女医さんが担当だったら喜ぶべし

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「長生きしたければ、いい医者を見つけよ」という意見に反対する人はいないはず。では、その“いい医者”の条件とはなんだろうか。

 世界の医学者が注目する論文がある。論文名は『男性医師と女性医師のメディケア患者治療における病院死亡率と再入院率の比較』。「男性医師より女性医師が治療を担当したほうが、入院患者の死亡率や再入院率が低い」という内容だ。

 この論文は、科学論文を評価する英調査会社である「オルトメトリック」が毎年公表している論文の影響力ランキングで、世界第3位(2017年)にランクされた。

「オルトメトリック社は、世界的に権威のある英科学誌『ネイチャー』のグループ会社。ニューヨーク・タイムスなど一般紙からツイッターまで、メディアやSNSでの引用状況をもとに論文の影響力を評価している。医療関係者はもとより、一般社会にも大きなインパクトを与えた、という評価です」(医療経済ジャーナリストの室井一辰氏)

「メディケア患者」とは、米国の高齢者医療制度を利用している患者のことで、調査対象となったのは、2011〜2014年の間に、米国で肺炎や心疾患、慢性閉塞性肺疾患などの病気で内科に入院した65歳以上の男女約150万人だ。入院日から30日以内の死亡率と、退院後の30日以内に再入院する確率を、女医が担当したケースと男性医師が担当したケースとで比較した。

 その結果、女医が治療を担当した場合の死亡率と再入院率は男性医師と比べて、共に約4%低いという結果が出たのだ。

◆女医なら3万人死亡者減

 4%という数字は決して小さくない。論文執筆者で『「原因と結果」の経済学』(ダイヤモンド社刊)の著書もある、医師の津川友介・カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教授が語る。

「4%というのは、過去10年間の医学界における死亡率の改善とほぼ同じレベルです。臨床において、日々、新しい薬や医療機器が開発されていますが、それらを全部合わせて10年蓄積した分と同じですから、臨床的にも意味のある数字だと考えます。論文の前提に立って、もし男性医師が女性医師と同程度の医療の質だったとしたら、全米で死亡者数を年間約3万2000人減らせる計算になります」

 しかし、なぜ女医のほうが、死亡率や再入院率が低くなるのか。津川氏が解説する。

調査結果からは、女性医師のほうが男性医師よりも“リスク回避的”であることが分かりました。臨床ガイドラインとエビデンス(根拠)に基づく診療を忠実に守る傾向が強かったのです。

 さらに、予防医療により多くの労力をかけており、コミュニケーションスキルも高い。患者さんの話をよく聞くこと、周りの医師にも相談することで、より慎重かつ個々の患者さんに適した治療が選択されているのだと思います」

 こうした女医の細やかなケアが、高齢者の“異常”を上手く拾い上げた、と見られている。

◆日本の女医もうなずいた

 同内容の論文は医学界の“トレンド”でもある。

「『メディカルケア』という学術雑誌に掲載された2016年のカナダでの研究によれば、女性医師にかかった場合、緊急手術を行なう事態になる可能性が17%低く、入院の可能性は11%低いと出ています」(前出・室井氏)

 逆に、男性医師のほうが質の高い医療を提供しているとする研究結果はほとんど報告されていないという。この研究結果を女医たちは実感としてどう受け止めるのか。里見英子クリニックの里見英子・院長(内科医)は納得の様子で語る。

「私は大病院での勤務経験が長いんですが、男性医師は患者さんを早く退院させることに重きを置きすぎる傾向にあると思います。回転率を上げたほうが病院から評価され、出世すると考えられているからです。ガイドラインから外れても、『自分が判断したからいいんだ』という考えが強いように思います。女性医師のほうが患者の話をよく聞き、ガイドラインを守るという指摘は、その通りだと思います」

 津川氏は今回の研究の成果について、こう語る。

「米国でも日本でも、担当医が女性であるというだけで不安に思う患者さんがいますが、データを見る限りでは、杞憂であることがわかります。米国では女性医師のほうが給与が安かったり、昇進が遅かったりすることが社会問題になっていますが、女性医師の診療の質が高いことが今回の研究で明らかになりました」

 女医の割合がおよそ2割の日本の医療界は、米国以上に男社会といわれる。患者側が、「女医に当たってラッキー」と考えるようになれば、医学界も変わっていくかもしれない。

※週刊ポスト2018年4月6日号