先日、あるアメリカのテレビ会社が、Netflix(ネットフリックス)とオリジナルの連続ドラマに関する契約を交わした。契約条件によると、テレビ会社とNetflixの双方が番組に資金提供し、配信についても協力していく。テレビ会社はアメリカでそれをリリースし、Netflixは世界的なストリーミング配信の権利を得る。番組の所有権はテレビ会社が保持するので、アメリカ国内や国外で別のライセンスパートナーを探すこともできる。

ただ、この契約条件下では、テレビ会社はある一定期間を過ぎてからでないと、番組を他社にライセンス供与することができない。そしてNetflixは世界190カ国以上でサービス提供しているため、すでに市場で配信されている番組をわざわざ欲しがる国際的なテレビ局や配信会社はそれほど多くない。

本取引に詳しい情報筋は、「アメリカの某テレビ会社は番組制作費を抑えることができるうえに、Netflixオリジナル番組を販売する恩恵を受けられるのだから、ウィンウィンの取引だ。ただ、世界的にテレビで儲けたいと考える大手企業の一員ならば、その種の取引が足かせになる可能性はある」と述べている。

つまるところ、この例が示すのは、スタジオやテレビ局といったテレビ制作会社の多くがNetflixにプロジェクト販売をおこなう際に直面する難問だ。グローバルなストリーミングプラットフォームであるNetflixが手に入れたいのは配信権だ。そして、番組の所有権を手にするため、番組制作にかかるすべての費用を提供する、という意欲を高めている。Netflixはエンターテインメント性が高く、テレビの制作会社にとって「Netflixのオリジナル作品を作った」と名乗れることには、大きな価値がある。しかし、Netflixの取引条件は、ライセンスからマーチャンダイジングに至るまで、制作者側にとって付加収入源を獲得するという期待が、次第に目減りしていくことを意味している。

この件に関して、Netflixはコメントを避けた。

Netflixのメリット



映画およびテレビ業界では、Netflixは巨大企業だ。3月はじめ、同社は今後700ものオリジナルプロジェクトをグローバルに配信していく計画を発表した。そこにはテレビ番組や映画、バラエティ特別番組なども含まれる。これらを支えるのは、2018年に80億ドル(約8400億円)も計上されているコンテンツ予算だ。この金額は、ほかのプラットフォームと比較しても膨大な金額だ。たとえば、Hulu(フールー)が2017年、コンテンツに費やした金額は25億ドル(約2625億円 ※ただし、アメリカ国内のみ)で、AppleとFacebookの両者も2018年の予算はそれぞれ10億ドル(約1050億円)だ。Netflixは、伝統的なメディア複合企業のほうに近い。2017年、スポーツ以外のコンテンツに102億ドル(約1兆710億円)を費やしたNBCユニバーサルやタイムワーナー(80億ドル[約8400億円])、ディズニー(78億ドル[約8190億円])などがその例だ(モフェットナサンソン[MoffetNathanson]調べ)。

Netflix向けの番組制作や、既存の番組のライセンスを供与するだけでも、メリットがある。Netflixは世界中の1億1800万人の加入者にリーチしており、競合他社の入札者と比べて、より高額を投資したり、より多くのエピソードを購入することを厭わないことが多い。通常、Netflixはパートナーの制作会社に、クリエイティブなプロセスを任せ、干渉することが少ない。そして、「ストレンジャーシングス(Stranger Things)」や「ザ・クラウン(The Crown)」といった話題の番組をはじめとするライブラリなど、Netflixのオリジナルシリーズを制作している、ということに市場での取引価値ができる。

コンデナスト・エンタテインメント(Condé Nast Entertainment)でオルタナティブプログラミング担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるジョセフ・ラブラキオ氏は、「私は、7年間エージェントだったが、従来型のテレビ局と厳しい開発プロセスを経るクライアントを数々目にしてきた」と話す。「これは、Netflixでの経験ではない。そこにあるのは、番組を制作する人々がチャンスを得るための創造的な空間を与える文化なのだ」。

