静岡でサーフィン 40歳Uターンの満足度

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「地方創生」を成功させるにはどうすればいいのか。必要なのは斬新なアイデアではなく、アイデアを推進する人材を確保することだ。三菱総研の住本啓研修研究員は「各地の成功事例では『よそ者、若者、ばか者』の活躍が顕著。特に40代の『ロスジェネ』に注目すべきだ」という。そんなロスジェネの地方移住の実態とは――。

■地方に移住したロスジェネの体験

ロスジェネ・リバイバルに焦点を当てるシリーズの第2回目のテーマは、「ロスジェネは地方創生の起爆剤になる」だ。私は日本社会が活力を取り戻すためには、「地方創生」を推進すべきだと考えている。そして、その推進には、定年後のシニア世代ではなく、働き盛りで人数が多いロスジェネを呼び込むことがいちばんだ。そこで本稿では地方にロスジェネを呼び込むための条件について探ってみたい。

まず、私が知り合ったロスジェネの地方移住体験を紹介しよう。

「仕事を辞める覚悟だったんです」

田中誠(仮名、40歳)さんは、東京でIT企業に就職、奥さん・子ども1人と暮らしていた。自然に囲まれた環境で子育てしたいと常々考えていた田中さんは、出身地の静岡県掛川市へのUターンを検討。転職を考え求人を探すが、内容面でも待遇面でも希望にあう仕事が見つからず、踏み切ることができないでいた。

だが、3年前に父親が怪我をして入院することに。幸い大事には至らずすぐに退院できたものの、一人っ子であった田中さんはこれをきっかけに親の介護を真剣に考えるようになり、Uターンすることを決断。やりがいがない仕事でもいいから転職するしかないと覚悟を決め、社長に事情を話したところ、返ってきたのは想定外の言葉。「お前に辞めてもらっては困る。それなら掛川にオフィスを作ろう」。その後、会社は掛川事務所を開設してくれることになり、やっていた仕事をそのまま掛川ですることになった。

家族で移住した当初は、東京では無縁であった近所づきあいや車がないと生活できない環境に戸惑ったが、移住から2年たった今、海にも山にもほど近く自然に囲まれた掛川での生活を家族全員満足していると言う。田中さんは最近サーフィンをはじめ、週末や通勤前に市内の海岸に通っているそうだ。

仕事面では、田中さんも商工会議所主催の交流会などを通じ地域の経営者たちとも交流している。田中さんにとって意外な発見だったのは、地域の経営者から聞く悩みの多くは、自身や会社のスキルで解決できるものだったことだ。

「社長の本当の狙いはそこにあったのでしょうね」。そう語る田中さんは、東京のクライアントの仕事をこなしながら、地域ビジネスを構想中。自分たちのスキルを活かすことで、ビジネスを通じて地元に貢献していきたいと思っている。

移住する上で諦めようとしていた仕事面でも、東京にいる時よりもさらにやりがいを感じるようになり、家庭も趣味も充実した生活を送っているとのことである。

一昔前の移住は引退後のセカンドライフが話題の中心であったが、昨今、現役世代の移住が注目されている。

三菱総研の調査(※1)によると、3大都市圏に居住する25歳〜75歳のうち、20.5%の人が移住意向を持っており、特に30代以下、40代の男性はそれぞれ25.1%、25.3%と比較的高い(図表1)。

※1 三菱総合研究所『「人口移動効果を踏まえた自治体の福祉政策展開」に関する調査研究』(平成26年3月)

■地方に移住したいロスジェネの横顔は

それでは、地方に移住したいと考える三大都市圏のロスジェネは、どのような価値観を持った人たちなのであろうか。三菱総研では、毎年大規模な生活意識調査(※2)を行っている。最新調査結果である2017年調査結果を用い、三大都市圏に住むロスジェネのうち、移住を検討している層とそうではない層を比較してみた。

すると、地方に移住したいと考える三大都市圏のロスジェネは、仕事も余暇も頑張る層であり、仕事上のストレスを抱え、今後は社会貢献や充実感の得られる仕事をしながら、余暇を楽しみたいと考えていることが分かってきた。

彼らの特徴を3つの側面から紹介したい。1つ目は、仕事観である。彼らの現在の状況について特徴的なのは、「出世を常に目指す」、「終業後に予定があっても、急な仕事が入れば残業する」比率が高く、ストレスを感じながら仕事をしており、今後の意向としては、「自分や家族の時間を優先できる仕事につく」、「満足感や充実感のある仕事をする」、「社会貢献できる仕事をする」比率が比較的高い(図表2)。

移住を検討している層は、就職氷河期を経験してきた彼らの中で、ひと際、出世をするために残業もいとわず、したがってストレスを感じている人たちのようである。それゆえ、今後は出世よりも仕事上の充実感・社会貢献を優先、また、仕事以外の時間を大事にしたいと考えている。

2つ目は、余暇の過ごし方である。移住を検討している層には、余暇は比較的家の中で過ごさず、スポーツや趣味を楽しんでいる人が比較的多い。今後の意向としては、それらに加え、地域活動や社会活動、資格取得などの学習もしていきたいと考えており、アクティブに余暇を過ごしている層だといえる(図表3)。

