活性化し、マーケット規模からも人材確保からもメリットがある。しかもアジア諸国とも近く、空港や港などインフラも充実している。製造業からIT(情報技術)、金融まで幅広い企業が注目しているエリアだ。

 20年の東京五輪開催に向け、人口は東京一極集中が止まらない状態だ。しかし、企業の一極集中には確実に変化の兆しが表れている。政府や地方の税優遇措置、地方発の魅力ある情報発信、ITの進展を背景としたテレワークの導入などがうまく絡み合っていけば、企業の地方移転の動きが加速する可能性がみえてくる。
(文=山田稔/ジャーナリスト)