三木谷浩史社長は2月、スペインで開催された携帯見本市でキャリア参入に自信を見せた(ロイター/アフロ)

「Why Not? これをやらない手はない。通信事業を成功させるために、20年かけて9500万人の会員基盤を築いてきた」。3月29日、楽天の三木谷浩史社長は株主総会で、参入を予定する通信キャリア(MNO:移動体通信事業者)への強い思いを語った。

現在楽天が運営する格安スマートフォンの「楽天モバイル」は、NTTドコモから回線を借りて営むMVNO(仮想移動体通信事業者)だ。携帯電話全体のシェアでは1%未満だが、150万人の利用者がおり、MVNOではトップ。楽天は今後、通信の基地局を自前で整備してMNOに移行し、今の10倍となる1500万人の利用者獲得を目指す。

MVNOでは足りないものとは何か

これまで「順調」と説明してきたMVNOから、なぜMNOへと移行するのか。今年2月、三木谷氏は2017年度本決算会見で「コストを考えるとMVNOで大きな収益を上げるのは厳しい」と語った。加入者を増やそうとして借りる通信の帯域幅を広げれば回線使用料がかさむ。MNOになって制約がなくなれば、規模拡大への環境は整う。

もくろみどおりにMNOで加入者を増やせれば、既存事業とのシナジーは大きい。モバイルと通販や金融との相関性は高く、楽天市場は7割弱の利用者がモバイル経由だ。現行の楽天モバイルの加入者のうち62%は楽天カード決済、26%が楽天ポイントによる支払いで、“楽天経済圏”の中で好循環を生んでいる。

さらにMNOであれば、できることも増える。たとえば、商品やサービスの支払いを通信料金とまとめる「キャリア決済」。カード以外の新たな決済手段になるほか、楽天ポイントの使い道も増える。

だが、キャリア参入のコストは大きい。楽天が予定する設備投資の資金調達残高は最大6000億円。それでも、年間の設備投資だけで数千億円をつぎ込むドコモ、KDDI、ソフトバンクに比べれば圧倒的に少なく、通信の質で差のつく可能性がある。

これに対し三木谷氏は、「通信設備は性能が上がり、安くなった。後発の方が優位。6000億円は、お釣りが来るくらいだ」と豪語する。

かつてない規模の投資リスクがありながらも参入を選んだ裏には、切迫した事情もありそうだ。

本業のネット通販に不安

通販は米アマゾンに押され、2017年度の国内EC事業の営業利益は前期比3.8%減に沈んだ。会計評論家の細野祐二氏は財務諸表の分析から、「楽天市場など本業から上がるキャッシュフローが細っている」と指摘する。日銭の上がる通信事業がおいしく見えるのはこのためだ。


当記事は「週刊東洋経済」4月7日号 <4月2日発売>からの転載記事です

大手3社がモバイル通信を起点に、通販や金融といった楽天の中核領域に攻め込んでいるという事情もある。あらゆるものがネットにつながるIoT時代が近づき、大手3社は次世代の高速通信「5G」を前に、スマート家電や自動運転の実証実験にも力を入れる。

MM総研の横田英明常務は今回の参入について、「楽天は通信を取らないと既存のサービスが廃れるというおそれがあるのでは」と見る。

通信が絡む領域は、多数の企業がひしめき合う。楽天の参戦が各業界の勢力図をどう動かすか。三木谷氏の戦略に注目が集まる。