若者たちが「人間以外との恋愛ゲーム」にハマるワケとは?(写真:EKAKI / PIXTA)

ここ最近、一風変わったアプリゲームが若者たちの間で人気化しているのをご存じですか?

どうやら今時の女子たちは、これまでのように2次元のイケメンに恋をするのではなく、“ちょっと変わった”恋愛をアプリで楽しむようになっているようです。若者研の現場研究員たちが、若者女子の間で流行っているスマホのアプリについて紹介・解説してくれます。

奇妙な恋愛ゲームが流行


今回レポートしてくれる若者研究所の現場研究員たち。写真左から、吉原なつめ(一橋大学3年)、高貫遥(明治大学2年)。(写真:研究員提供)

スマホとゲームアプリが普及し、1人1台ゲーム機が当たり前という時代になった。さまざまなジャンルで大ヒットゲームが生まれる中、最近、恋愛ゲームにおいてあるブームが起きている。

従来の恋愛ゲームといえば、多種多様なイケメンキャラクターたちに言い寄られる主人公、といった、リアルな生活の延長にあるあこがれのシチュエーションを楽しむものが多かった。しかし、最近の恋愛ゲームは、相手が人とは限らなかったり、相手を育成することから始まったりするのだ。ただ奇抜なゲームが流行っているということでなく、今の若者の真相心理がそこからは見えてくるようにも思う。今回は今若者たちの間で話題のそれらのゲームについてレポートしていきたい。

Case1 『はーとふる彼氏』

『はーとふる彼氏』は、ハトたちが通う名門校、聖ピジョネイション学園を舞台にする恋愛ゲームだ。そこで紅一点の人間として過ごし、ハトたちと恋に落ちていく。

クラスメイトや部の仲間など登場キャラクターはすべて写実的なハトであり、選択肢によって違うハトを攻略していくこともできるというもの。立ち絵はすべてハトだが、ゲームをスタートする前に擬人化版のカットインも表示するかどうかを選択できるようになっている。


『はーとふる彼氏 〜希望の学園と白い翼〜』の画面(写真:プレイ中の画面を筆者が撮影、提供)

国立大学に通うAさんは、ニコニコ動画のゲーム実況動画で「はーとふる彼氏」を知ったという。無料の体験版で遊んでいたそうで、たいしたボリュームはなかったうえに、時間を見つけては遊んでいて、短期間でクリアしたと話す。

普段からいわゆる恋愛ゲームをしているそうだが、擬人化されたキャラクターがでてくるほかのゲームとは違い、キャラクターが写実的なハトのイラストであり、「ある意味3次元的な要素があり、道端でハトを見かけても愛着が湧く」ほどのめりこんでいたという。

また、主人公のキャラクターがはっちゃけていたり、ストーリーもギャグの要素が多かったりする点がほかの恋愛ゲームとは違うそうだ。ハトとの恋愛に「きゅん」とまではしなかったが、キャラクターの性格や言動に対してかわいいと思うところがたくさんあり、「キャラ萌え」したとAさんは語る。リアルなハトのキャラクターでギャグ要素の多いゲームなのに、ストーリーには感動する部分が多いところが魅力だ、とも話していた。

Aさんは女子校出身でアニメや漫画、ゲーム全般が好きだといい、普段から「うたの☆プリンスさまっ♪」などで遊んでいるそうだ。その流れでこのゲームにたどり着いたらしく、ネタとして遊びつつも、ハトを相手にするこのゲームを恋愛ゲームとしてもとらえていたいうことができるだろう。多くの恋愛ゲームが登場し、マンネリ化もする中で、非現実的でギャグ要素が多いのに、「キャラ萌え」できたり感動できたりするこのゲームのように、ギャップを楽しめるゲームがウケているのではないだろうか。

ゾンビとなった恋人を育成

Case2 『ゾンビ彼女』『ゾンビ彼氏』


『ゾンビ彼氏』の画面(写真:プレイ中の画面を筆者が撮影、提供)

死んでゾンビとなった彼女(彼氏)を蘇生させるため、ご飯をあげて会話をしながら彼女(彼氏)の知性を取り戻すというゲーム。再び恋人に出会えるまでを描いた、切ない放置系育成ゲームアプリだ。

プレイヤーは、ご飯と称したほかのゾンビの脳みそを狩り、異形のものと化した愛する恋人にそれを与え続けるという狂気じみた設定となっている。イラストは、グロかわいい、キモかわいいテイストでデザインされている。

このゾンビ彼氏彼女シリーズにハマっていたのが、都内の私立大学に通うBさん。彼女は、ハロウィンの時期にこのシリーズの第1弾「ゾンビ彼女」を見つけ、そこからゲームをプレイし続けているという。1度何かにハマるとそれ中心の生活になってしまうというBさんは、このゲームにもできるかぎりの時間を費やしていたという。「デザインが好みだっため、出てくるキャラクターがかわいいと感じ、ストーリーも面白かった」という感想だった。

彼女は普段、都内のカフェでアルバイトをし、大学の生徒会に所属しており、ゲームを趣味としている。大学生の間に彼氏が欲しいと考えてはいるが、現在彼氏はおらず、また、恋愛ドラマや漫画にはあまり興味がないと言う。

