昨年12月11日、東海道・山陽新幹線「のぞみ34号」が走行中に異常音や異臭などの不具合が生じ、名古屋で運転を中止した。調査の結果、13号車の台車に亀裂が生じていたことが判明した(写真:共同通信)

「JR西日本(西日本旅客鉄道)には、対策を打ち出したらそれで終わりになりがちな傾向がある」「不具合やトラブルが発生してからあわてて対策に取り組む」


3月27日、新幹線「のぞみ」の台車亀裂問題で、有識者会議の安部誠治関西大学教授(中央)がJR西日本の来島達夫社長(左)に最終提言書を手渡した(記者撮影)

2017年12月11日に起きた新幹線「のぞみ34号」の台車亀裂トラブル。JR西日本の対応を検証するために設置された有識者会議が3月27日にまとめた最終提言書では、同社の経営体質について厳しい言葉が並んだ。

このトラブルでは、博多を出発した「のぞみ34号」の台車枠に亀裂が入り、破断寸前の状態で、名古屋に到着するまで3時間以上にわたって運転を続けた。JR西日本の乗務員は異音や異臭などから異常事態と判断。岡山から乗り込んだ同社の保守担当者も異常を感じたものの、「列車を止めて点検したい」と明確に発言しなかったため、新幹線の運行をつかさどる総合指令所の指令員は最終的に「運行に支障なし」と判断、運行を継続した。

国の運輸安全委員会からは、新幹線としては初めて、深刻な事故につながりかねない「重大インシデント」に認定されている。

良い施策なのに最後までやり遂げられない


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有識者会議の座長を務める関西大学の安部誠治教授は、106人の乗客が死亡したJR福知山線脱線事故以来ずっとJR西日本の安全対策について検証を続けてきた。

JR西日本の安全対策に潜む問題点について安部教授はこう指摘する。「福知山線事故の後、JR西日本は再発防止のために先駆的で良い施策を打ち出しているが、それを最後までやり遂げられていない。PDCAサイクルをきちんと回せていたかという点で首をかしげる部分もある」。

異変に気づきながら、なぜ列車を止められなかったのか。JR西日本の見方は次のようなものだ。「車両保守担当者と指令員との間で車両の状況に認識のずれがあり、運行停止に関する判断基準が曖昧だった。運行停止に関する判断を相互に依存していた」。


新幹線「のぞみ」台車亀裂問題について、JR西日本の有識者会議は3月27日に提言書を取りまとめ、記者会見した。左から臼井伸之介・大阪大学大学院教授、座長を務めた安部誠治・関西大学教授、向殿政男・明治大学名誉教授(記者撮影)

そこで、JR西日本は判断基準の明確化、現場判断優先の徹底といった対策を講じている。

一方、有識者会議は「JR西日本の対策はコミュニケーションの改善に限定されている」と、手厳しい。「より広い視点からの改善が必要」として、車両基地のリニューアル、車両保守担当社員の拡充、指令員の処遇改善など新幹線部門への物的、人的リソースの投入、新幹線車両の異常を感知する技術の開発、といった提言を打ち出した。

多額のコストを伴う対策も多く、指令員の処遇改善にまで踏み込んでいるのは、場当たり的な対処療法では事態の改善にはつながらないということなのだろう。

JR東海は同じ日に東海総合指令所を報道陣に公開

最終提言が行われた日と同じ3月27日、JR東海(東海旅客鉄道)は在来線の運行管理を行う東海総合指令所を報道陣に公開した。


JR東海の東海総合指令所。名古屋駅付近にあり、在来線の運行管理を行う。JR東海が3月27日に報道向けに公開した(記者撮影)

同指令所は東海道本線や中央本線など在来線全体の約8割をカバーし、1日2100本の列車の運行を24時間体制で管理。輸送障害の発生時にはダイヤの調整を行ったり、乗客への案内の指示を出したりして、早期の正常化に努める。在来線の指令所も新幹線の指令所も基本的な構造は同じだ。

この日は全国的に好天で、悪天候による遅延といった運行上のトラブルはなく、平穏無事に業務が行われているという印象だった。ただ、時折、スピーカーから聞こえてくる列車の乗務員と指令員とのやり取りが気になった。

「60歳くらいの男性です。どうぞ」「60歳くらいの男性ですね。服装の特徴を教えてください。どうぞ」「白いシャツとスーツを着ています。どうぞ」「白いシャツですね。スーツの色も教えてください。どうぞ」。

