朝起きてから眠るまで、毎日あわただしく過ごしていませんか?

「忙しい生活を見直したいけど、どうしたらいいのかわからない」という人は、自分と向き合う習慣として“マインドフルネス”を試してみてはいかがでしょうか。

マインドフルネスは、「今、ここ」に集中するための脳と心のトレーニングで、グーグルやフェイスブックなどの世界のトップ企業でも活用されています。

でもそれって、バリバリ仕事を頑張りたい人のためのものじゃないの? 私たちも取り入れるメリットはあるの?

そんな疑問を携えて、一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表の荻野淳也(おぎの・じゅんや)さんに話を聞きました。

瞑想って本当に効果があるの?

--今日はよろしくお願いします。最近、起きた瞬間から眠りにつくまで「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」と頭がフル回転の状態で、1日が飛ぶように過ぎていきます。もう少し今を大切にしたいと思い、マインドフルネスに興味を持ちました。

荻野淳也さん(以下、荻野):おそらく今、Doingモードになっていると思うので、マインドフルネス瞑想を行うのはおすすめです。今の呼吸に注意を向けることで、過去や未来への不安や恐れ、雑念を軽減し、思考をクリアにしていきます。

--瞑想って、スピリチュアルっぽいですよね。

荻野:注意力のトレーニングとも言われています。マインドフルネスの効果として、感情のマネジメント力が高まり、仕事の生産性が上がると世界中のトップ企業や優れたリーダーたちに注目されているんですよ。

--いろいろな情報に振り回されて、注意散漫になりがちなので、集中できるようになりたい……。

荻野:ちょっとやってみましょうか。椅子に座ったままで大丈夫です。背筋を伸ばした状態で、リラックスしてください。その状態で、呼吸に注意を向けていきます。雑念がわいてきたら、また呼吸に戻すというプロセスを5分から10分ほど繰り返します。

<マインドフルネス瞑想のポイント>
1.呼吸に注意を向ける
2.注意がそれる。雑念がわく
3.注意がそれたことに気づく
4.それた注意を呼吸に戻す。雑念を手放す

荻野:(マインドフルネス瞑想が終了して)いかがでしたか?

--ざ……雑念だらけでした(苦笑)。どんな感想を言えばいいだろうとか、インタビューの段取りとか、どんな経路で帰社しようかな……とか。余計なことばっかり考えて、申し訳ないです。

荻野:大丈夫ですよ(笑)。今日は仕事で来ているので、気になるのは当然です。ここで大切なことは「注意がそれて、雑念がわいていることに気づく」ことです。

--なぜそれが大切なのでしょうか?

荻野:おっしゃったように、呼吸に注意を向けているはずが、用意している質問の順番や段取りを振り返ったり、最寄駅までのルートを思い浮かべたりと、頭の中にいろいろな考えが浮かんでは消えていったはずです。仕事だけでなく、そういえば肩が凝っているな、寝ても疲れが取れた気がしないなど、身体の他の部分が気になってしまうのも雑念がわいた状態です。

--肩こりのこと、考えていました(苦笑)。私たち、日常の中で雑念に囲まれて暮らしているんですね。

荻野:そうですね。頭の中が雑念でいっぱいになっている状態に気づけなかったらどうなると思いますか?

--本来やるべきことに集中できなくて、仕事の効率が落ちてしまうかも。もっと雑念に振り回されないようにしなきゃ。

判断せず、あるがままを受け入れる

荻野:その考え方も気をつけたほうがいいです。というのも、雑念を悪いものだと思うと、「雑念を追い払うにはどうしたらいいか」と、また違う雑念がわいてきますよね。

--今、雑念の底なし沼にハマった……。

荻野:ここで大切なのは、「雑念がわいた自分を責めない、評価判断しない」ということです。あるがままの自分の状態を観察して受け入れる。呼吸から注意がそれても、そのことに気づいて、雑念はそっとそばに置いてまた呼吸に戻る。このトレーニングの目的のひとつは、自分の選択で大事なことに注意を戻せると気づくことにあります。

--これができるようになると、どんな変化が起こりますか?

荻野:今の自分の状態に気づけるようになります。僕たちの言葉で言うと、セルフアウェアネス、つまり、自己認識力です。自分の身体や感情、長所や短所、価値観などを知る鍵になり、その結果として「本来の自分ではないもの」を手放せるようになります。

--具体的にはどういうことでしょうか?

荻野:例えば、「いつも仕事のことばかり考えて不安になる」というパターンがあるとします。それをマインドフルネスで、上司や知人に「いい仕事をしたね」と言われることに価値を置いているのかもしれないと気づく。でも、評価軸を他者に委ねてしまうと「自分」が揺らいでしまいますよね。ならばその価値を手放そう、と。

普通は幻想

--わかる気がします。社会に委ねてしまうこともありますよね。今はそれほどではなくなったとはいえ、恋愛して結婚して出産するのが「普通の生き方」と言われると、そうじゃない自分は「普通じゃない」のかなって考えてしまうことがあります。

荻野:普通って幻想ですよ。自分が持っている普通は、他の人の普通とは違いますから。悩んでしまうというのは、普通という幻想に囚われて、自分の人生を失っている状態だと思うんです。世の中で言われる普通というのは、あるグループだけに通じるものかもしれませんよね。一番大事なのは、普通に惑わされないこと。それが「本来の自分ではないもの」を手放して自分自身の軸を固めるところであり、自分の価値観を知ることだと思います。

--自分の軸かぁ……。

荻野:たびたび「自分らしいライフスタイル」なんてメディアでは取り上げられますが、それは発信する側の作るライフスタイルであって、自分に合うかどうかは、いったん自分の生活や価値観を見つめ直す必要がありますよね。

なぜメディアが発信するライフスタイルに合わせたいと思うのか。それは社会でいうところの普通に対して、そこに属していない自分に対して、不安や恐れがあるのではないでしょうか。恐怖心とか執着心を起点に行動していることに気づいた方がいいと思うんですよ。

--不安や恐怖を起点に行動している……。ああ。そうかもしれません。

荻野:世の中でいうよくわからない幻想の普通に惑わされて、普通に結婚しなきゃとか、普通に子どもを産まなきゃとか振り回される必要はありません。大事なのは、自分がそうしたいのかどうかです。自分が本心からパートナーと人生を歩みたいと思えば、真剣にパートナーを探せばいいし、子どもを産みたい・育てたいというのならその方法を探せばいい。

--それが本心だと気づくには?

荻野:ポジティブな感情が行動の起点になっているかどうかです。自分と向き合った時、心の内側からわいてくるワクワクするような気持ちをもっと大事にして欲しいと思います。

(取材・文:ウートピ編集部・安次富陽子、撮影:青木勇太)