4月に開学する長野県立大学は木のぬくもりが感じられるキャンパスだ。ユニークなのは、1年生はたとえ県内に住んでいても全員が寮生活ということ。他の都道府県よりも進んでいる長野県の新たな戦略とは?(写真:長野県提供)

長野県の阿部守一知事との対談の前編では、国難ともいうべき少子化を何とか食い止めようと努力している同県の取り組みを紹介。大企業の本社機能の地方分散がその本質的な解決策であることを改めて説明した。後編では、「もうひとつの柱」となる解決策について意見を交わしながら、同県がその解決策をどのように実践しているのかを紹介。また、これからの時代に求められる「地方自治体の首長の資質」についても語る。

前編:長野県がガチで取り組む「出生率1.84作戦」

地方からの「若者の流出」に歯止めをかけるには?

中原:私のかねてからの持論は、少子化の大きな流れを止めるためには、「大企業の本社機能の分散」と「地方大学の振興」を組み合わせてこそ、いっそうの効果が発揮できるだろうというものです。


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しかし現状では、地方の大学が都市部の大学を上回る魅力を持つにはいたらず、若者の流出に歯止めがかかっていません。

少子化により若者の数が減り続ける見通しだったにもかかわらず、日本の大学数は1988年の490校から増加の一途をたどり、2016年には777校にまで増えてしまっていて、定員割れを起こしている大学が300校近くもあるのです。長い目で見れば、多くの大学が淘汰される厳しい状況下であっても、地方自治体は若者をつなぎとめるために、地方大学の学力や魅力度を底上げできるように懸命に努力しなければならないと考えています。

たとえば、地方自治体が大企業を誘致する条件として、大企業が欲する人材を教育する専門職大学や単科大学をつくるというアイデアはどうでしょうか。当然のことながら、専門職大学や単科大学をつくるために、最初からそのすべてを地方の財政で賄うというのは無理があります。

だから地方自治体は、淘汰により廃校になった大学・高校や不要になった施設などを改修・刷新することで再利用するという選択肢を持つべきです。採用に直結する専門職大学や単科大学であれば、学生と企業の双方にメリットがあり、卒業後に若者が大都市圏に流出するという事態も回避できるはずです。

そこでお伺いしたいのは、長野県では地方大学の振興策について、具体的にはどのような取り組みをなされているのでしょうか。

阿部:私も基本的に同じ問題意識を持っており、長野県に魅力ある大学を創りたいとずっと思っていました。実は、今年4月に新しく長野県立大学を開学します。「人口が減少する社会のなかで、どうして今さら大学を創る必要があるのか?」という議論は、当初からかなりありました。

私がまず何とかしたいのは、長野県はかつて教育県といわれていた県なのですが、今では県内大学の収容力が、全国最低レベルといえるくらい少ないということです。本当は県内に大学があれば県内に残ってもいいと思っている学生も、県内に大学がないために多くが大都市圏に出ていってしまうので、大学の数が少ないというのは大きな問題だと思っています。

それと同時に、これからの時代に必要とされる、グローバルな視点を持って地域にイノベーションを起こすことのできる人材、地域のリーダーとなれる人材を育成する大学を設立しようということで、長野県立大学の創立に取り組んできました。おっしゃるように、地域が発展するためには、地方からイノベーションを起こしていく社会にしなければいけません。そういったことを考えると、知の拠点としての大学と地域の経済発展というのは、これまでとは比較にならないほど密接にかかわっていくだろうと思っています。

大学の卒業要件厳格化が長野の振興につながる

中原:さらに地方大学の振興を促進するためには、卒業の要件を厳しくする必要がありますね。誰でも大学に進学できる環境を整えながら、全員が必ずしも卒業できないシステムに改めていくことが求められているのです。大学が卒業生に対して専門職にふさわしい知識や技能、思考力を担保できなければ、地方大学の振興には程遠いし、ひいては地方経済の発展に寄与することなど到底できないからです。

東京の有名大学に先駆けて、地方の大学からこういった取り組みを始める必要があるのではないでしょうか。現に、秋田県の国際教養大学は卒業が難しいカリキュラムで知られ、勉学に一生懸命に励まないと卒業ができません。その結果、大企業が相次いで秋田までわざわざ採用活動に訪れているというのです。先見性のある阿部知事が大学を新設するということは、当然のことながら、卒業が難しいという方針は盛り込まれているわけですよね。

