熊代亨『「若者」をやめて、「大人」を始める「成熟困難時代」をどう生きるか?』(イースト・プレス)

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若い頃の趣味を続けるのは楽しいことです。しかし趣味を広く深く追求すると、「俺はオタクだ」「私はサブカルだ」といった意識が強まり、趣味の縮小が難しくなります。楽しみだったはずの趣味に人生を束縛され、後半生で苦しむ人もいます。精神科医の熊代亨氏は、「いつまでも第一線の愛好家であり続けようとせず、手抜きを認めることが大切だ」といいます――。

※本稿は、熊代亨『「若者」をやめて、「大人」を始める「成熟困難時代」をどう生きるか?』(イースト・プレス)の第7章「趣味とともに生きていくということ」を再編集したものです。

■何歳までコスプレをし続けていられるか

長くサブカルチャーの愛好家を続けているうちに、避けられない問題に直面することがあります。

わかりやすいところでは、キャラクターのコスプレを楽しんでいる人は、一体何歳までコスプレを趣味にし続けられるでしょうか。若い女性キャラクターのコスプレを専らにしている女性などは、自分の年齢が若いキャラクターから離れていくことや、自分の社会的立場が変わっていくことと、コスプレ趣味をどうやって折り合いづけていくのか、いずれ考えなければならなくなるでしょう。

そこまで極端な例でなくても、自分が30代、40代と年を取るにつれて、主人公が10代のアニメやライトノベルを楽しむために必要な読み方が変わってきます。20代のうちはまだ、学生服を着た主人公への感情移入もそれほど難しくありませんが、学生時代から長い年月がたち、おじさんやおばさんになるにつれて、学生服を着た主人公への感情移入は難しくなります。

■加齢に合わせた楽しみ方の軌道修正

年を取ってもアニメやライトノベルを楽しみ続けるためには、自分自身が留年や再入学を繰り返すなどして身も心も学生気分のままであり続けるか、そもそも感情移入に頼らず、遠い世界の物語として眺める習慣を身に付けておかなければなりません。

また、動体視力や反射神経を極度に必要とするゲームのたぐいも、年齢が変わると身体的についていけなくなり、新発売のゲームにキャッチアップしていくことが難しくなっていきます。スポーツにも言えることですが、加齢による身体の変化にあわせて楽しみ方を軌道修正していかないと、自分がやりたいプレイが思うようにできなくていらだったり、心身を故障させてしまったりするおそれが高まります。

では、加齢にあわせてどうやって軌道修正していけば良いのでしょうか。

いちばん簡単な方法は、自分が若かった頃に好きだったコンテンツや、その続編シリーズだけを追いかけていくことです。

私ぐらいの年代では、昔の人気作品とその続編ばかりを楽しみにしている人がかなりいます。たとえば、『キン肉マン』や『ドラゴンボール』の関連作品だけを追いかけている中年、『宇宙戦艦ヤマト2199』のようなリバイバル作品や、『スターウォーズ』シリーズの新作を楽しみにしているような中年です。彼らは、ジャンルの新しいところを開拓していくだけの情熱や甲斐性を失っていますが、昔なじみの作品はいまでも愛しています。どう見ても中年をターゲットにしているとしか思えない、『機動戦士ガンダム』や『新世紀エヴァンゲリオン』に関連した高価な関連グッズを買う人もいます。

このような保守的で、時計の針が止まってしまったかのような愛好家の姿は、新しいコンテンツにも目を通している若い愛好家からはまったく褒められないものでしょうし、反面教師にしたいと感じる人もいるに違いありません。

■中年期のアイデンティティ・メンテナンスにも有効

ですが、サブカルチャーを心底楽しんできた青春時代が終わって、もっと他のことにも目を向けなければならない年頃になってからの落としどころとしては、いちばん無理がありませんし、そういった道を選んだからといって、人生の選択を誤っているとは私には思えません。むしろ、自分にとって本当に大切なコンテンツに的を絞ることで、最小の労力で自分の趣味の方面のアイデンティティをメンテナンスし続けられているとも言えます。これは、アイデンティティを確立した中年だからこそできる強みです。

それと、同年代のおじさんおばさんが集まって過去のサブカルチャー趣味の思い出話をするのは、たいへん趣深く、いまの流行について話し合うのとはまた違った楽しさがあります。『銀河英雄伝説』のせりふや、『北斗の拳』の名シーンなどを懐古しておじさんおばさんが盛り上がっているさまは、「若者」から見れば年寄りじみていて、みっともないものと映るかもしれません。しかし、普段は趣味生活からは遠ざかっているおじさんおばさんにとっての懐古的な思い出話は、若者時代に自分たちが愛して選んできたアイデンティティを指差し点検する貴重な機会です。趣味方面の「これって私」「俺ってこういう人間だ」を仲間と一緒に話し合えば、若者時代に愛して自分自身のアイデンティティの一部ともなった、かけがえのないコンテンツについて思い出が鮮やかによみがえります。アイデンティティがぐらつきかけた局面では、こういうことが案外救いになったりもするので、中年期以降のアイデンティティのメンテナンスの一手段として覚えておくと良いでしょう。

