英仏海峡トンネルのカートレイン「ル・シャトル」。車両は自走して貨車へと入る(写真:Getlink)

青函トンネルがこのほど、供用開始から30周年を迎えた。2016年には東京と北海道が新幹線でつながったが、依然として「トンネル内の新幹線の速度をどうやって引き上げるか」では頭を悩ます状況が続いている。一方、イギリスと欧州大陸をつなぎ、高速列車も走る「ユーロトンネル」ではいま、どんなことが起こっているのだろうか? 改めてカートレインに乗ってその実態を調べてみた。

ユーロトンネルは単線×2本

「ナポレオン以来の夢」と言われた英国とフランスをつなぐユーロトンネル(全長50.45km)は、1994年5月の運用開始から今年で24年目となる。青函トンネルと同様、列車が走る鉄道用のトンネルしかない。ちなみにトンネルとしての全長は青函トンネルの方が長いが(53.85km)、海底部分の長さで比べるとユーロトンネルが37.9kmと、青函トンネルの23.3kmより長い。鉄道用トンネルが複線用1本の青函トンネルと違い、ユーロトンネルでは単線が2本別々に造られている。このため、上下線を分けて列車が運行されている。2本のトンネルは30m離れて並行に走っており、その間に非常用として、乗用車やワゴン車程度の緊急車両が走れるトンネルが1本ある。

ユーロトンネルの内部には375mごとに非常口が取り付けられており、もしもの時に細い非常用のトンネルや、それを通って反対方向に向かうトンネルに行くことができる。ユーロトンネル内を走る列車は非常口の設置間隔よりも編成が長く、万一の事態が起こった時にトンネルの軌道上ではなく、車両のどこかのドアからほぼ直接非常口に入れるような仕組みを取っている。

ユーロトンネルでは、高速列車「ユーロスター」のほか、「ル・シャトル」と呼ばれるカートレインが高密度で走っている。日中は20〜30分間隔で走っており、ほぼ待たずに乗れるといううれしいサービスとなっている。


貨車内に貼られた非常時脱出に関する案内。車両の構造がここから読み取れる(筆者撮影)

クルマによる海峡横断では、依然としてフェリーも航行しており、料金も安いが、速さの点ではトンネル経由のほうが圧倒的に分がある。フェリーは片道約100分だが、ル・シャトルなら対岸までわずか35分。ロンドンから見た距離は、英国側トンネル入口の方がドーバーのフェリー埠頭よりも15kmほど近いため、所要時間や燃料消費を減らせるメリットもある。

ユーロトンネルを走る独シーメンス社製ユーロスター「e320」は時速320km走行が可能なのだが、トンネル内の制限速度である160kmに抑えられている。高速での衝突事故では被害がより大きくなるとして、速度を抑えているのだ。それに加え、ユーロスターが時速200km以上の高速運転を行なった場合、最高速度が140kmのカートレインとのダイヤ調整も難しくなる。

カートレインには2階建てバスも入る

ル・シャトルで注目すべき点は、カーフェリーと同じようにクルマごと貨車に乗り込み、そのままの形で目的地に向かうというその輸送形態にある。かつて日本にあったカートレインのように、クルマは貨車に乗せ、乗客は客車に乗るといったものとは全く趣きが異なる。


2階建て観光バスが楽々入る、4m以上ある貨車内の高さは圧巻だ(筆者撮影)

このような輸送形態を実現するにあたり、ル・シャトル用貨車には次のような特徴がある。まず、耐火性を重視するため、車体はステンレス製だ。また、海底という特殊な環境を走ることから、車内の気密性を保つため、連結部分の通路のドアは人が通れるギリギリの幅まで狭めてあるほか、まるで「タッパーの蓋」を開け閉めするかのようなゴムパッキングの付いたドアが取り付けられている。

さらに、車高が高いクルマでも載せられるという大きな特徴がある(それでも架線には引っかからない)。ユーロトンネルの車両限界は幅4.1m、高さ5.6m。TGVが走る路線の車両限界である幅3.15m、高さ4.32mよりも大きく、大型トラックはもとより、2階建ての観光バスでも楽々入る。実際に、ロンドンとパリやブリュッセルなどの欧州各地を結ぶ国際定期バスには、たくさんのダブルデッカーが使われている。早めに乗り込めば、2階席の先頭でバスがル・シャトルの車内へと吸い込まれて行く様子をしっかり観察することができる。


貨車に入る瞬間をバス車内から撮ってみた(筆者撮影)

ル・シャトルは車載用貨車、および車が貨車に入るための出入り用の車両が連結されている。乗用車やバイクを載せる貨車は2階建てとなっている。これらが全長700mを超える長大編成となっている。自動車はル・シャトルの最後尾から入って、順々に前に向かって走り、前方が詰まったところで停める。雰囲気は細い地下駐車場に入って行くような感じだ。自動車が所定の位置に停車し、車両連結部のドアを閉めてから発車。その後列車は海峡を潜り、対岸に着いたらエンジンをかけ、先頭まで走ってホームへ出る、といった流れとなる。

乗客は海峡横断の間、自分のクルマや乗って来たバスの中で過ごしてもいいが、貨車の通路や空いている場所に出て(ただし、いすはない)おしゃべりなどしていても構わない。トイレも設けられている。走行中の35分がなんとも退屈なので、バスの乗客たちも「何か飲食物でも売りに来てくれたらうれしいのにね」と語り合っていた。

トンネルの持ち主は誰か

では、ユーロトンネルは誰の持ち物なのだろうか。トンネルはゲットリンク(Getlink)という会社が運営している。なんとも意味不明なネーミングだが、元々の会社名である「グループ・ユーロトンネル」の頭の文字(GとEとT)をそれぞれ取ったもの。ゲットリンクの名は2017年11月から使っている。

同社は英仏のゼネコンや銀行などの出資により設立された。英仏両国政府からの出資は合わせて3%しかなく、ほぼ民間会社だ。主な収入はル・シャトルの運賃で、これが売上高の半分以上を占める。そのほかユーロスターのトンネル使用料と貨物列車による収入がある。

一般の人々の間ではユーロスターのおかげで「高速列車で英国が欧州大陸と陸続きとなっている」という印象で語られることが多いが、実は、トンネル経由で海峡を渡る利用者数で見ると、ユーロスターよりもル・シャトルの方が多い。

こうしてユーロトンネルの「使い道」を見て行くと、高速列車だけでなく貨物列車、そしてクルマ、バイクやバス、トラックをも含めたあらゆる陸上交通機関をすべて収容できる作りとなっている。つまり、高速列車のユーロスターだけを優先して所要時間の短縮を進めるのではなく、貨物列車やル・シャトルの速度とのバランスも取りながらすべての利用者にとってwin-winな運行を行なっているというわけだ。