外国人が喜ぶ「おもてなし」はいったい何なのでしょうか。写真はイメージ(写真:JulieanneBirch/iStock)

日本や日本人の印象を訪日外国人観光客に聞くと、「安心できる」「マナーがいい」と答える人が多い。

筆者は、インバウンド研究を始めて以来、100人以上の訪日中国人にデプスインタビュー(1対1の面談式インタビュー)を行ったが、同じ結果だ。百貨店での多くの商品を出してもらっても嫌な顔をしないプロの接客は、店員が上位にある中国人にとって、感動するカルチャー・ショックである。また、知らない街で道に迷い、通りかかった日本人に尋ねると、言葉が通じなくても駅・目的地まで送ってくれたという心温まるエピソードを、私は10人以上から伺っている。

知らない人を基本的に信用しない中国人は、「やはり日本は、助け合い、信頼といった美徳を守ってきた。本当にすばらしい」と、心から感嘆するのだ。日本としても、お客様への「おもてなし」を大々的に宣伝し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのPRポイントもこの「おもてなし」だ。

しかしこの1、2年、筆者がますます感じてきているのは、この「おもてなし」が何よりインバウンドの「不安要素」になっていることである。その理由は、訪日外国人が多様化しており、より深い顧客理解が必要となってきたからだ。今回は、2つの事例を通して、「おもてなし」に関する、現在の日本インバウンドにおける3つの課題を分析したい。

日本好きな30代中国人夫婦の体験談

1年前の冬、私は、来日した30代中国人夫婦の密着同行取材を行った。この夫婦は中国の地方都市出身で、それぞれ中国の民間企業と外資企業に勤務しており、世帯年収1000万円程度である。親から援助してもらって、上海に約8000万円のマンションを買い、住んでいる。

ファッションセンスは同年代の日本人より劣っているかもしれないが、海外旅行を気軽に楽しむ優雅なカップルだ。そして、夫婦ともアニメ世代であり、日本に高い好感度を抱き、日本に関するあらゆる情報を収集し、いち早くマルチビザ(有効期間内であれば何度でも出入国が可能なビザ)を取得し、日本によく来ている。

来日中は、夫がスマホ翻訳アプリで、妻は独学したシンプルな日本語(50音が読め、ある程度単語がわかり、簡単な対話ができるレベル)で交流している。

彼らにとっての、他の観光客と差別化できる自慢は、百貨店、ドラッグストア、各種専門店等の「メンバーズカード」の登録である。ポイントをためて何か優遇を受けるというより、「常連客」「日本に詳しい」という(自分・他人への)自慢・印象付けが目的であるそうだ。

初対面の際、メンバーズカード、アプリを見せてくれて、「どうですか、劉さん。こんなにメンバーズカードを持つ外国人観光客はあまりいないでしょう? 私たちは生活者っぽい観光客でしょう。」と自慢げに語った。しかし、このメンバーズカードが後ほど大きなダメージを与えたのだ。

メンバーズカード提示と免税手続き

銀座の有名文房具店で3時間かけて文房具の買い物三昧をした後、お互いの両親にお土産を買うため、近くのファッション専門店に入った。ここには、この夫婦は何度も訪れているので、時間を無駄遣いせず、さっと4人分の服を買い、免税レジに並んだ。

店員がメンバーズカードの有無を確認せず、無言のまま会計を始めた。その途中で、妻が「あ、メンバーズアプリのスキャンを忘れた」と気付き、慌てて店員に見せた。店員の若い男性が、(何で観光客がメンバーズアプリスキャンを求めているの!?)といった驚いた顔をし、しばらくしてから「免税とメンバーズカードの利用は一緒にできない」と日本語で答えた。

妻は、なんとなく意味をわかり、私に「だめだと言われた」ことを確認し、「おかしいな、今までできていたのに……」と疑問を呈した。そこで、たまたま通りかかった別の店員に確認したところ、「メンバーズカードを利用したいのであれば、免税手続きをいったんキャンセルし、最初からやり直すことになります」と返答した。

