どうやって屋上に上げたか気になりませんか?(写真:ikuyan / iStock)

身近で活躍する「モノ」にはすべて、「活躍できるだけの技術」がある。だが私たちは、それを意識することはほとんどない。たとえば建設現場、ビル屋上の「タワークレーン」。これを見たとき、「クレーンをどうやって屋上に上げたのだろう」と思ったことは誰にでもあるはずだが、実はこのクレーンのしくみに「すごい技術」がうまく生かされているのだ。
新刊『雑学科学読本 身のまわりのすごい技術大百科』を著したサイエンスライターの涌井良幸・貞美両氏に、身近にあるモノの構造やしくみについて、イラストを使いながらわかりやすく解説してもらった。

建設現場でよく見る「タワークレーン」の謎

高層ビルの建設工事、一番高いところで大活躍しているモノがある。そう、「タワークレーン」だ。建設現場でもよく目立つので、道すがら、工事の様子をなにげなく見物する人たちの人気者といってもいいだろう。

タワークレーンは高層ビルの建築に欠かせない。低層のビルならクレーン車で資材を最上階まで上げられるが、高層ビルだとそうはいかないからだ。資材を最上部に持ち上げるには、どうしてもタワークレーンの力が必要となる。

ところでこのタワークレーン、建設過程でちょっと不可思議なことが起こる。ビルの成長に合わせ、自分自身も高い位置にどんどん移動していくのだ。


タワークレーンのクライミング(イラスト:小林哲也)

タワークレーンの一連の工事の流れは、〜箸瀘て▲ライミング2鯊里箸い順で行なわれる。,痢崛箸瀘て」は、足場を固める作業。次の△任蓮▲咼襪寮長に合わせ、クレーンを尺取虫のようにはい上がらせていく。の「解体」では、親亀・子亀・孫亀方式で屋上から分解していく。すなわち、ひと回り小さい子クレーンを元の親クレーンの隣に設置し、それで親クレーンを解体する。

次に、その子クレーンはさらに小さい孫クレーンを隣に設置して解体。これらを繰り返すことで、用済みのクレーンは地上に下ろされるのだ。そして、最後に残った解体用クレーンは人力で解体し、エレベーターで階下に下ろされる。

「マストクライミング」と「フロアクライミング」

尺取虫的にタワークレーンがクライミングする方法には、クレーン本体がマスト(本体を支える柱。帆船の「マスト」に見立てている)を昇る「マストクライミング」と、工事の進捗と共に工事中の鉄骨を使って土台部分を階上に上げる「フロアクライミング」がある。

前者は超高層マンション建築、後者は超高層ビル建築によく利用される。なお、電線の鉄塔を立てる際にもクレーンのクライミングが用いられる。山奥に鉄塔が立っている謎も、これで解消するはずだ。


タワークレーンの解体(イラスト:小林哲也)

都会には超高層ビルが林立している。地震多発国の日本なのに大丈夫かと心配になるが、備えはなされている。「耐震」「制震」「免震」と呼ばれる技術である。

1963年以前、日本では高さ31メートルを超える高層ビルの建築は法的に許されなかった。しかし、技術の進歩などにより法律が改正され、100メートルを超えるビルの建築も可能になった。その最初が東京にある「霞が関ビル」である。このビルが日本の高層建築の口火を切ることになる。

霞が関ビル以前のビル建設の地震対策には「耐震構造」がとられていた。鉄筋コンクリートで柱と壁を強くして地震の揺れに対抗する「剛構造」である。しかし、100メートルを超える高層ビルに適用すると、鉄とコンクリートの量で実用に耐えなくなってしまう。そこで採用されたのが「制震構造」だった。地震の揺れに合わせて建物を適度に揺らし、エネルギーを分散・吸収する「柔構造」の建築法だ。


「揺れ」を吸収する3つの構造(イラスト:小林哲也)

柔構造理論の発想には五重塔の技術が利用されている

柔構造理論の発想には、古寺にある五重塔の技術が利用されている。関東大震災で、東京でも多くの建物が倒壊するなか、上野寛永寺の五重塔は元の姿を保っていた。それを見た建築学者が構造を調べ、現代に活かしたのである。「心柱制振」と呼ぶ構造で、2012年に竣工した東京スカイツリーにも採用されている。

2011年の東日本大震災では、高層ビルが長周期振動で大きく揺れ、けが人も出た。これは柔構造の欠点である。ビルは壊れないが、大きく揺れることがあるのだ。現代では、この揺れも抑えようとする技術が開発されている。それが「免震構造」である。

免震構造はゴムなどの変形しやすいものからなる装置の上に建物を構築し、地震エネルギーが建物に伝わりにくくする方法。これに制震構造を組み合わせることで、地震の揺れを大きく低減させることができる。

耐震、制震、免震のどれが優れているのかは場合による。あくまで建築目的に合う技術が採用されているのである。


五重塔を模した東京スカイツリーの構造(イラスト:小林哲也)

今さら聞けない「ゴミ収集車」のしくみ

ゴミ収集日に大活躍するゴミ収集車。作業員がゴミを入れると、回転板が器用にそれを押し込んでくれる。だが、そもそも収集車の構造とはどんなものなのかは、意外とよく目にするクリーンパッカー方式(略してパッカー車)を例に、そのしくみを説明しよう。

パッカー車は、主に燃えるゴミの収集に利用される。後部に回転板が2枚配置され、これが組み合わさって回転することで、ゴミを運転席側に押し込む。そして収集を終え、ゴミ処理場に戻ると、詰め込んだゴミを仕切りの排出板で外に押し出す(ダンプカーのように荷台を斜めにして圧縮ゴミを排出するものもある)。


クリーンパッカー車の構造(イラスト:小林哲也)

ゴミ収集車には、パッカー車以外にもいくつかの方式(プレスローダー方式など)があり、大きさの違いもあるが、この多様性には理由がある。1つは、集めるゴミ・集める地域に適した方式と大きさが要求されるという、至極当然の理由だ。

ゴミ処理施設の建設費が高騰している


もう1つ隠れた理由がある。ゴミ処理施設の建設費が高騰しているのだ。処理施設、特に焼却施設は公害対策のため高度な技術が要求される。また、エコ社会の実現に向け、燃やした廃熱で発電する施設を併設するのも時代の流れだ。当然、建設コストは膨大となり、小さな自治体が建設するのは財政的にも困難。そこで、いくつかの自治体がまとまって1つの処理施設を作り、利用するというネットワーク方式が一般的になりつつある。

ネットワークに対応するには、多様なゴミ収集車が必要になる。家庭からのゴミは小型収集車で中継施設に集め、そこでさらに圧縮して大型収集車で処理施設に運ぶ。このようにして、効率的なゴミの移動と処理を可能にしているのだ。


ネットワーク化されるゴミ収集(イラスト:小林哲也)

この記事では、私たちが日々の外出時になにげなく目にしている“すごい技術”を簡単に解説したが、「身近なのにそもそもよく知らない」ことは、あなたの身のまわりにも実はたくさんある。ちょっとだけ目を留めてみるだけで、日常がもっと楽しく、より刺激的なものになるかもしれない。