マーケティング活動をインハウス化するクライアントが増えている。将来的には、人材紹介がエージェンシーの仕事のひとつになるかもしれない。

2017年6月、レッドストーン連邦クレジットユニオン(Redstone Federal Credit Union)は、新しい広告担当マネージャーを探していた。そこで、同じアラバマを拠点とする取引先のソーシャルメディアエージェンシー、ムーブ・デジタル(Move Digital)に対し、有望な人材がいないかどうか尋ねた。依頼を受けたムーブ・デジタルのプレジデント、ローリー・ハード氏は、すぐにある人物を推薦。最終的に、その人物が採用されることとなった。

これはムーブ・デジタルだけの話ではない。クリエイティブ分野の人材を求めるクライアントをエージェンシーが支援する例が増えている。なかには、人材紹介サービスを立ち上げてクライアントを支援することを検討しているエージェンシーもある。米DIGIDAYはこの記事のために12社のエージェンシーを取材したが、そのうち8社がクライアントの人材獲得を支援していた。しかも、無償でだ。エージェンシーの狙いは、クライアントとの信頼関係を深めること、そしてクライアントの社内に味方を作ることにある。

「(エージェンシーが)クライアントの関係者と親しくなれば、深い関わりをもてるチャンスがそれだけ増える」と、調査会社ピボタルリサーチ(Pivotal Research)でシニアリサーチアナリストを務めるブライアン・ウィーザー氏はいう。

人材紹介のニーズ



人材紹介のニーズは間違いなくある。人材会社のクリエイティブグループ(The Creative Group)がエージェンシーと一般企業の幹部400人を対象に実施した調査では、43%のマーケターが必要な人材を確保できないと答えていた。

エージェンシーのワンダーマン(Wunderman)で北米最高経営責任者(CEO)を務めるセス・ソロモンズ氏によれば、同社はこれまでに8社のクライアントの人材獲得を支援。デジタル、マーケティング、テクノロジー、データ、分析など、さまざまな業務分野で上級職の人材を発掘したという。人材採用を支援したクライアントの名前は明らかにしなかったが、支援した企業の規模はさまざまで、数百万人の顧客を抱える企業もあれば、数十万人の顧客にサービスを提供している企業もあったという。同社の広告事業のクライアントには、マイクロソフト(Microsoft)やTモバイル(T-Mobile)といった企業もいる。

WPP傘下のデジタルエージェンシー、ミルム(Mirum)でマネージングディレクターを務めるジュリー・コープセル氏は、半導体大手のクアルコム(Qualcomm)やインターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(InterContinental Hotels Group)いったクライントとの関係構築に努めている。この取り組みには、先方の要望に応じて人材探しを支援する仕事も含まれているのだ。コープセル氏によれば、この半年間で、少なくとも3社のクライアントにマーケティング担当の人材を紹介したという。クライアントは、ミルムが「素晴らしい人材を知っている」という理由だけで、ミルムのもとにやって来るそうだ。

再契約か、人材紹介か



場合によっては、ワンダーマン(Wunderman)やミルムなどのエージェンシーのように、何年も前からクライアントのために採用活動を行っているところもある。しかし、プロクターアンドギャンブル(The Procter & Gamble:以下、P&G)、ユニリーバ(Unilever)、チョバニ(Chobani)、ユナイテッド航空(United Airlines)といった企業のマーケターが、クリエイティブ、プログラマティック、コンテンツ制作などの業務でインハウス化を進めていることを考えれば、不思議な話ではないだろう。

エージェンシーにとって、クライアントの人材獲得を支援することは、自社のビジネスの寿命を縮める行為でもある。たとえば、14社のクライアントを抱えるムーブ・デジタルは、インハウスで仕事ができる人材を紹介したことがきっかけで仕事を失ったとハード氏はいう。「我々はいま、以前クライアントだった企業と、再び契約を交わすか新しい人材をもうひとり紹介するかを話し合っているところだ」とハード氏は語った。

エージェンシー各社は、人材を紹介することで、短期的には自社のビジネスに損害が出る可能性があることを認めている。だが、長期的にみれば、新たなチャンスがもたらされるかもしれないと彼らは考えている。

エージェンシー本来の目的



ソロモンズ氏も、そうした期待を抱くひとりだ。クライアントのために人材を紹介すれば、自社のビジネスが減ってしまう可能性があることを知りながらも、長期的にはメリットを得られる可能性が高いと同氏は考えている。ワンダーマンは無償で人材を紹介しているが、対象は関係の深いクライアントのみだ。

「結局のところ、我々の目的は彼ら(クライアント)の成功を支援することなのだ」と、ソロモンズ氏はいう。「したがって、彼らの成功のために取り組めば、それだけ有利な立場を獲得できるようになる」。

ミルムのコープセル氏もこの意見に同意する。「いずれにしても、クライアントは人材を見つけ出してくる。それならば、我々の味方になってくれる人が(クライアントの)社内に居てくれたほうがいい」とコープセル氏は語った。

ソロモンズ氏はまた、クライアントのために有能な人材を見つけることで、エージェンシーとの信頼関係を確立できると考えている。両者の関係においては、信頼性と透明性が問題となるからだ。コンサルティング企業のアールスリー(R3)が2016年に行った調査によれば、エージェンシーとマーケターの関係が続く期間は平均で3.2年だった。「優れた仕事をして、さらに価値を提供すれば、彼らは我々を信頼してくれる」をソロモンズ氏は述べている。

正式サービスとするところも



いまのところ、エージェンシーによる人材紹介のほとんどは、無償で不定期に行われている。だが、正式な人材紹介サービスを立ち上げることを検討しているエージェンシーもある。人材を社内で抱えようという動きが強まるなか、このようなサービスを提供することは理にかなっている。ピボタルリサーチのウィーザー氏によれば、いまのように競争が厳しい時期には、従来の広告エージェンシーはもちろん、専門性の高いエージェンシーであっても、常に事業を見直し、新しいビジネスや収益源を見つけ出す必要があるという。

コンサルティング企業のサカス・アンド・カンパニー(Sakas & Company)でエージェンシー向けのコンサルティングや管理職コーチングを手がけるカール・サカス氏は、エージェンシーが提供できる可能性がある人材関連サービスとして、新規採用者の研修、人材の選考、人材発掘の戦略策定を挙げた。

たとえば、クリエィティブエージェンシーのR/GAは、クライアントや潜在的なクライアントがR/GAの仕事について学べる「R/GAユニバーシティ(R/GA University)」というプログラムを提供しているが、このプログラムに人材サービスを加えることを検討している。ただし、有料にするかどうかなど、サービスの詳細はまだ決まっていない。

別の独立系エージェンシーも、人材サービスの立ち上げを検討していると匿名で明かしてくれた。「人材を求めるクライアントが増えているため、できる限り彼らを支援したいと考えている」と、このエージェンシーの幹部は述べている。この人物によれば、早ければ2019年にも有料の人材紹介サービスを開始する可能性があるという。

「将来のエージェンシーの姿」



「これが将来のエージェンシーの姿になることは間違いない」と、サカス氏はいう。「クライアントの人材獲得を支援すれば、エージェンシーの売上が減ることになるだろう。これは確かなことだ。だが、彼らがいまより多くの業務をインハウスで手がけるようになったとき、そのエージェンシーを役に立つ存在と考えるのか、あるいはそのエージェンシーに不満を抱くことになるのかを考えるべきだ」と、サカス氏は語った。

Ilyse Liffreing(原文 / 訳:ガリレオ)