■いざとなったら、やめてしまったっていい

「若者」以後の趣味生活を考えるにあたって最優先に考えなければならないのは、自分がいつまでもその分野の第一線の愛好家であり続けることではありません。自分が楽しみ続けられること、自分の人生を望ましいものにしていくことです。楽しみや喜びがあって、無理のないかたちで趣味生活が続けられるなら、それは続けたほうが良いでしょうし、実際に長続きするでしょう。しかし、続けていくことに負担を覚えるというなら、いっそやめてしまうという手もあります。

どのジャンルの趣味でもそうですが、就職後にお金の余裕が生じた若者は、趣味の手を広げようと思えば、どこまででも手を広げられます。知識や経験が足りなくて見通しがつかなかったことも、30代を迎える頃にはわかるようになってくるでしょう。絵や文章を書き続けている人なら、そろそろ技量に磨きがかかってくる時期です。仕事がある程度できている独身のアラサーなら、まさに“独身貴族”と言って良いような趣味生活を楽しめることでしょう。

だからといって、ゆとりにまかせて広く深く攻め続けていると、結婚や子育てなどのライフイベントによって趣味生活を縮小しなければならなくなったときにつらくなってしまいます。

■「趣味=アイデンティティ」にしてしまう危うさ

趣味を広く深く追求すればするほど、あなたの「これって私」「俺ってこういう人間だ」に占める趣味のウエートは大きくなり、サブカルチャー方面のあなたのアイデンティティは堅固なものになります。「俺はオタクだ」「私はサブカルだ」といった意識も強まるでしょう。そのかわり、あなたのアイデンティティに占める趣味の割合が高くなるほど、いざ、趣味生活を縮小せざるを得なくなったときに困ってしまいます。なぜなら、アイデンティティの生命線が趣味一本になってしまった人にとって、趣味の縮小はそのままアイデンティティの縮小、あるいは喪失に繋がりかねず、心理的に耐えられるものではないからです。

現代社会には、攻めに攻めた趣味生活を続けた揚げ句、その趣味によってできあがったアイデンティティを手放せなくなり、人生の大きな決断を避けたまま年を取ってしまう中年も少なくありません。それはそれで愛好家としては志が高いというか、あっぱれな道楽人生ですが、リスクの高い道でもあります。

趣味一本に人生もアイデンティティも懸けてきた人が、無病息災に趣味ざんまいの生活を続けられる保証なんてどこにもありません。先に述べたように、年を取ってくるにつれてサブカルチャー趣味は若い頃と同じようには楽しめなくなってくる部分が出てきて、変化を強いられる部分も出てきます。なにより、健康問題をはじめとしたいろいろな事情に追い立てられて、趣味生活が持続できなくなり、気が付いたら無趣味の人になっている可能性すらあり得るのです。

多くを懸けてきた趣味の持続が困難になった結果、アイデンティティの大黒柱を失った、空っぽのおじさんおばさんが爆誕することになります。

それでもあなたが趣味一筋で生きていくと決意しているとしたら……「頑張ってください」としか言いようがありません。

■手を抜いて楽しむ人をむやみに軽蔑するな

若い頃に威勢の良いことを言っていた愛好家が、加齢や諸事情によって趣味人として衰えていくのを私は幾度となく見てきました。趣味にアイデンティティを全賭けした人生が、どれほど危険で長続きしにくいかは知っているつもりです。それでもなお、自分の愛するジャンルの道へ全力前進する人には、どうかいつまでも健在でいてくださいと祈るほかありません。収入源や健康にもしっかり気を遣って、初心を貫徹してください。

しかし、いざとなったら思い出してください。いま、すごく楽しみにしている趣味が10年後にはあまり楽しくなくなったら、やめてしまったっていいのです。手を抜いたほうが良いかなと思ったら手を抜くべきですし、そういう手抜きな楽しみ方をしている人のことも、むやみに軽蔑しないでください。趣味人として、少しずつ弱っていく年上の人を反面教師として敬遠するのも良いですが、いざとなったら彼らの保守的な趣味生活をコピー・アンド・ペーストしたって構わないのです。いつか、自分の好きなものとの付き合い方を変えなければならなくなったときに参考になるのは、肩の力の抜けた趣味生活を続けている人たちです。

楽しみだったはずの趣味に人生を束縛されるあまり、後半生が苦しくなってしまっては、本末転倒というほかありません。

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熊代亨(くましろ・とおる)
精神科医
1975年生まれ。信州大学医学部卒業。専攻は思春期/青年期の精神医学、特に適応障害領域。ブログ『シロクマの屑籠』にて、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信し続けている。著書に『ロスジェネ心理学』『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)、 『「若作りうつ」社会』(講談社現代新書)、『認められたい』(ヴィレッジブックス)がある。

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(精神科医 熊代 亨 写真=iStock.com)