つまり、この店では、「メンバーズカード提示→会計→免税手続き」という仕組みであり、メンバーズカードと免税手続きの同時利用不可ということではなかったのだ。その夫婦は、店員のあやまった対応に応じてしまうところだった。

結局、その夫婦は(意地を張って)メンバーズカードをスキャンしてもらい、会計をやり直してもらった。「スキャンしてもクーポンや優遇もないとわかっている。ちゃんと仕組みを説明してもらえばスキャンしなくてもよかったのだが、最初にメンバーズカードはありますかという問い掛けもなかったし、『一緒には利用できません』と騙されるとは思いもしませんでした」と本音を吐いた。

その後1年、偶然かもしれないが、いつも豪快に日本観光を楽しんでいたこの夫婦は、その後1回も日本に来ていない。

この残念なケースからは、2つの課題が見えてくる。

まず、システム対応の課題である。免税手続きをしたら、メンバーズカードの登録ができなくなるシステムの設計は、店員にとって「やり直し」をしなければならない面倒くさい作業だ。もしスキャンの順番を自由にできれば、とてもスムーズにできるはずだ。柔軟にシステムを構築していれば、店員は嘘をつかなくても済んだし、一組の熱烈なファンである顧客を流出させることもなかっただろう。

2つ目の課題は、システムより本質な課題である、外国人観光客ニーズへの「気づき」だ。

今までの訪日外国人、特に訪日中国人に対する店舗側の捉え方は、「お客様」より「商品を大量に買ってくれる人」であることが多いだろう。何もしなくても爆買いをしてくれるし、こちらから特に何も努力しなくても売り上げが増えている。訪日中国人のニーズを理解しようとしていないのではないだろうか。

訪日客それぞれに目的と楽しみ方がある

現在の訪日中国人は、属性も行動パターンも明らかに多様化している。団体旅行で初めて海外旅行に来る人、アニメの舞台になった町に行って聖地詣でするアニメマニア、半年分の赤ちゃん用品の購入に来る若いパパ・ママ、還暦を迎える親への孝行でよい旅・よい買い物を体験させたい中年、あるいは上述の夫婦のように違う国に何度も訪れ、現地っぽい暮らしを体験してみたい人達……。

それぞれの目的と注目ポイントがあるわけだ。つまり、今まで一括りで見た「中国人」ではなく、自社商品・サービスに、どういう訪日中国人が、いったい何を求めているかを確かめておくことが重要となってきている。

団体旅行で初めて日本を訪れる観光客だったら、中国より安いからとりあえずたくさん買う気持ちが強いだろうが、何回も来日しているリピーターは、買い物自体も珍しい体験から、さらなる付加価値を求めるようになった。今後、リピーターがますます増える一方であり、彼らのニーズを把握する必要性が増してきた。

訪日中国人が、何もしなくても買ってくれる良き時代が終わりつつある。訪日中国人の中から有望なターゲットを見つけ出し、ターゲットごとに、彼らのホンネとインサイト(消費行動のツボ)を引き出すターゲット・マーケティングが必須なのだ。つまり、お客様としてきちんと調査、研究し、顧客として理解しなければならないのである。

その理解がなければ、「なんで外国人なのにメンバーズカードを持つの? たいしてメリットも受けられないのに」という誤解を招くだろう。彼らの本当の深層心理は、「地元民みたいにメンバーズカードを持つ、使うことで自慢したい」である。それを理解できないことが問題なのだ。

顧客理解不足以外に…

もう1つの例を紹介したい。

読者の皆様は、日本のある航空会社で、国際線機内販売で購入したとき、すてきなラッピング袋をもらえることはご存じだろうか。紐を結べば、とても上品でかわいいギフトに仕上がる。

私が定期的にインタビューする20代後半の北京出身の女性がいる。彼女が年数回は日本にくる日本ファンであり、航空会社のサービスまで比較し、たくさんの情報を収集している。彼女はその袋が大好きで、その袋でプレゼントを贈りたいため、訪日する度に、その航空会社にいつも乗り、機内で買い物をすることを楽しみにしていたそうだ。