3つ目は、生活観である。生きがいの種類を聞くと、余暇・趣味や仕事の割合が比較的高く、特にないとする人の割合が低い。また、生活満足度をみると、食事や健康、自分の能力の発揮、余暇・趣味、レジャーの過ごし方などで満足度が低い(図表4)。

冒頭に登場してもらった田中さんは、移住したことにより、趣味などの余暇の時間を大事にしながら、社会貢献につながる・充実感のある仕事を幸運にも手に入れ、満足度の高い生活を送っているケースといえるだろう。

※2 mif:(Market Intelligence & Forecast:生活者市場予測システム)の略称。2011年から毎年6月に設問総数約2000問、20歳から69歳を対象として日本の縮図となるような3万人を対象に実施している生活者調査。

■ロスジェネが地方を変える

ただ、実際のところ、田中さんのように地方移住を通じて生き方を変えることができた事例はごく少数であろう。一番の課題は仕事である。確かに地方は担い手不足に苦しんでいるが、大都市部に比べ産業や職種が限られているとともに、顕在化した求人ばかりではない。より丹念に探す必要がある。

また、ロスジェネは、「夫婦と子どもからなる世帯」が半数弱と最も多く、生活基盤が現在住んでいる場所で、できているまたはできつつある世代であり、パートナーや子どもの生活を考えると移住へのハードルは高い。

しかし、地方にとって、彼らが地域で活躍することは、他の世代にも増して重要だ。それはなぜか。

地方創生や地域活性化の成功事例では、「よそ者、若者、ばか者」の活躍している事例が多くみられる。地域イノベーションを起こしていくためには、地域内の固定概念にとらわれない客観的な視点を持った人材が必要であり、「よそ者、若者、ばか者」の役割は重要である。だが、多くの地域で悩んでいるのは、「何をすればいいのかを提案する人材」に加え、「それを推進する人材」の不在である。

日本生産性本部による調査(※3)によれば、全国の自治体の30.1%が、地方創生策を進めるための民間人材を確保できていないと答えている。そして、民間人材に求められるノウハウ・スキルとして、全国の自治体のうち約60%が「プロジェクトマネジメント力」を挙げている。

地域を活性化するためのアイデアがあったとしても、それを具現化・推進できる人材がいなければ意味がない。地域が今欲しているのは、地域内の意欲ある人材と協業し、客観的な視点を持ちながらプロジェクトを回していく人材である。

仕事も余暇も頑張り人生経験を積んでいて、かつ気力も体力もじゅうぶん有しており、脂ののったロスジェネに期待したいのは、この点である。

しかし、前述のように移住へのハードルは高い。その中で必要なことは、直ちに移住しないとしても、彼らと地方とのつながりをつくることである。昨今は、お試し居住、移住体験を提供する自治体も増えており、このような機会提供も確かに必要だ。

だが、ロスジェネへのアプローチとしては、それだけでは足りない。移住願望があるロスジェネが地方に望むのは、彼らの経験を活かしながら社会貢献につながり充実感を得られる活躍の場であるからだ。彼らと地方が密に交流し、彼らの活躍の場があるのかどうかを見極めていくことが必要だ。

今、地方では、地域課題の解決を地域住民と共に検討するなどによる、より密度の濃い交流を目指す動きがある。

北海道美瑛町の「地域課題解決プロジェクト」や長野県塩尻市の「MICHIKARA」の取り組みでは、企業の人材育成研修として位置付けつつ、地域課題解決を大都市圏企業社員が地域とともに検討している。

総務省も、平成30年度から「関係人口」創出事業を開始する予定である。これは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる者である「関係人口」に着目し、地域外からの交流の入り口を増やすことを目指す事業である。

このような動きの中で、すぐに具体的な求人の形で見せられないとしても、地域にどのような課題があり、何をしようとしていて、どのような人材を求めているのかをロスジェネに伝えていく、場合によっては彼らと共に考えていく努力が地方側に求められる。

仕事も余暇も頑張る中で経験を積んできたロスジェネが、地方において、地域内人材だけではうまくいかなかった官民の重要なプロジェクトを推進し、地域が活性化していく。ロスジェネ自身も、余暇の時間を大事にしながら、経験を活かしながら地域貢献に直結する充実感の仕事を行い、満足度の高い生活を送る。

就職氷河期、ワーキングプア、リーマンショックなど、社会の前提やロールモデルが崩れる変化の時代に、試行錯誤しながら生きてきたロスジェネは、社会を支えることが期待される脂ののった年代になってきた。このロスジェネが、地方とつながりを持ちながら、人生100年時代の新たなロールモデルを創っていくことに期待したい。

※3 日本生産性本部『地方創生を推進する上で要請される人材像に関するアンケート調査報告書』(平成29年1月)

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住本 啓(すみもと・ひらく)
三菱総合研究所研修研究員
東京都出身。東京大学経済学部卒。中央官庁勤務を経て、静岡県掛川市にIターン。2004年4月、掛川市役所に奉職。環境政策、労働政策、財政、総合政策などを担当後、2017年4月より三菱総合研究所に研修出向中。

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(三菱総合研究所研修研究員 住本 啓)