「お見合いだと、なぜか相手の小さな欠点が目についてしまいます。」(イラスト:堀江篤史)

筆者は愛知県三河地方に住んでいる。都会に比べると、若いうちに結婚する人が多いが、40代の独身者ももちろんいる。少数派である分だけ孤独感や焦燥感は強いかもしれないが、県内の大手メーカーで正社員として働いている小倉利恵さん(仮名、46歳)はそんなそぶりは見せない。


この連載の一覧はこちら

仕事に精を出す傍らに音楽や旅行、飲食などの趣味も満喫し、ときどき恋愛もしてきた。弾むような会話ができる美人でもある。

自分のことは「世の中に意外と多い、明るいこじらせ女子」と認識している。

結婚をすごくしたいと思ったことはなかった

「子どもは欲しかったけれど、結婚をすごくしたいと思ったことは今までの人生でありませんでした。親から何か言われたこともありません。父は体調を崩してから家にいて、母との仲はあまりよくありません。母と私はべったりで、母から頼りにされちゃってるなと感じたこともあります。実家の居心地がいいわけではないけれど、実家暮らしがあまりに長くて普通になっていたので、出ていくなんて考えたことがなかったんです」

利恵さんの実家がある地域は、三河地方の中でも濃密な地域共同体が残っている。近所の「世話焼きおばさん」が明るい美人の利恵さんを放っておくはずはなかった。

「友だちのお母さんです。勝手に心配してくれて、30代の前半に3回ぐらい無理矢理にお見合いをさせられました。全員、条件はいい男性でしたよ。信用金庫などの堅い職業で、私より3〜5歳年上。私はたいてい相手から気に入られるんです(笑)。本当はそんなに家庭的じゃないけれど家庭的に見えるらしいし、適当に話もできるからだと思います」

しかし、利恵さんはことごとく断ってしまう。こじらせ女子だからだ。

「お見合いだと、なぜか相手の小さな欠点が目についてしまいます。話し方、しぐさ、顔、身長などです。どんどん減点していき、気持ちが引いてしまいます。結婚前提じゃない友だち関係は違いますよ。加点方式で相手のいいところを見つけることができます」

このままお見合いを続けていたら相手の男性にも世話焼きおばさんにも迷惑をかけてしまう。利恵さんは「私にはお見合いは無理」と見切りをつけた。

そんな利恵さんが大失恋をする。2016年のことだ。お気に入りの飲食店で知り合った7歳下の新一さん(仮名)と1年ほど付き合い、「仕事が忙しい」という理由でフラれてしまったのだ。

「私は仕事をがんばっている人が好きなので、彼が休日出勤をしても構いませんでした。応援していたし、年下だけど頼もしく思っていたんです。すごく好きだったな……」

最初は、新一さんのほうが利恵さんに熱を上げていた。でも、気がついたら利恵さんのほうが彼にハマっていた。と同時に、新一さんの気持ちは少しずつ利恵さんから離れていった。

外食好きの利恵さんは、恋愛の愚痴を話せるような親しい関係のお店がいくつかある。三河地方にあるイタリア料理店の女主人と常連仲間にも、新一さんとの恋が終わりそうな話をしていた。その常連客の1人が、現在の夫である2歳年上の康彦さん(仮名)だ。

康彦さんはズケズケ言う人

「酔っていてもいなくてもズケズケ言う人です。本当に嫌な人だな、と思っていました。でも、気持ち悪くはないので無視はせずに言い返していました。『なんでアンタにそんなこと言われなくちゃいけないの!?』とケンカになり、カウンター席の端と端で言い合いになったこともあります。お店には悪いことしちゃったな」

利恵さんに言わせると、何でも言いすぎることがある康彦さんの発言内容は95%が「的外れ」だ。しかし、5%の確率で「ヒントになるような、いいこと」を言ってくれる。そして、何よりも利恵さんがしゃべりやすい相手なのだ。

筆者も同じようなことを妻から言われているので、康彦さんには共感してしまう。そして、男性の側からしても、年齢を重ねるごとにしゃべりやすい女性を求めるようになる気がする。「なぜか余計なことまで話してしまう。つまらない冗談を言って冷たくあしらわれるのも楽しい」と感じる女性もいれば、反対に「どうにも会話が続かない。一緒にいると言葉が出てこない」女性もいる。どちらが結婚相手に向いているのかは言うまでもない。

利恵さんと康彦さんは行動範囲が似ていたためか、店の外でも顔を合わせる機会が少なくなかった。利恵さんも康彦さんとの縁を感じていたのかもしれない。女主人と遊びに行く予定がキャンセルになった際、康彦さんがピンチヒッターに指名されても断ることはなかった。