彼女は、2月に東京から北京帰りの便で、親戚にお土産を渡すため4個のお土産を購入した。そこで、客室乗務員(CA)に「プレゼントにしたいので、予備を見込んでラッピング袋を5つもらえませんか?」とお願いしたところ、CAは非常に驚いた顔をし、「申し訳ありません。数が限られており、機内販売の数しかお渡しできません」と。「わかりました。(たぶん在庫が少ないだろうから)では3枚もらえませんか?」と再度依頼すると、CAはそのまま席を離れたそうだ。

しばらくしてから、ラッピング袋一束を持ちながら、「これは、今日の往復用ですが……(少ないから欲しいと言わないで)」という。彼女はさすがにおかしいと思い、「在庫が少ない(から渡したくない)というのはお客に言う話でしょうか」と質問した。10分ほど放置され、再度戻ってくると、購入商品の確認もせず、無言のまま会計をし、商品とラッピング袋を置いていったという。

彼女がいつも楽しみにしていた機内での買い物は、不愉快な記憶になった。「なんでお客なのに、こんな態度をされないといけないの? ラッピング袋は、外国人だからだめなの?」と私に悔しそうに質問したが、私は何も応えられなかった。

おそらく、そのフライトは、外国人客が多く、ラッピング袋の存在を知る人が少ないと考え在庫量が少なかったのではなかろうか。したがって、エコノミークラスの彼女に渡したら、ビジネスクラス、ファーストクラスのお客のリクエストに応えられなくなる恐れがあるので渡したくなかったのだろう。

上記のメンバーズカードと同じく、おそらく、このCAもたまたま「気づき」ができなかったのだろう。日本の航空会社のきれいにラッピングできる袋が、外国人の彼女にとってどれほど大事なものであり、その袋で相手に尊重と喜びを感じてほしいという気持ちを理解できなかったのだろう。

とはいえ、CAを責めることはできない。この「顧客理解」ができていない原因は、3つ目の課題でもある、人手不足によるものだと思うからである。

2.4%(2018年1月)という低失業率を誇る日本は、ほぼ完全雇用を達成した一方、さまざまな業界で人手不足になっている。特にインバウンド業界では、言語・リテラシー・プロ知識が全部揃っている人をなかなか見つけられない。

しかし、インバウンド業務が急増しているので、とにかく採用することが重視され、初期研修に時間をかけられず、業務を遂行しながら習得するOJT形式の研修が増えていると聞いている。したがって、このフライトで起きたことは、おそらく、十分な訓練を受けていないCAが、業務遂行だけで手一杯で、顧客目線でサービスする余裕がないことから生じたケースなのではないだろうか。

「おもてなし」は「顧客理解」から始まるもの

メンバーズカードもラッピング袋も、ファッション会社と航空会社にとって「服を売る」「人を運ぶ」といった本業から見ると、些末な「業務」にすぎないかもしれない。いちいち対応したら業務は大変なことになりそうだが、「神は細部に宿る」と言われるように、このささやかな業務がお客の満足度を大きく左右する。

とはいえ、企業や経営者から見ると、馴染みのある国内消費者より、訪日外国人への対応は何倍も難しいだろう。多言語対応、新決済方式の導入、人材育成、トラブル対応……考えるだけで頭が痛くなる。

ただ、ここで考えていただきたいのは、インバウンドは、日本国内で行われる国際ビジネスであり、他国の顧客と向き合うビジネスである。日本国内市場で数少ない成長性があるインバウンド事業に取り組みたいなら、定期的に顧客インタビュー、顧客アンケートなどを実施し、まず「顧客」として、彼らのニーズ、行動、満足度を理解することが必要だろう。

人手不足だからこそ、顧客理解を深め、「顧客目線」に立って、無駄を省くことが重要である。メンバーズカードとラッピング袋はあくまで一例だが、ターゲット層の外国人観光客はいったい何を求めており、そして何を気にしていないのかを区別することができる。結果、効果的・効率的に商品やサービスを提供することが、ますます進化するインバウンド業界で「勝ち組」であり続けるキーポイントなのではないだろうか。