これは、列車の乗務員が指令員経由で駅の係員に乗客対応を依頼するやりとりだという。その乗客が何両目のどのあたりにいるかが伝われば十分にも思えるが、間違いが起きないように詳細に確認し合うという。

「止めるべき」と明確に発言したのか

「今お聞きいただいたのは『確認会話』と呼ばれるもので、相手の発言内容を復唱する。抽象的な言葉があったら、具体的な言葉に言い換えてもらう。相手の発言に言い間違いがないか疑問を持つ、わからないときは自分が理解できるまで何度でも聞き返す、語尾に“どうぞ”を付けて発言が終わったことを示す、というのが会話の基本ルールです」とJR東海の広報担当者が教えてくれた。

他のJRにも確認したが、どの会社もほぼ同様のスタイルで会話をしているようだ。ただ、急を要する場合などに、このルールに基づくやり取りが行われない場合もあるという。今回のJR西日本のトラブルがまさに当てはまる。


トラブルを起こした「のぞみ34号」の13号車の台車。残り3cmの亀裂で破断のおそれがあった(写真:JR西日本)

今回のケースでは、保守担当者が「列車を止めて床下点検をしたい」と明確に発言すれば、トラブルがここまで大きくなるのを防げていた可能性は高い。その意味では確認会話の徹底が重要なようにも思えるが、有識者会議では「明確に発言できなかったのは、保守担当者にそこまで言い切れる自信がなかったから」と考えている。

そのため、「保守担当者が力量を高めれば、自信を持って列車を止めたいと発言できる」(安部教授)として、提言には、保守担当者らが判断力を高める研修や訓練を行うべきだという指摘も盛り込まれた。

しかし、提言の中で見落とされている点がある。その一つは、JR西日本とJR東海の関係性だ。

東京―博多間を走る新幹線区間においてJR東海のエリアである東海道新幹線・東京―新大阪間の重要性は極めて高い。ピーク時は通勤電車並みの3〜4分間隔で運行する過密ダイヤ。東海道新幹線区間に山陽新幹線区間の遅れを持ち込んでは大変だ。

また、JR西日本はJR東海と比べ、保有する列車が少ない。列車を途中で止めて回送すると、代わりの列車をJR東海から借りなくてはいけないケースも出てくる。JR西日本の指令員はこうした事情から車両を止めることに躊躇し、運行を継続したという可能性はないのだろうか。

「保守担当者が自信を持って『止める』と言えなかったのは、指令員の聞き方にも問題があった」と、社外有識者の向殿政男・明治大学名誉教授は指摘する。指令員から「走行に支障があるか」と問われると、保守担当者は「支障がある」とは答えにくい。指令員は無意識のうちに列車を止めてはいけないという意識が働いてこのような聞き方をしたのかもしれない。

新幹線は東京から博多までつながっている

当初は社外有識者も両社の関係性が今回のトラブルに関係しているのではないか、という懸念を持っていた。今回の提言書には過去4回にわたって開催された有識者会議における社外有識者からの意見も掲載されており、その中には「JR東海区間に遅れを持ち込むのはいけないという雰囲気があるのではないか」「JR東海とJR西日本の関係も文化の違いにより遠慮がありそうである」といった発言がみられる。

しかし結局、「今回のトラブルに大きく影響したということはない」(安部教授)として、両社の関係性について、有識者会議の提言では最終的に触れられることはなかった。


東京都内にある新幹線総合指令所。JR東海とJR西日本の指令員が共同で新幹線の運行指令業務を行っている(2010年記者撮影)

さらに社外有識者の意見の中には「JR東海とJR西日本が合同で訓練を行ってもよいかもしれない」というものもあった。

もし、両社の安全対策のスキルに差があるなら、合同訓練によって解消するという案は検討に値する。ただ、これも「やらないよりはやったほうがいいが、強いてやるという話でもない」(安部教授)として、提言の中には含まれない。

今回の提言は、あくまでJR西日本の内部で起きた問題として、JR西日本だけに向けた再発防止策という位置づけ。「JR東海にヒアリングしたかった」(安部教授)というものの、結局、ヒアリングは行われなかった。

しかし、東京と博多の間を直通運行する新幹線は、利用者からみれば会社の違いは関係ない。安全運行を万全なものとするためには、JR東海も含め、JR西日本という会社の壁を越えた検証も必要なのではないだろうか。