16年間札幌ドームのグランド整備を務めた工藤悦子さん【写真:石川加奈子】

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試合開始7時間前に球場入り「選手が怪我なく活躍できるように」

 名物グラウンドキーパーの“引退式”が31日、札幌ドームで行われた。

 日本ハム対西武戦の5回が終了した時だった。この日限りで定年退職する工藤悦子さん(65)がいつも通りトンボを持って一塁ベース付近に登場すると、オーロラビジョンに矢野謙次外野手と田中賢介内野手による感謝のメッセージが流れた。

 サプライズ企画に手を止めてビジョンを見上げる工藤さん。栗山英樹監督から花束を贈られると、満員のスタンドからは温かい拍手が降り注ぐ。涙はない。いつもの優しい笑顔のまま、工藤さんはゆっくり頭を下げた。

「全然知らなくて。『エッ? 私が?』とビックリしました。裏方の裏方がこんなこと、いいのかなと思いましたけど、優しい言葉をかけてもらってうれしかったです」と感謝した。

 8人いる札幌ドームのグラウンドキーパーで一番の古株。日本ハムの本拠地移転以前から16年間、札幌ドームのグラウンド整備を担当してきた。いつも明るい笑顔で関係者にあいさつし、誰からも好かれていた。白星をプレゼントできなかった栗山英樹監督は「本当に長い間支えてもらったので、今日はいい試合をしたかった」ねぎらった。

 北海道鹿追町出身。グラウンド整備を始めたのは、札幌ドームでサッカー場管理のパートとして働き始めたことがきっかけだった。その後、施設部施設管理課の職員となり、野球グラウンドを担当した。日本ハム移転当初は、トンボのかけ方がわからず、横で見ていた選手からトンボを奪われたことも。「野球を知らなかったし、未熟でした」と苦笑するが、持ち前の好奇心で技術を磨いた。

 いつも「選手が怪我なく活躍できるように」と願いながら、試合開始の7時間前に球場入りして整備にあたる。土の配合をテストしながら最適なアンツーカーの硬さを研究したり、マウンドとブルペンが全く同じ状態になるように細心の注意を払うなど、チームのために尽くしてきた。

 16年間、グラウンドキーパー室の小窓から見つめてきた日本ハムの試合。1日の西武戦は初めてスタンドから声援を送る。「明日はプライベートなので、グッズをいっぱい持って、レプリカを着て来ます。これからも応援していきます」。花束を大事そうに抱えた工藤さんはニッコリ笑って球場を後にした。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)