「映画に行ってから食事することになりました。店の外で会うと、いい意味で普通の人だなと感じたんです。いつものようにしゃべりまくらないし、シャイなところもある。すごく変わった人だと思っていたけれど、意外とちゃんとしていると好印象を持ちました」

それから2人は頻繁にデートするようになった。利恵さんは康彦さんと一緒にいることに不思議な居心地の良さを感じると明かす。

「向こうは自営業で、普段は1人きりで働いているので、人としゃべりたいと常に思っているみたいです。友だちも多いほうではないので、私といるときはすごくいっぱいしゃべっています。でも、『またしゃべってるなー』と思うぐらいで、ウザくはありません。お互いが無言のときもありますが、それはそれで大丈夫です」

一方の康彦さんは、仕事にも恋にも趣味にも一生懸命に取り組む利恵さんに以前から好意を持っていたようだ。交際するようになってからは、利恵さんが何をしても「かわいい」を連発しているという。……完全なのろけ話である。

結婚に向けて背中を押してくれたのも、先述のイタリア料理店だった。2人で一緒に店に行くと、常連客から「(結婚は)どうするだ〜」と急かされるのが恒例になった。康彦さんは「そのうちに」とかわしつつ、結婚する意思があることは表明した。しかし、康彦さんは離婚歴があり、すでに成人しているとはいえ子どもがいる。再婚には慎重になっていたようだ。

ずっと一緒にいても自然だ、と初めて思える相手

利恵さんは康彦さんのことを「ずっと一緒にいても自然だ、と初めて思える相手」と認め、プロポーズをされたらOKする気持ちを固めていた。ただし、酒席では避けたい。その気持ちを察したのか、康彦さんはアルコール抜きの場でちゃんとプロポーズをしてくれた。2017年の春のことだ。

「私はまだまだ仕事をしていきたいと思っています。実家の親のことも心配です。康彦さんは両方とも理解をしてくれています」

年末には入籍をし、利恵さんの実家から車で20分ほどの場所にある新築マンションを購入。現在は「意外に快適」な新婚生活を送っている。

「料理とか私にはできないと思っていたけれど、普通にやれています。向こう(康彦さん)もよく動いてくれる人です。食器の片づけとかゴミ出しとか」

好きなことにはとことんこだわりたい利恵さんは、「決めたら行動は早いけれど決めるまでに時間がかかる」タイプだ。せっかく購入した新居は自分たち好みの部屋にしたい。カーテンの色をなかなか選べずに、入居のタイミングが遅れてしまった。

「彼はイライラせずに付き合ってくれました。アドバイスはするものの、私の意見を尊重してくれます。ありがたいです。結局、何色のカーテンにしたか、ですか? オフホワイトです(笑)」

明るくこじらせている利恵さんは、平凡な結論ではあっても、納得がいくまで迷う過程を大事にしたいのだ。結婚相手に関しても、様々な経験をした上で康彦さんに行きついた。利恵さんはいま、現状をどのように感じているのだろうか。

自分には結婚生活は絶対に無理だと思っていたが…

「結婚はこんなに楽しいともっと早くに気づいていれば良かったのに、と思うことはあります。どうしてあんなにためらっていたんだろう。自分には結婚生活は絶対に無理だなんて思っていました。でも、早くに気づいてしまっていたら、康彦さんには出会えなかったから、今がちょうどいいのだと思います!」


またしてものろけ話だが、晩婚さんはどんなにのろけてもいいと思う。遅い幸せを噛みしめていると、周囲にも良いエネルギーを発することができる。

「私との依存関係が強かった母は、私が結婚して家を出ることがショックで倒れてしまいました。でも、その後で娘の私が幸せそうな様子を見て、元気になってくれました。もちろん、親に何かあれば駆けつけます。実家といい距離感を保てると、親にも優しくなれると感じています」

出会った頃は「ズケズケ言う、嫌な人」だと康彦さんを評価していた利恵さん。マイナスからのスタートだった。でも、見合い相手ではなく単なる飲み仲間だったので、「意外とちゃんとしている」と感じるだけで加点することができ、信頼と愛情が湧き上がり、その流れは現在も止まらずに続いている。

今のところ恋愛感情はないけれど、何でも気軽に言い合える関係の異性の友だち。たまには別の場所で会ってみたら、情愛が芽生えるかもしれない。それから先のことは結婚してから育んでもいいと思う。