立ちはだかる課題



しかし、有料の番組制作だけでなく、ライセンシングやシンジケーションによって付加的な収益をあげるビジネスを何十年にもわたって構築してきた旧来型のテレビスタジオや制作会社にとって、Netflixとの取引は大きな課題だ。

どの取引にも違いはあるものの、次第にNetflixは自身のオリジナルシリーズの所有権を求めるようになっている。もし制作パートナーが交渉の結果、複数の番組所有権を得ることが成功した場合、Netflixが5年から15年、もしくはそれ以上のグローバルなストリーミングライセンスを取得することが多い。(ある情報筋によると、もっとも多いのが7年から10年。別のNetflix販売担当者は、ワーナーブラザーズ[Warner Bros.]やライオンズゲート[Lionsgate]、ソニー[Sony]などの主要スタジオとの取引に使用する一般契約では、ライセンス期間は10年だという)。

「従来型の制作会社なら、これはチャンスにもなり、脅威にもなる」と、アメリカの大手テレビスタジオ幹部はいう。「Netflixから支払われる価格は、市場相場と同等、もしくはそれ以上。通常、料金を前払いで受け取れることは、有意義だ。そして、我々は望み通りの番組を作ることができる。その一方、もし世界的なヒット作品を出しても、従来型のバイヤー向けに作られたものほどは、我々がその価値を十分に得られる可能性が低い、という欠点もある」。

もうひとつの問題は、国際的なバイヤーがNetflixで放送済みの番組を購入することに、二の足を踏むようになっている、という点だ。

Netflixで番組を配信してきたベテランのテレビ会社幹部は「世界中の誰もが、Netflixを恐れている。そして、それが恐れるべき存在だということは、Netflixによって明らかになった」と話す。「ここで問題なのは、どのようにこのビジネス上の関係性を機能させるかということだ。そして、真実をいうと、その方法を知っているという人がいたら、その人が嘘つきなのだ」。

「ノーとはいいがたい」



さらなる選択肢は、むろん、Netflixが番組所有権を持つことを受け入れ、必然的に「雇われ制作会社」になることだ。独立系の制作会社、特にVox Mediaやコンデナスト・エンタテインメントなど、Netflix番組を販売しているデジタルメディアパブリッシャーにとっては、ある程度の収入とNetflixの輪のなかに入れることが確約されるため、魅力的な道のひとつではある。

メディアコンサルティング会社のクリエイティブメディア(Creatv Media)創設者のピーター・クサシー氏は、「Netflixによって、管理はクリエイティブに、制作は柔軟になる。制作会社は従来型のテレビ番組が持つ評価基準に基づいて番組を放映するプレッシャーから解放されることになる」と話す。「このようなメリットを考えれば、Netflixにノーとはいいがたい」。

もちろん、主要なテレビスタジオやテレビ局とは異なり、少なくとも現段階では、Netflixに番組を売り込む、あるいは販売するとなると、デジタルパブリッシャーの影響力は格段に低い。

コンデナストのラブラキオ氏は以前、米DIGIDAYのインタビューに対し、「我々の方が新参なので、その番組を所有するのは我々だ、などといえる立場にはいない」と語った。

Netflixではない選択



一方、番組の所有権や配信への支配力を拡大したいと考える配信会社は、Netflixだけではない。スタジオ関係者の話では、アメリカのテレビ局でも、同じようなことを模索しているものは多いという。ただそこでも、テレビ局との取引では、Netflixにはないメリットがある。

ベテランのテレビ関係幹部は「ケーブルテレビ局はグローバルでないものが一般的だ。海外向けの設備を持つものもあるが、グローバルではない」と話す。「ケーブルテレビなら、私がアフターマーケットの参加権を持つものでは、世界中に番組のライセンス供与を行っている。もし、Netflixがグローバルな権利を所有したら、世界中で何ひとつライセンス供与などしないだろう。それなら、参加することに何の価値があるのか? 彼らが即時支払ってくれる金額分の価値があるだけだ」。

Sahil Patel (原文 / 訳:Conyac)