ゲームでは恋愛をする、または彼氏彼女である自分サイドの設定がほとんどないものもあるのに対して、ドラマや漫画はすべてにきちんとした設定があり、視聴者や読者は第3者の視点(彼女曰く、“神の視点”)からストーリーを傍観することになってしまうので魅力を感じないのだそうだ。

ぶっ飛びすぎていると話題

Case3 『うまのプリンスさま』


『うまのプリンスさま』の画面(写真:プレイ中の画面を筆者が撮影、提供)

イケメンの顔をした1頭の人面馬「ユウマ」の馬主となり、会話を楽しみながら競走馬へと育成していくゲーム。プレイヤーがイケメンとの出会いを求め、「王子様は馬に乗っているから牧場に行けば会えるかも」といった理由から競走馬の施設に行き、イケメンの人面馬に出会うところからゲームは始まる。アプリ自体の作りはしっかりしているのに対し、とにかくキャラやストーリーがぶっ飛びすぎていると話題になった。

このアプリで遊んでいた神奈川県内の大学に通うB君は、元々シュールなゲームが好きなこともあり、Twitterのプロモーションでこのアプリを知ってすぐにインストールしたのだそう。暇を見つけてはゲームを進め、一時期は1日3時間ほど費やしていたという。ゲーム内容が期待どおりシュールなものであり、グラフィックが綺麗でイベントCGも多く、とても面白かったので満足だった、とB君。

普段のB君は軽音サークルに所属し、ドラムを担当している。アニメやゲームなどサブカルチャー全般が趣味である。現在彼女はおらず、彼女が欲しいとSNS上で公言している。そんな彼は恋愛シュミレーションゲームや漫画には関心がありプレイすることも多いが、恋愛もののドラマにはすべく興味がなく、ほとんど観ないという。最近のゲームアプリは気軽に自己完結して楽しめるものであるのに対し、ドラマはストーリーが定型化していること、現実での恋愛に近く複雑で面倒であることなどがその理由だと語った。

Case4 『エジコイ!』

さまざまなエジプトの神々と共に学園生活を送り、恋に落ちていくゲーム。方向音痴の主人公が学校内で迷っていたところを先輩が助けてくれるところから始まり、所属する園芸部やクラスを中心とした物語が進んでいく。エジプトの神々がブレザーを着ていたり、ところどころエジプト用語が出てきたりとシュールな面も多いが、ストーリーはいわゆる学園もののゲームと変わらない。

都内私立大学に通うCさんは、元々エジプト文化に興味があり、ネットなどで人気化しているメジェド(古代エジプト神話「死者の書」に描かれる神)のキャラクターが好きだった。メジェドが出てくる漫画を読んだり、LINEでメジェドのスタンプを買ったりするなど、相当なメジェド好きで知られていたCさんは、友達から紹介されて「エジコイ!」を始めたという。


『エジコイ!〜エジプト神と恋しよっ〜』の画面(写真:プレイ中の画面を筆者が撮影、提供)

空いた時間にゲームを進め、2カ月間ほどハマって遊んでいた。動物などを対象とするほかの恋愛もののゲームでは、たいていキャラクターが擬人化されている。しかし、エジコイにおいては登場キャラクターの顔は神そのままの顔であることがシュールで面白かったという。しかも壁画に描かれたエジプトの神々がモチーフとなっているため、ずっと横しか向いていないキャラクターがいることも面白いらしい。

倒れたところをキャラクターが支えてくれるような、いわゆる恋愛ゲームによくあるシーンできゅんとして、SNSでシェアしたと話した。しかし、一般的な恋愛ゲームとは違って、セリフの選択を間違うとあっけなく主人公が死んでゲームが終了してしまうなど、斬新で面白い要素もあるのだという。恋愛ゲームらしい要素とそうではない要素の組み合わせが絶妙で、ときめきながらも適度に裏切られるところがウケている理由かもしれない。

ほかの恋愛ゲームはあまりやったことがないというCさんだが、「エジコイ!」はキャラクターがイケメンすぎないことで逆に抵抗感がなくなり、面白いコンテンツとして楽しめたそうだ。そしてCさんは、このゲームにハマっていた時期、特に女子として枯れている、こじらせている自覚があったという。いわゆる恋愛ゲームやイケメンキャラクターにはハマりきれないが、一癖あるキャラクターやストーリーを面白いと感じる女子はひそかに増えているのかもしれない。

傷つかない自己完結的な世界

このように、最近の若者の間では、人ではない相手と恋に落ちる奇妙な恋愛ゲームが広まっている。普段恋愛ゲームや携帯ゲームをあまりやらないような若者の間でも「見たことがある」「聞いたことがある」という人は多く、一部のゲーム好きの間で流行っているだけではないようだ。

こうした流行の背景には、近年よく言われている「若者の恋愛離れ」が関係しているだろう。恋愛に対して「面倒である」という意識が強く、リアルな恋愛を敬遠する傾向にある若者は明らかに増えている。しかし、本当に恋愛から離れているのであれば、恋愛ゲームで遊ぶことすらしないはずである。奇妙な恋愛ゲームが流行しているのは、若者が潜在的には恋愛に興味を持っているからではないだろうか。

