食品を中心に、コスメや日用品、雑貨などを取りそろえている。右から2人目の男性が代表の渡辺義文さん(写真:自然派きくち村提供)

年間3万個を売り上げた“ごぼう茶”で一躍名前を知られるようになった『自然派きくち村』。しかし、マーケットからのニーズの高まりに反して、“ごぼう茶”はEC(ネット通販)サイトの売上ランキングをみるみると落としていきます。

「お客様を裏切りたくなかった」と語るのは、自然派きくち村を運営している渡辺義文さん。先日、熊本でのイベントでご一緒した際、当時をこのように回顧していらっしゃいました。

「原材料の有機ごぼうは栽培に半年近くかかるため、生産からマーケットへの供給までにタイムラグが生じます。慣行栽培によるごぼうでの代替も頭をよぎったのですが、人と地球にやさしい食品でなければ、私たちが生産する意味はありません。存在意義を再確認してからは、品切れを一切気にしないようになりました」(渡辺さん)

品切れ=機会損失とされているビジネスシーンにおいて、品切れがあって当然というスタンスは異彩を放ちます。

1970年代に1000万人を超えていた農家人口は、2017年時点で181万人。全体の66%を65歳以上が占め、緩やかに食料自給率が下がっている中、自然派きくち村の異彩こそが、先行きの暗い未来に一筋の光を与えていくような気がしてなりません(※数値は農林水産省調べ)。

自然栽培と有機栽培の違い

渡辺さんはもともと、熊本県菊池市で渡辺商店という酒屋を営んでいました。ものを仕入れて売るだけでなく、安全でおいしいものを自分自身の手でつくりたいと感じた渡辺さんは、無農薬米を使用したお酒づくりをはじめます。

そこから安全な農産物づくりにこだわりを持つ生産者が徐々に集まり、自然派きくち村というコミュニティが形成されていきました。

自然派きくち村はその名のとおり、商品の多くが自然栽培です。自然栽培は、認証機関が農薬や化学肥料の一部使用を認めている有機栽培とは一線を画しており、農薬や肥料を一切使っていません。その理由を渡辺さんはこう語ります。

「化学肥料には土壌消毒や殺虫の効果がありますが、肥料に含まれている硝酸態窒素は発がん性物質です。さらに、硝酸態窒素は作物を通じて人間の体内に入り、鉄分と結びついて酸素欠乏を起こします。牛ふんや豚ぷんなどの堆肥も安全とは言えないでしょう。

家畜に打っている抗生物質やホルモン剤はふんが発酵しても消えず、やはり作物を通じて人間の体内に入るからです。微量であっても、化学物質過敏症の方にとっては反応を引き起こしかねません。私たちはこういった方たちでも安心して食べられるものを作りたいと思っています」(渡辺さん)


左奥が渡辺義文さん。本部に研究所を併設し、本物の食品開発を日夜繰り返している。右奥が筆者(写真:ファクトリエ提供)

化学肥料が使われている理由は、作物が早く育つから。現在の農業は原価低減に主眼を置いており、大資本の下でとにかく効率化が図られています。

有害物質が肥料に含まれていようが、除草剤をかけても枯れない遺伝子を種に組みこもうが、作物として形状が整っていればそれでいい、買い手は日々の生活に追われているから生産過程など気にしないだろう。そんな思考が透けて見えます。

価格はすべて生産者が決定

かつては各家庭でみそやしょうゆを作っていたように、自然のサイクルを生かした食品づくりはごく当たり前のことでした。そう考えると、「人にも地球にもやさしいものを、時間をかけてつくりたい」という渡辺さんのスタンスは特段変わったものではなく、原点に立ち返っていると言えます。

商品開発の段階では販売価格を一切考慮していないとのこと。一時は価格を抑えることも考えたものの、自分たちのポリシーとはなじまなかったそうです。

「市場に流通している油の値段が高いなと思い、菜種油をつくることにしました。菜種油は、圧縮機械で菜種を絞って不純物を沈殿させ、上澄みを採取するという方法で出来上がります。不純物を完全に取り除こうと試みた結果、事前リサーチでは300坪の畑から180キロの油が取れるはずが、たった30キロしか取れませんでした。

結局、他社よりも値段は高くなってしまったのですが、野菜につけるだけで本当においしいし、自信を持ってお客さんに勧められる。他の商品も同じで、つくってから価格を設定しています」(渡辺さん)

きくち村では渡辺商店以外の商品に関しても、価格はすべて生産者が決めています。 このシステムは若い生産者にとっては大きなメリット。なぜなら、高齢の生産者は年金が支給されているため、販売価格を抑えることで利益を多少下げたとしても、ある程度の生活が保障されていますが、若手は状況が違います。

直売所で同じ商品が並んだときに若い生産者のほうが相対的に高く見えるため、足並みそろえて価格を下げざるをえない状況にありました。

生産者の言い値が違うため、きくち村では同じカテゴリーの商品であっても値段にバラつきがありますが、生産背景が異なることを考えると、こちらのほうが本来あるべき姿です。

商品ページの動画やテキストを通してこだわりを伝えられるので、一見値段が高く感じられる商品でも、消費者の心をつかむことができれば購買につながります。実際、多くの商品が品切れになっています。


売り残った商品はきくち村で買い取りを行うため、余剰在庫のリスクも軽減できる(写真:ファクトリエ提供)

渡辺さんは「品切れは商品をグレードアップさせるチャンス」としてとらえており、“ごぼう茶” も品切れを起こしている間、原材料となるごぼうが有機栽培から自然栽培に変わりました。きくち村の商品に魅力を感じている人たちにとっては、待ったかいがあったというもの。待つことへの耐性がなくなりつつある今、「来年を楽しみにしてください」というゆとりに粋を感じます。

自然栽培のすそ野を広げる新技術

渡辺さんは自然栽培の裾野を広げる活動にも取り組んでいます。自然栽培にはクリーンな土壌が必要ですが、化学肥料を使用していた土地には「肥毒層」と呼ばれる肥料の層が残っており、これまでは除去する有効な手段がありませんでした。

渡辺さんが着目したのが、岡山県津山市に本社を構えるRBCコンサルタントという会社が開発した「微生物活性材バクチャー」という技術。自然界が本来持っている微生物の力を活性化させる効能があり、同社は水槽内の水を入れ替えることなく、閉鎖循環型でうなぎの養殖を行っています。


阿蘇外輪山の麓に位置するきくち村。のどかな田園風景が広がっている(写真:自然派きくち村提供)

この技術は水質改善だけでなく、土壌改善や臭気対策への汎用が可能。肥毒層を崩す手立てが見つかったことで、自然栽培のハードルは以前よりも低くなるはずです。

ただ、生産者側の取り組みだけで現状は変わりません。

抜本的な解決方法は「買い方を変えること」と渡辺さんは言います。適正な利益が得られる仕組みをつくっていかなければ、今後も農家は少しずつ減少していくでしょう。

自給率が今以上に下がってしまうと、もし何かのタイミングで諸外国が日本への食料輸出をストップした場合、私たちは食料を確保することが難しくなります。

安心して食べられるものを適正価格で購入することは、未来に対する投資なのです。今自分は何を食べているのか、これから自分は何を食べるべきなのか。改めて見直す時期に来ています。