ネット上に洋服の新しい買い方が登場している(写真はイメージ)


「店に行っても買いたいと思える洋服がない」

 もう何年も前から、こういう嘆きをよく耳にするし、筆者も同感だ。

 アパレル不況が深刻化し、国内アパレル各社は、海外ブランドとのライセンス契約を次々に打ち切る一方、国内ブランドに関しても積極的な投資は控え、定番物中心の“守り”の品ぞろえになっている。そうなると、実店舗を訪れても、「あえて今買いたいと思う洋服はない」という状況になりがちだ。それどころか、暇そうにしているお店のスタッフに「ここぞ!」とばかりに張り付かれ、ほうほうの体で退散することになる。

 そうかと言って、新しいブランドを試そうとしても、どこに行けば自分の好みに合った商品があるのか分からない。ネットで探そうとしても、自分の「好み」に関する微妙なニュアンスを検索エンジンにかけるのは難しく、「ネットで買えるのはやっぱりファストファッションなど低価格の日用品だけ」という気分になってしまう。そして結局は、昔買ったお気に入りの洋服を着回すことになる。

 ところが、ユーザーのこうしたモヤモヤを一挙に解消してくれるサービスが元銀行マンの手によって開発・実用化され大きな話題となっている。果たして、どのようなサービスなのか、その開発者であるスタイラー(東京都渋谷区)創業経営者、小関翼氏(35)にお話を伺った。

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O2Oでかつてない購買体験を実現

 スタイラーは、一言で言えば、日本のアパレル業界において、かつてなかったタイプの「O2O(オンライン・トゥー・オフライン)サービス」を実現した企業である(注1)。

 ユーザーは、同社のスマホアプリ「FACY(フェイシー)」から、「〜のシーンで使う・・・な洋服がほしい」などの相談メッセージを投稿する。すると、同社と連携している全国各地の実店舗から様々な「提案」が寄せられ、そこから始まるユーザーと実店舗のコミュニケーションがユーザーの購買行動に結びついていく。

「FACY」の画面。ユーザーからの「自転車通勤に使えるリュックがほしい」という相談メッセージ(左)に対する代官山のショップからの提案アイテム(中)とコメント(右)


「実店舗からの提案後、何度かメッセージのやり取りをして、そのまま購入に至るケースもありますし、実店舗に行って試着をするケースもあります。また、ユーザーと実店舗の最初のやり取りは他のユーザーも見ることができるので、自分の洋服選びの参考にしてもらえます。実際、相談者1人に対して、それを外から見ているユーザーは数百人いるのが通例で、仮に相談者が買わなくても、見ているユーザーが買うケースがとても多いのが特徴です。そうした外部サイト(LineNewsほか)での閲覧人数は月間延2000万人以上に達します」と小関氏は言う。

 なちみに、ユーザーがスタイラーのスマホアプリを通じて洋服などを購入すると、購入金額の20%がスタイラーに入る仕組みになっているという。

 ユーザーの渇(かつ)を癒し、同時に、売上低迷に苦しむアパレル企業にも売上機会を提供するサービスだけに、ユーザーからの相談件数も参画企業も増える一方のようだ。

「現在、参画企業は首都圏を中心に全国で約100社200ブランド400〜500店舗くらいあります。1ブランドで60〜70店舗をもつ大手から1店舗のみのセレクトショップまで様々です。相談の方は、多い日で100件以上寄せられています。相談1件に対して回答(=店舗からの提案)は、概ね24時間以内に平均5〜7件ほどあり、多過ぎず少な過ぎずの選びやすい回答数だと思います」

 海外ブランドを含め、ユーザーがその存在すら知らなかった未知のブランドと出逢い、熱心なファンになるケースもあるという。

(注1)O2O:オンラインとオフラインの購買活動の連携、もしくはオンラインでの活動が実店舗での購買に影響を及ぼすことを指す。

日本のアパレルが抱えていた課題とは

 小関氏がスタイラーを創業したのは2015年3月。現在は東京都渋谷区に本社を構え、国内スタッフ20人、ほかに台湾(台北)8人、ベトナム(ホーチミン)10人という体制だ。国内のアパレル業界で存在感を高める一方、創業からわずか3年ながら、すでにアジアを中心とした海外戦略を推進している。

スタイラー創業経営者の小関翼氏


 同社創業に至った問題意識を小関氏はこう語る。

「私は日本と英国のメガバンク勤務を経て、Amazonで働いたのですが、ユーザーがネットで購入するものは、スペックが明確な日用品が中心になりがちで、いきおい低価格志向になってしまうことを痛感しました。アパレルであればファストファッションなどですね。

 一方、約9兆円、宝飾・バッグ・革小物を含めると約18兆円の規模がある日本のアパレル市場は、ラグジュアリ(LVMHほか)、アッパーミドル(日本アパレルの主力ブランドほか)、ローワーミドル(ファストファッションなど)、ロー(新興国の現地格安衣料)の4階層からなるのですが、中でもアッパーミドルの分厚さが特徴となっています。

 しかし、アッパーミドル層が買う商品は、個々のユーザーのこだわりが強く、そうした感覚的な側面をキーワード化し検索するのが容易でないこともあり、eコマースに取り込めていません(注2)。これは日本のアパレル業界にとって大きな機会損失になっていると私は思いました」

 小関氏は日本のアパレル産業の構造的な問題にも言及する。

「日本のアパレルは、店舗での接客を通じた販売が売上の約9割を占め、eコマースを圧倒しています。ところが、多くの店舗は、繁閑の差が大きく、“店員に仕事がなく、洋服を畳むしかない”アイドリングタイムが多いのが現実です。そのため、1人当たりの売上高は低く、労働生産性の低さがそのまま給与の低さに繋がっています。待遇が悪ければ、個々の店員のモチベーションは下がりますし、また業界としても、グローバル市場の環境変化に対応していける優秀な人材を確保することも難しくなります。繁閑の差をなくし、労働生産性を上げることが喫緊の課題であると感じました」

 こうして、小関氏は、eコマースにおける低価格志向打破と、アパレル業界のリテールにおける低生産性打破を実現するために、スタイラーを創業した。

「車とか不動産なども含まれますが、アパレルのような、いわゆる“ライフスタイル系商品”は、購入に際し即断即決ということはなく検討時間が長いのが特徴です。ですので、ユーザーとのコミュニケーションにはチャット機能ではなくメッセージ機能を使っています。

 ユーザーからの相談は午後9時ごろにピークを迎えます。店舗のスタッフは、翌日の営業時間内のアイドリングタイムにその内容を検討し、回答(=提案)を寄せるわけです」

 アパレル不況が続く中、いつしか失われていった“未知のブランドやデザインと出逢えるワクワク感”を、従来不可能とされてきたeコマースの世界で実現させつつある小関氏。しかし、そこに“死角”はないのだろうか? そして、小関氏が進めつつあるアジア戦略とは一体どのようなものなのか? それを後編で明らかにしたい。

(注2)アッパーミドルの商品は、価値創造という観点からは、“安ければ安いほどよい”「価格価値」と、ラグジュアリ系の「効用価値」の中間にあり、“これくらいの効用ならこれくらいの値段”というバランス重視の「値ごろ感価値」を訴求しているため、ユーザーとして現物をしっかり見て決めたいという側面もある。

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筆者:嶋田 淑之