最高級品の「プラ3スタープレミアム」は1個あたり360円(写真:記者撮影)

「チョレイ!」でお馴染みの張本智和選手など若手が台頭し、国際大会でメダルの常連となった卓球ニッポン(なお、張本選手は「チョレイ」の試合中の使用を現在自粛している)。この躍進の陰には、日本の「卓球ボール」の存在もあることをご存じだろうか。

プロ選手も指摘する「ボールが試合に与える影響」

「ボールが違うだけでこんだけ波乱起こるんだもん
ニッタクや新ボールだったら全選手にチャンスあるよ」

こうtwitterに投稿したのは、世界ランク14位(2018年3月時点)の水谷隼選手。2017年4月に中国・無錫で行われたアジア卓球選手権大会で、中国の有力選手・馬龍が負けるなど番狂わせとも言える結果が相次いだのを受け、ボールが試合に与える影響の大きさを語っている。同大会では日本メーカー・ニッタク製のボールが採用され、日本勢の躍進が目立ったのだ。


この連載の一覧はこちら

国際大会で使用される公式球を製造しているのは、現在は世界で3カ国のみ。日本に1社(ニッタク)、中国に2社、ドイツに1社ある。

大会によって、この3カ国のボールのうち複数が公式球となる場合もあれば、1社のボールのみ採用されるケースもあるため、慣れ親しんだ自国製のボールが公式球だと練習通りの実力を発揮できるようだ。

実際、アジア卓球選手権以外でも日本メーカー・ニッタクのボールが公式球に採用された2017年の世界卓球選手権(デュッセルドルフ大会)では、混合ダブルスで石川佳純選手・吉村真晴選手ペアが優勝するなど日本選手が好成績を収めた。

もちろん実力なくして勝利はないが、メーカーが違えばボールの跳ね返りや回転のかかりやすさなどが変化し、ボールの動きを予測するのがより難しくなる。

公式球の基準はあるものの…

国際大会で使用されるボールについては、国際卓球連盟(ITTF)の公認検査をクリアする必要がある。重量・サイズ・はずみ・転がし・硬さ・真球度・色などの項目で基準値をクリアしたボールのみ、ITTF主催大会で採用される資格を得る。


国際基準をクリアしたボールには「3スター」の称号が与えられる(写真:筆者撮影)

ただ、基準値は重量で0.10グラム内、サイズで0.60估發箸い辰晋躡紅楼呂認められているため、メーカーによってわずかな差が生まれ、結果的にボールの動きもやや違ったものになるのだ。

「卓球のラリーは一流選手同士では0.2秒で打ち合っているといわれています。これは、複雑選択という卓球に求められる反応時間をはるかに上回る速さです。

自分が打球した瞬間に、相手の次球の軌道を予測しなければ、世界トップレベルのすばらしいラリーは成立しません。予測を可能にする絶対条件が、ボールのバウンドの規則性です」とニッタクの沼田一十三取締役部長は解説する。

ボールが規則正しいバウンドをするには、ボールの厚みが均一である必要があるが、これには高い製造技術を要する。

そもそも卓球ボールは2つの半円を接着し製造される。このボールの継ぎ目が大きいと重量規定があるため他の箇所を薄くしなくてはならず、生地の厚みが不均一になる。するとボールに力を加えた際に一定部分に負荷がかかり、「割れやすい」ボールになるほか、球にぶれが生じ、イレギュラーバウンドのもとになる。

そのため、いかに継ぎ目を小さくするかが、メーカーの腕の見せ所といえる。そして日本のニッタク製のボールはその継ぎ目がドイツ製や中国製と比べ小さく、規則正しいバウンドを可能にしている。


左からドイツ製、日本のニッタク製、中国製のボール(写真:ニッタク提供)

こうした品質の高さが認められ、1988年に卓球がオリンピック公式種目となってからオリンピックでも3回(1992年バルセロナ、1996年アトランタ、2012年ロンドン)大会使用球に選ばれている。

ニッタク製のボールはすべて茨城県古河市にある工場で生産され、材料は化学メーカーの東レと共同で専用特殊素材を開発している。前述の「プラ3スタープレミアム」は1球あたり360円(税別)と安くはないが、こうした品質へのこだわりがその値段につながっているようだ。


茨城県古河市にあるニッタクの卓球ボール工場(写真:ニッタク提供)

「原料価格が高騰し、研究開発費も先行してかかるため、正直ボールでそんなに利益が出ているというわけではありません。

ただ、選手にとって安定性の高いボールでプレーしていただけたらと思います」と沼田取締役部長は話す。

ボールに合わせたラケットも開発

ニッタクはボールに合うようにラバーやラケットも同時開発。「卓球は人間が作り出す最大の回転数を出せる競技。トップ選手のサービスやドライブでは、1分間に8000から1万2000回もボールは回転している。ボールの回転をいかにラバーで捉えるかという高分子化学の世界でもあるのです」と沼田取締役部長は話す。


ニッタク製ラケットやラバー、ウェアを伊藤美誠選手も愛用(写真:筆者撮影)

選手個人だけでなく、その選手がどこの用具を使っているのか、どこのボールが公式球に採用選択されているのかも、試合を楽しむ1つの要素になるだろう

現時点では10月日本で開幕予定のTプレミアリーグや東京オリンピックでどのメーカーの公式球が採用されるかは決定していない。2020年に創業100周年を迎えるニッタクにとって、採用されれば『メード・イン・ジャパン』のこだわりを広く発信できるチャンスとなるだろう。