「真似しやすさ」も売れる要素のひとつ(写真は本人のインスタグラム)

「NHK紅白歌合戦」も「ガキの使い」の年末特番も終わって年が明けた直後に、その年のお笑い界の行く末を占う重要な番組が放送されます。それが「ぐるナイ おもしろ荘」(日本テレビ系)です。

この番組では、ほかのところにあまり出ていない新進気鋭の若手芸人たちがナインティナインの前でネタを披露します。その中の何組かがここに出たことをきっかけに爆発的にブレークしています。これまでに横澤夏子、おかずクラブ、ブルゾンちえみなど数々のスターがここから輩出されています。

2017年1月1日に放送された回では、ブルゾンちえみがこの番組に出て一夜で人生を変えたという前例があるだけに、この日出ていた若手芸人たちも気合いが入っていました。一度は芸人を辞めた父親が自分の娘を巻き込んで再始動した異色の親子コンビの「完熟フレッシュ」、ドラマのような男女の恋愛模様を情熱的に演じた「レインボー」など、それぞれが個性を生かして会場を沸かせていました。

その中でも特に視聴者に大きな衝撃を与えたのが、ピン芸人の「ひょっこりはん」でした。マッシュルームヘアに黒メガネ、白のタンクトップと青のスパッツに身を包んだその見た目だけでもインパクト抜群。

彼が披露したのは、音楽に合わせてさまざまな物陰から顔を出すだけのシンプルなネタでした。ひょろ長い体を怪しげにくねらせて、ここぞというタイミングで「はい、ひょっこりはん」という掛け声に合わせて顔を覗かせるのです。

「おもしろ荘」出演から3カ月でドラマデビュー

それから約3カ月の間に、ひょっこりはんは順調にスターへの階段を駆け上がっています。女優の綾瀬はるかや、欅坂46の長濱ねるなどがテレビ、SNSで彼のネタを真似したことが話題になり、その波は一般人にも広がっていきました。女子高生などの若い世代が真似をするだけではなく、大人が自分の子供やペットにその動きを真似させる写真も続々とアップされています。

2018年3月にはワイモバイルのCMで桐谷美玲との共演を果たし、嵐の松本潤主演のドラマ「99.9-刑事専門弁護士-SEASON供廖TBS系)にもゲスト出演しました。その勢いはバラエティ番組の枠を超えて広がっています。「物陰から顔を覗かせる」というだけのシンプルな芸が、これほどまでに注目を集めている理由はどこにあるのでしょうか?

ブレークの最大の要因は、何と言ってもその単純さにあると思います。「真似したくなる」というのはヒットするネタやギャグの基本条件ですが、ひょっこりはんのネタはただ真似したくなるだけでなく、その手軽さでも群を抜いています。

ただ物陰から顔を出せばいいだけなので、ハードルが低くて誰でも簡単に真似できるのです。本家のネタはあの顔の造形と、とぼけた表情が絶妙だからこそ笑えるのですが、普通の人が真似するときにはそこまでがんばって表情を作る必要もありません。無理に面白い顔をしなくても、無表情であればそれだけでネタが成立するのです。

そもそも、ひょっこりと顔を覗かせるあのポーズは、アイドルのグラビア撮影などでは定番中の定番とも言えるかわいらしいポーズです。女性タレントや子供があの仕草をする写真や動画を見ると、誰でもほほえましい気持ちになるのではないでしょうか。

つまり、面白おかしく真似できるのならそれはそれでいいし、たとえそうなっていなくても「ほほえましい」というふうに見てもらえる。このように、どちらに転んでもいいというのがこのネタの魅力なのです。

ブレークの理由は「真似しやすさ」

ひょっこりはん本人は、髪型や服装も特徴的ですし、よく見ると顔を覗かせる瞬間の足の開き方なども絶妙に面白いのですが、ネタを真似するだけなら見た目にそこまでこだわる必要もありません。ただひょっこりと顔を出せばいい。この圧倒的なハードルの低さこそが、彼のネタが短期間で爆発的に広まった理由だと思います。

また、真似しやすいということは、今後ほかの芸人やタレントとさまざまな形でコラボすることも期待できるということです。ご飯に合うおかずが無限にあるように、シンプルなものだからこそ、その組み合わせの幅は広がるのです。

ネタの冒頭で、ひょっこりはんは舞台に姿を現しません。本人の声で「さあ、みんなでひょっこりはんを呼んでみよう」というアナウンスが流れて、それに合わせて観客がひょっこりはんの名前を呼ぶと、舞台袖から彼が顔を覗かせるのです。彼は観客を「みんな」と呼んでネタを進めていきます。

ひょっこりはんは意識的に子供番組のフォーマットを取り入れています。子供をターゲットにしているような設定で見る人のハードルを下げるというのも彼の戦略でしょう。昨年後半に大流行したにゃんこスターの縄跳びネタもこの形式です。子供番組の「うたのおにいさん・おねえさん」のような格好をした2人が、あえて幼稚な設定のネタを演じていました。

「子供が真似したくなるネタは流行る」というのはお笑い界の定説ですが、最近ではそれを見越して、初めから子供ウケを狙って意図的にそういう形のネタを作るというのも有効な戦略になりつつあるのです。

もともとは正統派の芸人だった

ひょっこりはんの面白さの秘密は、本人の素顔が見えないというところにもあります。彼自身はもともとコンビで漫才をやっていたこともある正統派の芸人だったのですが、その時期のことはあまり知られていません。だから、「おもしろ荘」に彼が出たとき、正体不明の謎の人物が新しいキャラクターを演じていること自体にインパクトがありました。

CMやドラマにも出演してすっかり売れっ子になった今でも、彼はバラエティ番組などで素のキャラクターをあまり見せていないように思います。その点についても、ひょっこりはんというキャラクターに「謎」を残しておきたいという意図があるのではないかと考えられます。

ただ、現代のバラエティ番組では、長く出ているといずれ素のキャラクターを見せることを求められがちです。隠されている素顔が明かされて、謎が消えてしまったら、そのときにはひょっこりはんにかかっていた魔法も解けてしまうかもしれません。突如湧き上がったこの「ひょっこりはんブーム」がどこまで続くのか、ここからが本当の勝負になりそうです。