プロ野球観戦の形が変わろうとしています。写真はイメージ(写真:iStock/Yurdakul)

衛星放送のスカパー!が“黒船”DAZN(ダ・ゾーン)によって、Jリーグの全試合中継を終了してはや1年。そのDAZNは、昨年広島東洋カープと横浜DeNAベイスターズの2球団でプロ野球中継に参入したが、今シーズンは巨人以外の11球団主催の公式戦全試合を放送する。

CS、BS、インターネット放送と、無料の地上波を除くすべての放送媒体で、Jリーグと10年にわたる独占契約を結び、他の事業者をすべて排除したDAZNの上陸は衝撃的だった。それまでスカパー!がJリーグに支払ってきた放映権料は年間約50億円だ。DAZNが提示した10年2100億円という金額は、単純計算でおよそ4倍になる。

「DAZNの金額には番組制作費も含まれているが、それでも実質倍以上の差だった。とても太刀打ちできる金額ではなかった」(スカパー!の運営会社・スカパーJSAT社の小牧次郎取締役執行役員専務)という。

しかしプロ野球についてはDAZNの独占契約ではないため、1997年からプロ野球の公式戦の放送を続けてきたスカパー!の放映権が奪われるわけではなく、スカパー!は今シーズンも全12球団の公式戦を生中継する。


視聴者にとっては、DAZN以外のメディアでは見られなくなったJリーグとは異なり、純粋に放送チャネルが1つ増える。

スカパー!は送信事業者

DAZNがプロ野球参入を公表したのは今年2月16日。翌日の全国紙でスカパー!のプロ野球中継が、12球団の全試合ではなく、「一部試合」と報じられた。

このため、全球団全試合の放送ができなくなるのではないかとの誤解を生んだが、「プロ野球の送信契約は1年単位で、毎年全球団との契約が完了するのは3月20日頃。2月16日の時点ではまだ契約が完了していなかったので、発表できる段階ではなかった」(小牧取締役)

地上波の放送局は、自身が制作した番組を視聴者のもとへ届ける送信機能も持っているが、CS放送の放送局は持っていない。各放送局と送信契約を締結し、視聴者への送信業務を請け負っているのがスカパー!だ。


【4月2日17時30分追記】上記図表の各放送事業者の名称と、衛星放送・ケーブルTVの関係に誤りがありましたのでお詫びして図表を差し替えます。

スカパー!自身も自主放送用のチャンネルを持ってはいるが、スカパー!で放送しているチャンネルの大半は、送信業務を請け負っているチャンネルだ。

送信以外に顧客管理や番組情報の提供、プロモーションも手掛けており、堺雅人さんを起用した、全球団バージョンをそろえたプロ野球中継のCMは、スカパー!が制作し出稿している。

ちなみにCS放送局はスカパー!以外にもケーブルテレビ局と送信契約を結んでいる。近年はケーブルテレビが見られるマンションが増えており、契約の勧誘にあたって、ケーブルテレビ会社が「スカパーが見られる」という説明をするケースがあるようだが、各放送局とケーブルテレビ局との送信契約にスカパー!は関与しておらず、「スカパーで見られるものと同じ番組が見られる」というのが正確なところだ。

球団から放映権を購入する

プロ野球公式戦中継の放映権は、日本シリーズ以外は交流戦、クライマックスシリーズも含め、ゲームを主催する球団が持っており、中継放送は各放送局が、球団から放映権を購入することで実現する。

商慣行として、CS、BSは1試合ごとに1つの放送局に独占させる形で売り、インターネット放送局には非独占で売っている。

CSでは各球団の主催ゲームを中継する放送局との組み合わせはほぼ固定している。


例外はGAORAだ。北海道日本ハムファイターズと阪神タイガース、2チームの主催ゲームを放送しているが、日ハム戦は主催全試合を中継しているので、阪神戦はスカイAと分け合っている。

今シーズン、DAZNが唯一獲得できなかったのが、巨人主催ゲームの放映権。その巨人主催ゲームをスカパー!では放送できるのは、巨人戦の放映権を日本テレビが独占しており、その日本テレビ系列のCS放送局・日テレジータスがスカパー!にあるからだ。

ちなみに、日本シリーズだけは、興行権をNPB(日本プロフェッショナルベースボールリーグ)が持っており、生中継の放映権は、原則全国ネットの在京キー局にしか売らず、CSに売るのは録画放送の権利となっている。

双方ともに関連番組に自信

スカパー!全体の契約件数は漸減傾向が続いているが、「プロ野球セットは伸びている」(小牧取締役)という(ただし具体的な件数推移は非開示)。


果たしてDAZNはスカパー!にとって脅威となるのか? スカパー!のプロ野球セットが月額3980円(税別、以下同)であるのに対し、DAZNは1750円。DAZNはプロ野球だけでなく、国内サッカーのJリーグ、国内男子バスケのBリーグ、サッカーのプレミアリーグなど他のスポーツコンテンツも含めてこの価格だ。巨人主催ゲームが見られないことがどの程度のハンディになるかは判断が分かれるところだが、価格だけで見ればDAZNが圧倒的に優位に見える。

その一方で、スカパー!はテレビ放送なので、インターネット放送のDAZNよりも中継の安定性は高いだろう。

テレビ放送のネックは外出先や出張先で視聴できないことだ。これをクリアすべく、スカパー!もPC、スマホ、タブレットでの視聴を追加料金なしで可能にしているが、広島戦、阪神戦、巨人の主催試合は対象外だ。

もっとも、スポーツ中継は、基本的にスマホではなく大きな画面で見る需要が高いため、DAZNもゲーム機など外部ディスプレーを接続してテレビで視聴する方法を推奨しているが、それでもネックになるのは通信環境だ。

スマホで契約している回線を使えば瞬く間に速度制限を受けることになるので、長時間の視聴はWi-Fi環境が整った場所に限られる。

スカパー!が最も自信を持っているのは、プロ野球関連番組のクオリティだ。「中でもフジテレビONEのプロ野球ニュースは中継よりも視聴率が高い」(小牧取締役)という。

DAZNもプロ野球関連番組を視聴者獲得の目玉と位置づけている。勝敗を分けるのは、中継ではなく関連番組なのかもしれない。