トランプ米大統領が仕掛ける貿易戦争の日本への影響は?(写真:Yuriko Nakano/ロイター)

ドナルド・トランプ米大統領は、自ら新たな「貿易戦争」を始めるにあたって、鉄鋼は25%、アルミニウムは10%の関税を課すことであらゆる国を罰しようとする当初試みから引き下がらざるを得なかった。

合わせると米国の鉄鋼輸入量の半分に相当する国々は、一時的だがこの関税の適用除外の対象となっている。すでにカナダやメキシコは、早い段階から少なくとも北米自由貿易協定(NAFTA)の交渉中は適用除外とされていたし、米国と自由貿易協定(FTA)を結んでいるオーストラリアや韓国、あるいは交渉中のEU諸国も適用除外となった。ところが、日本は安倍晋三首相とトランプ大統領の「友情関係」があるにもかかわらず、適用除外対象にはなっていない。

トランプ大統領が運営する施設に泊ると・・・

日本だけ適用除外とならないことは、太平洋における大切な同盟国には耐えがたいことだろうが、トランプ大統領が中国の対米輸出に懲罰関税をかけるという大統領令を実施すれば、そして、中国がそれに報復することになれば、日本ははるかに大きな打撃を受けることになるだろう。なぜなら、中国が米国に出荷する数多くの製品には、スマートフォンに使われている半導体やディスプレー画面といった日本製の製品が多く含まれているからだ。

トランプ大統領への相反する圧力を理解することは、なぜ同大統領がそれほどまでに貿易戦争に意欲的なのか、そして、関税を厳格に適用するのにおける障害を理解するうえでも大変重要だ。

たとえば、米石油協会の幹部役員たちは、首都ワシントンのトランプ・インターナショナル・ホテルで開催された理事会直後に、適用除外を得るためにトランプ大統領と個人的な会合を開く機会を得た。このように国内外の利益団体が、トランプ大統領の所有する施設におカネを落とすことよって、多くの問題が「解決される」という話はいろいろなところから聞こえてくる。

11月に中間選挙を控える中、トランプ大統領は、貿易戦争は自らの支持基盤を固めるだけでなく、接戦州における支持者を増やすうえでも重要だと考えている。実際、先の大統領選では、貿易戦争をブチ上げることによって、これまで民主党に投票するのがつねであった中西部の「ラストベルト」と呼ばれる5州で勝利し、大統領に就任している。

最近トランプ大統領は、共和党の献金者たちの前でこう話した。「われわれは、ずかずか入ってきてわが国のすべてをお払い箱にし、われわれの工場、労働者、そのほかすべてを破壊するこうした人々に、これ以上利用されることを許さない。私が関税を発表したとき、ほとんどの人は、私が彼らのために戦っているのだと考えた」。

共和党支持者の有権者の約7割は、トランプ大統領が発表した鉄鋼・アルミニウムへの関税を支持すると答えた。無党派ではその支持率は29%に下落し、民主党支持者では22%となる。後者の数字は小さいように見えるが、そのうちの多くは投票する党が一貫しない有権者であり、2012年にはバラク・オバマ前大統領に投票したが、2016年にはトランプ大統領に投票している。

鉄鋼業界を奪ったのは「ミニ工場」

さらには、民主党候補に巨額の資金提供をし、多くのボランティア要員を派遣する労働組合は、無条件に関税を支持するか、あるいは関税を批判することを拒否してきた。これが組合員の打撃になるときにおいてさえである。米労働総同盟産業別組合会議が関税を支持している一方、自動車労働者組合はコメントを控えている。その理由は、彼らの組合員のうちのかなり多くが「米国第一」というプロパガンダを受け入れているからだ。

現実はもちろん、貿易によって工場の雇用が失われたり、トランプ大統領の貿易戦争によって、そうした雇用が戻ってくることはない。鉄鋼関連の雇用が1980年の51万4000件から2016年の14万件に急減したことは事実である。しかしその主因は、1980年には5人がかりで生産していたものが、今では1人でできるようになったことである。輸入ではなく、非常に効率の良い「ミニ工場」が、雇用を奪ったのだ。米国が鋳塊を1本も輸入しなかったとしても、鉄鋼関連の雇用はなお急減していただろう。

トランプ大統領の措置は結局、関税のような措置を歓迎している当の有権者たちの多く、そして、共和党に献金している大企業や中小企業に打撃となるという事実である。

米国では、650万人以上が、完成品の金属製品から自動車、航空機、機械類に至るまで鉄鋼を消費する産業に従事している。これは鉄鋼工場の労働者14万人につき46人に当たる。鉄鋼を利用する企業は昨年、合わせて5000億ドル相当の製品を輸出した。