阿部:そのとおりです。私も今の大学で変えなければいけないと思っているのは、学生が入るまでは一生懸命勉強するけれど、その後は何となく卒業ができてしまうことです。

ですから、私は大学を創る手本として国際教養大学にも学びに行きましたし、国際教養大学の中嶋嶺雄・前理事長兼学長は松本市のご出身なので、私の主観的な見解かもしれませんが、国際教養大学は何となく信州の雰囲気があるような気がしています。

中嶋先生は長野県という教育県で育たれた方ですから、そういう思いを貫徹しようという意思が強くて、あのような大学ができたのだと思います。残念ながらお亡くなりになられましたが、長野県立大学を開学するにあたり、最初の頃はずいぶんアドバイスをいただいたりしていましたね。

阿部:大学の組織をつくるうえではやはり「人」が大事なので、理事長予定者にはイノベーティブな方に就任いただきたいという考えから、ソニーの社長をやっていた安藤国威さんにお受けいただいていますし、学長予定者には学者一族の金田一真澄先生にお受けいただいて、安藤・金田一体制で長野県立大学の設立を進めてきています。

長野県立大学では1年生は全員、寮に入ってもらいます。近所に住んでいても寮に入らなければいけないのかという疑問の声も聞かれますが、学習する習慣をしっかりと持続させるためには、1年生にはきっちりと集団生活を学ばせようと考えています。それから2年生は短期ではありますが、全員を海外に行かせようと思っています。そういった理念をずっと貫徹していきたいので、今年入学する1期生には是非良い模範となってもらいたいと期待しています。

地方大学の振興の話は長野県立大学だけではなくて、県としては新たに「信州高等教育支援センター」をつくって、県内の各大学との連携をこれまで以上に強化しています。

たとえば、松本大学が教育学部を新設する時は県として応援させていただきましたし、諏訪東京理科大学を公立化していこうという計画も県として相当バックアップをさせていただいています。県内の国立大学、私立大学、公立大学は、緊密に連携をとりながら共に発展する体制を築きつつあります。どちらかというと大学は国・文部科学省の直営というような感覚が全国的にあるなかで、県がかなり踏み込んで高等教育機関と連携しているというのは、長野県の大きな特色ではないかと思っています。

優秀な学生を育てても、地方には「良い就職先」が少ない

中原:長野県の取り組みはすばらしいですね。秋田県の国際教養大学のケースで残念に思うのは、地元に良い就職先がないために、卒業生がそのまま秋田県の企業に就職するケースは皆無に等しく、卒業生の圧倒的多数が東京の企業に就職するという状況になってしまっていることです。地元にあれほど優秀な大学があるのに、実にもったいないと思います。

しかも、卒業生はみな英語がペラペラでグローバルな視点を持っているにもかかわらず、海外の企業に就職するケースはほとんどないと聞いています。それはなぜかというと、海外に留学して日本との違いを認識して、やはり日本が衣食住も治安もいいということを理解しているわけです。地元に能力を活かせる企業があれば、そのまま就職してくれる可能性が高いわけですね。

身近な事例をひとつ挙げると、私の地元に筑波大学という優秀な大学があります。勉学に励む優秀な学生が多いため、大企業の採用部門の評価が非常に高いことでも有名です。ところが、せっかく優秀な大学があっても、やはり卒業生が地元に残って就職するというケースは極めてまれなのです。卒業生の大多数が東京の企業に就職するという状況に甘んじているのです。秋田の国際教養大学と同じく、せっかく地元に優秀な大学があっても、地元に良質な雇用がなければ意味をなさなくなるという典型例であるといえるでしょう。

中原:その他の視点では、私だったら、今ある高専の定員を大幅に増員して企業誘致とセットにしたいと考えますが、それは国が管轄しているところなので、やはり地方自治体では難しいのでしょうか。高専の生徒への企業の引き合いは相当に強いと思うのですが。

阿部:おっしゃるとおりです。長野高専は非常に就職率が高くて、いつも企業の皆さんからは引き合いが強いのですよ。これは私たちもよく考えなければならないテーマですが、先ほど申し上げたように、高等教育は国・文部科学省の直営であるという感覚があって、そもそも信州大学とか国立高専のような国が経営しているところは県があまりコミットしづらい、かかわりづらいという感覚がありました。

長野はモノづくり技術に加え経営者も育成する

阿部:しかし今では大学が独立行政法人になって国寄りのスタンスが変わってきているので、私はもっと踏み込んだ連携をしていく必要があるだろうと思っています。その意味では、高専の皆さんとも連携を強化していかなければならないですし、今まさにそういった転換期に来ているのかもしれないですね。