本当は恋愛に興味があるけれど、生々しいリアルな恋愛に対しては面倒くささや抵抗を感じている。そればかりか、現実の延長上にある従来の恋愛ゲームにすら抵抗感があり、ゲームの中でも恋愛に対して消極的になってしまっている。だからこそ、恋愛ゲームで遊んでいると自覚させずに恋愛要素も楽しめるような、現実離れした面白い設定の恋愛ゲームがウケているのではないか。

今回インタビューした人々は、「彼女が欲しい」と公言していたり、少女漫画や恋愛ゲームといったコンテンツには興味があったりするものの、現実では恋愛を面倒だと感じているような人ばかりであった。

理由の2つ目として考えられるのは、「恋愛をネタ的に考える自分」を自虐的にとらえていることである。近年、Dさんのように「自分はこじらせている」「自分は女子として枯れている」ことを自覚し、さらにはアピールまでするような若者が増えている。

実際、テレビドラマで人気化した「東京タラレバ娘」をはじめとして、「恋愛が下手な自分」を主人公としたドラマや漫画が近年、共感を集めている。今回取り上げたような奇妙な相手との恋愛ゲームをSNS上でシェアすることは、ゲーム自体が一風変わっていることから「いいね」を得やすいだけではなく、恋愛をネタ的にとらえていると周囲にアピールすることにもつながるだろう。そういった自虐的なアピールによって、人から恋愛面などについて何か指摘される前に自ら言い訳をしているとも言える。

「ゆとり世代」「〇〇離れ」と消極的な面を指摘されてきた今の若者たちは、開き直って積極的に自虐的なアピールをするようになってきているのかもしれない。

流行している3つ目の理由として、最近の若者はキャラクターに自分の好み・理想を投影させるのが好きである、という傾向が挙げられる。たとえば、近年流行している「おそ松さん」は、6人とも外見上はほとんど無個性なのに、それぞれまったく違う性格、キャラクターを持っており、ファンはそれぞれ自分の好きな「推し松」を持っていた。

「ゾンビ彼女」や「うまのプリンスさま」といったゲームには、キャラクターを自分好みに「育成」するという要素がある。対象にかかわらず、自分の好きなイメージをその中にあてはめ、自分だけの存在へと育成することを楽しむ傾向が強まってきている。ありのままの対象を愛するのではなく、傷つくリスクの低い自分だけの「推し」を作り出す「恋愛自己完結型若者」像が見られるのではないだろうか。

このように、現代の若者たちは、実は恋愛には興味があるものの、「ゆとり世代」「恋愛離れ」と揶揄される中、リアルな恋愛の面倒くささも手伝って、恋愛に興味があることを表明しづらい中で生きている。奇妙な恋愛ゲームで遊ぶことで、恋愛をネタとしてとらえているふりをして、さらには自分の理想をキャラクターに押し付けて、傷つかない自己完結的な世界を楽しんでいるのかもしれない。

原田の総評:若者たちの「生々しさを隠す隠れ蓑」

若者研の現場研究員による、ちょっと変わった恋愛アプリにハマる若者のレポートはいかがでしたでしょうか?

それにしても、ハト、ゾンビ、馬、エジプトの神……ゲームの制作サイドのあの手この手の発想にも感心しますし、それらアプリを見つけ出し、熱中する若者たちのアンテナの鋭さにも感心します。

さて、現場研究員のレポートにより、若者たちがさまざまな理由でこの少し変わった恋愛アプリにハマっていることがわかりました。

普段から若者に接している私が感じるのは、たくさんの理由の中でも最大のヒット理由は、この変わった恋愛アプリが、「生々しさを隠す隠れ蓑」になる点にあると思います。

今の若者たちはさまざまな理由から、昔以上に大変恋愛し難い環境に置かれるようになってきています。とは言え、現場研究員のレポートにもあったように、若者たちは恋愛に興味がなくなったわけではなく、本音では恋愛をしたいと思っています。

そういう息苦しい状況下、空き時間に恋愛アプリをやってみるのは、程良い時間潰しと息抜きになります。

基本的には暇潰しですが、時にきゅんとしてみたり、ちょっとはまってみたりするのも気持ち良い。これが普通の恋愛アプリだと、ちょっと「ガチ中のガチ」と周りから見られかねないし、そう見られてしまうと思っている自分もいて、気持ちの良い暇潰しとはならなくなってしまうケースもある。

でも、こうした「変わり種恋愛アプリ」だと自虐ネタになり、周りの友達にも言い易い。つまり、「本当は恋愛したい。でも、できない。周りに恋愛にがっついていると思われたくもない。でも、ちょっとした疑似恋愛を楽しみたい」こうした若者たちに恋愛に対する生々しい感情を隠す
隠れ蓑として、普通のガチンコ恋愛アプリより、こうした変わり種恋愛アプリが普及してきているように感じています。

これからもこうした若者の機微に応えた、どんな変わり種恋愛アプリが登場するのか、注目していきましょう。