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入社1年以内に辞めてしまうのはなぜでしょうか(写真: EKAKI / PIXTA)

桜が咲き、春が訪れると職場は活気に溢れます。入社式を経て、新入社員が元気に入社してくるからです。大学を卒業したばかり社会人1年生が醸し出す高揚感が先輩社員たちに伝わります(もちろん、すべての新入社員に高揚感があるとはいいませんが)。

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「よろしくお願いします」「質問してもいいですか?」と一生懸命に話しかけてくる姿勢が「新たな気持ちで仕事に臨まねばならない」と仕事に対する意欲を高めてくれます。

筆者にも同様の経験があります。入社して数年後、新入社員が1000名近く入社し、筆者の職場では所属する社員の3分の1が新人に。教える相手の多さに悲鳴を上げそうになりましたが、熱心に学ぶ姿勢で職場が活気づいたことを鮮明に覚えています。

みなさんの職場には新入社員が配属されましたか? ちなみに世間は売り手市場です。キャリタス就活の調査(2018年10月)によると、就職活動で志望度合いが高い会社に入社できた新入社員は7割を超えています。

新入社員たちは期待値が相当に上がっている

こうした状況下、新入社員たちは、接客がしたい、専門性を身に付けたい、地方創生に貢献したい……など、入社後の「やりたいこと」に対して期待値が相当に上がっているようです。

取材した広告代理店に入社したSさんは、就職活動で第一希望の会社に入社することができました。面接で入社後にやりたいこととして「広告業界の新たなトレンドになるようなCMをつくりたい」と熱く語り、それを一日も早く実現したいとやる気満々の様子。ただ、そうした新入社員に冷めた意見を言う社員もいます。たとえば、大手メーカーで人事部経験があり、現在は営業部に勤務しているDさん。

「1年以内に辞める新入社員が相当いる。期待をかけても裏切られるだけ」

高揚感などすぐに冷めてしまう。辞める可能性があるから期待しすぎるな……ということなのでしょう。

確かに入社1年以内に辞めてしまうのは残念すぎる結果です。ただ、そうした残念なことが全国の職場で当たり前のように起きています。以前から新入社員は3年で3割が辞めると言われていますが、実は1年以内に結構な数の人が辞めます。厚生労働省の調査によると入社社員は1年以内で約5万人、つまり「10人に1人」が会社を辞めています。しかも、この傾向は長年続いています。この早期退職は会社にとっても、新入社員にとっても大きな機会損失です。

新入社員が辞めてしまうのは…

なぜ入社1年以内で10人に1人の新入社員が辞めてしまうのか? 社会人の先輩社員からすれば石の上にも3年でありませんが、不平不満を感じても我慢するべきといいたいところ。筆者も新入社員時代は辞めたいと思ったことが何度もありました。環境の変化や上司・先輩の厳しい指導など、入社時点での期待とのギャップには心が折れそうになったことを思い出します。

ただ、そうしたギャップも、入社1年くらいかけて受け入れていきました。こうして1年以内の退職は回避されたのですが、やはり中には辞めてしまった同期もいました。1年以内に退職しなければならないほど、耐え難いことがあったのでしょうか?

ちなみに対象を20代に広げて退職理由をインタビューしたことがあります。多かった理由は職場での「人間関係」でした。何年間か勤務して職場の雰囲気もわかってきて、合わない……と感じての決断なのでしょう。ただし、会社に伝えた退職理由は「結婚」や「家庭の事情」。家庭の事情と言われてしまうと会社側も踏み込みにくいから。大人の人間関係と気配りを垣間見ることになりました。

ところが入社1年以内の若手社員に限ると、少々違うようです。エン転職による退職理由の調査で25歳までの若手社員は「やりたい仕事ではなかった」(25歳以下:31%、全体:16%)と「ミスマッチと断定した」からという理由が突出しています。まさに会社を見切ってしまったということ。

寄せられたコメントを見てみると「お客様のことをまったく理解していないと感じ、私に合わないと思った」「自ら考えて自発的に行動することは許されなかった」「ルーチンワークで飽きてしまった」など。おそらく最初に配属された職場の仕事で、この会社での将来を“見切って”しまったのです。人生の先輩たちからすれば早すぎる判断に思えてしまうのですが、果たして新入社員の見切りは正しいのでしょうか?

人生の先輩からすれば1年以内に辞めて大丈夫なのか?と心配になりますが、見切れる背景があるようです。それは(学生時代の)就活のやり直しともいえる転職市場=第二新卒市場が醸成されているからです。

大手転職紹介会社=いわゆるエージェントには入社1年以内に会社を辞めても「まったく問題ない」と思わせるほどの求人数が集まっています。さらに「3年は我慢しろというのは間違い。3年は長い。我慢してやる気がさらに下がるくらいなら、早く辞めて次の仕事に就くほうが幸せになれる可能性が高い」等と、早々の退職を促すメッセージが転職サイトで随所にみつけることができます。

ならば、転職相談にいってみよう……とエントリーしてみると、入社1年以内は新卒扱いとする会社を何社も紹介されます。入社した職場で思った仕事ができない状態になったとき、学生時代の就職活動のやり直しが可能だと言われたら……転職を決断したくなるのは自然なことかもしれません。

それだけ今の若者は、入社した会社でしばらく我慢して可能性を探ることをしなくなっているというとは、会社側が理解しておく必要があります。

若手人材の採用に困っている

それだけジェージェントが入社1年目にも積極的に転職を促すのは、企業が若手人材の採用に困っているから。でも、お互いが採用に努力した社員を失う状態になっているともいえます。さらに2020年までは景気が右肩上がりと予想される中、求人数も増加。入社1年目での退職率がさらに上昇する可能性もあります。さて、会社側はどのように、この問題に向き合うべきでしょうか?

最近は日本を代表する総合商社や金融機関でも1年以内に退職する新入社員が目立つようになってきたようです。会社としても入社早々に退職する社員を想定していないので、職場での混乱も起きていると聞きます。

新入社員から「思っていたのと違う」と見切られ、辞められる前に、

・入社前から職場環境の説明を行う

・入社後のキャリアカウンセリング

などコミュニケーションを増やして、“ギャップ”を埋める取り組みを増やすことが重要ではないでしょうか。

ただ、もう1つ考えておくべきなのが、人事や職場の上司・先輩社員がどれくらい丁寧にケアしても1年以内に辞める新入社員はいるということ。もはや入社時点でのお互いの価値観がミスマッチであった可能性があります。こうした1年以内に辞めてしまった社員の特徴について分析をし、1年以内退職予備軍はそもそも入社させないという発想も必要かもしれません。

最近の学生は自分なりのキャリアプランを事細かに描く傾向があります。このプラン通りにならないのであれば辞めるという意思が強く、会社が期待通りのキャリアプランが提供できないとすれば、そもそも採用することはお互いにとって不幸な結末になるともいえます。入社後のケアだけでなく、採用時点での対策も行い、1年以内に辞める新入社員を極力減らしていきたいものです。