これは米国が輸入した鉄鋼350億ドルの14倍にあたる。関税はこうした製品の価格上昇につながる。米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によれば車輛1台につき300ドルの上昇要因となる。その結果、売り上げが減れば、雇用も失われる。航空機、車輛、機械類といった鉄鋼やアルミニウムを使用する製品を輸出する米国企業も関税によって打撃を受けるため、さらに多くの雇用が失われかねない。

同紙が調査したエコノミスト60人のコンセンサスでは、トランプ大統領の鉄鋼・アルミニウム関税、そして他国による報復によって、米国では雇用が13万7000件純減する見込みだ。全面的な貿易戦争が勃発すれば84万5000件もの雇用が消失する可能性がある(ただし、エコノミストによって予想は大きく異なる)。にもかかわらず、トランプ大統領は貿易戦争に「勝つのは容易だ」とツイートしている。

トランプ大統領の態度が「軟化」したワケ

とはいえ、トランプ大統領がいくらか立場を後退させている理由は、共和党の献金基盤となっている大企業や中小企業が不満の声をあげているからだ。トランプ大統領が前述の献金者に対する演説を行っているとき、献金者たちはトランプ大統領のほかの政策に対してはやんやと沸いたものの、貿易に関する措置について話しているときは沈黙が流れていた。

当初、トランプ大統領はいかなる国に対しても、いかなる適用除外にも反対していた。何らかの適用除外を行えば、そうした要請が大挙して来るだろうと予想していたからだろう。しかし、支持基盤の1つである全米鉄鋼労働組合の組合員がカナダには25万人近くいる(退職者含む)と伝えたことで、(少なくとも今のところであるが)カナダについては「譲歩」した。

トランプ大統領は当初、暫定的にメキシコとカナダを適用除外にし、これと同時に両国がNAFTA再交渉において米国側が望むものを提供しないのであれば再度関税をかけると脅した。これに対して、カナダのジャスティン・トルドー首相は、悪質の合意にひれ伏すくらいならNAFTAを脱退すると脅し返した。

日本にとっての最大の脅威は、トランプ大統領が600億ドル相当の中国の輸出に影響が及ぶ懲罰的関税を賦課する計画を進めた場合に現れる。背景には、米国企業が知的財産の窃盗による被害を申し立てしていることがある。一方で、トランプ大統領は中国に対して、米国との貿易黒字を1000億ドル、つまり25%相当を減らす計画を策定するよう求めた。

中国がこれに報復することはほぼ間違いない。米中の貿易戦争がどの程度過熱するかは、現時点ではわからないが、日本やそのほかのアジア諸国が打撃を受けることは避けられないだろう。中国が米国に輸出している製品1ドル当たりのうち、40セントは中国が他国から輸入する機械類や部品に相当するからだ。

そのうちの半分はアジアからのもので、7セントは日本製製品である。つまり、中国から米国への輸出600億ドルの25%に米国が関税をかけた場合、日本の対中輸出40億ドルに25%の関税をかけることを意味する。日本製品の一部は、間接的にも中国に入っている。これは、アジアのサプライチェーンが高度化しているからで、たとえば、韓国の対中輸出1ドルのうち6セントは、韓国が日本から輸入した機械や部品などである。

韓国の例から日本が学べることは?

こうした中、韓国が免除を受けるために行った譲歩には、日本が学ぶべき教訓がある。今回の譲歩は、トランプ大統領が自らの支持者に「勝利」とツイートするには十分なものだが、どちらの国においても大多数の人々がハッキリと違いを感じられるようになるほどのものではないということが学ぶべき点だ。

米国の鉄鋼需要は増加していない。つまり、韓国が直近の出荷量の7割に抑えることに同意したところで、成長している市場を失ったことにはならない。2016年時点で韓国鉄鋼の全輸出量のうち12%が米国向けと、数年をかけて16%から減少していた。

一方、米国の安全基準のまま5万台(各社で)に倍増する米国製自動車輸入枠に関しては、米自動車大手3社が現時点で現行の輸入可能枠にすら達していない点を指摘しおきたい。韓国の輸入全体の13%を占める自動車市場で、米国からの輸出は4万2000台に過ぎず、その3分の2は日本やドイツの自動車企業が米国内の工場で生産したものである。

米国はむしろ日本により多くを求めているようだ。2国間でのFTA交渉開始の合意では、バラク・オバマ前政権下での環太平洋パートナーシップ協定(TPP)と比較して、トランプ政権は確実にさらに多くを要求し譲歩の余地をさらに減らすと考えられる。

日本が鉄鋼・アルミニウムの問題にどのように対応するにせよ、真の脅威は米国・中国間の貿易戦争の展開にあり、日本はこれにどうすることもできないのである。