高専と同じく、技術系の人材に対する需要は、特に長野県はモノづくり産業が盛んなので非常に旺盛です。ですから、今までは県内では上田地域にしかなかった工科短期大学校を上伊那地域にも新しく設置しました。

また、長野県では農業大学校と林業大学校を持っているのですが、農業大学校については、これまでどおり農業技術の教育をするだけではなく、実践経営者コースをつくって経営もしっかりと学ばせていくような形にしました。林業大学校については、国が専門職大学を新しい学びの場として打ち出したばかりなので、国の動きを見ながら、より良い人材育成機関として発展していくように検討していきたいと思っています。

中原:長野県の取り組みは十分に地方のトップランナーとしての役割を果たしていると思います。いずれにしても他の地方自治体にも、おのおのの地方の強みや特色をデータの形で見える化したうえで、マーケティングに力を入れながら地方大学の振興策に取り組んでもらいたいですね。

地方大学の底上げという問題はそれだけを考えていては不十分であって、良質な雇用の確保という問題と併せて考えるようにしなければ中身の薄いものとなってしまいます。ところが、ほぼすべての自治体がこれらを別々の問題としてとらえているため、対策を講じても効果は出ない結末となっているというわけですよね。

私が強く願うのは、地方自治体が自らの地域の特色や強みを分析したうえで、大企業の誘致と地方大学の振興を組み合わせた施策を進めてもらいたいということです。やはり、相性の良い施策を組み合わせてこそ、相応の効果を発揮することが期待できるからです。地方に良質な雇用が生まれれば、若者が地方に残って働くという選択肢も広がります。それが地方における少子化の緩和や活性化にもつながっていくし、ひいては日本全体の人口減少の加速を止めることにもつながっていくわけです。

中原:そういった意味で私は、地方が少子化をできるかぎり抑え、地方創生を成し遂げるためには、地方の首長の強力なリーダーシップが欠かせないと確信しています。地方の首長が地域の住民に何としても明るい未来を見せたいという情熱を持たなければ、首長が柔軟な思考力と本質を見抜く才覚を持っていなければ、その地方の未来は極めて暗いものとなってしまうでしょう。要するに、これからの地方が何とか現状を維持していくのか、それとも坂を転げ落ちるように転落していくのか、それは首長の情熱と才覚にかかっているというわけです。

阿部:私も長野県を豊かにするためには、相当の使命感と危機感を持って取り組まなければならないと思っています。都道府県の仕事というのは法令で決められている仕事が多いのですが、知事として仕事をしていて思うのは、全国一律の制度にただ乗っかっているだけでは都道府県が自治体である必要性はないし、知事が選挙で選ばれる必要性もないということです。私が県民の皆さんに選挙で選んでいただいて知事として仕事をしているからには、長野県の個性とか強みをどのように生かして地方の活性化につなげていくかということは、いつも考えています。

地方が人口減少や少子化の問題に向き合っていくためには、やはり産業政策が大きな柱になります。長野県はモノづくり産業をさらに発展させたうえで、観光業や農業・林業といった産業をどうやって振興していくかというところで、他の自治体と差別化していきたいと考えています。さらには、子どもの教育、大人の学び、職業人材の育成といったことにしっかりと取り組んでいくという点でも、他の自治体との差別化を図っていきたいと思っています。

東京への人口集中を逆回転させる競争が必要

中原:人口が増え続けていた時代では、たとえ何も考えていない首長が何期もリーダーを務めたとしても、よほどのまれなケースでないかぎり、地方自治体が苦境に陥るようなことはありませんでした。しかし、これからの人口減少が加速していく時代では、首長の情熱や才覚がかつてないほど試される時代に入ってきたといえると思います。地方自治体のあいだで住民の奪い合いが始まり、いや応なく弱肉強食の様相が強まってくる流れが決まっているからです。首長の情熱や才覚によって、持ちこたえる地方自治体と転落する地方自治体に峻別されていくのではないでしょうかね。

「これから10年以内にはすべての都道府県で人口が減り始めるというのに、地方自治体のあいだで人口を奪い合っても意味がない」という意見があるかもしれません。しかし、そのくらいの危機意識を持って競争にならなければ、多くの地方自治体も一生懸命にはならないのですから、むしろ全体としては大いに意味があることだと思っています。将来の日本が少子化をできるだけ緩和するためには、どうしても東京や大都市圏への人口集中を逆回転させるような競争が必要であるからです。

これは決してお世辞ではありませんが、阿部知事のように先見性を持って頑張っている知事が日本に10人もいれば、私は日本の未来はそんなに暗くないのではないかと思っています。