ソースネクストは昨年秋のIT業界向け見本市に専門ブースを出展するなど、「ポケトーク」の販売拡大を進めている(写真:ソースネクスト)

今、ヨドバシカメラなどの家電量販店では、手のひらサイズの本体に話しかけると、その場で50言語以上の外国語に音声翻訳する通訳機「POCKETALK(ポケトーク)」が人気だ。

通訳したい2言語をタッチして選び、Wi-Fiなど無線でインターネットに接続すれば、双方向で通訳できる。高い精度に加え、複雑な長い文章を翻訳できるのも特長だという。


昨年12月に販売を開始したポケトーク。端末は蘭トラビス社と協力して開発した(写真:ソースネクスト)

ポケトークは2017年12月に発売された製品。本体カラーは黒と白の2種。世界61カ国で使える専用SIMカードをセットしたモデル(2万9800円・税別)と、Wi-Fiで利用できる本体のみのモデル(2万4800円・税別)がある。

発売元は、セキュリティソフトの「ZERO」シリーズや年賀状作成ソフトの「筆まめ」「筆王」で知られるソースネクスト。

同社が昨年10月に発表した後、量販店や同社のオンラインショップに予約が殺到し一時は入荷待ちの状態に陥った。東京オリンピックに向けて高まるインバウンド需要に対応する製品として、2020年までに50万台の販売を目指している。

リアルな「ほんやくコンニャク」!?

ソースネクストには、英語学習用に映画DVDを編集したソフト「超字幕」シリーズがあり、昨年4月には、世界的な語学学習ソフト「ロゼッタストーン」の日本事業を買収した。そして今回、「言葉の壁をなくす」を狙いに投入したのが、このポケトークだ。

製品販売のきっかけとなったのは、昨年2月にスペイン・バルセロナで開催された世界最大の携帯電話見本市、モバイル・ワールド・コングレス(MWC 2017)。オランダのベンチャー企業・トラビス社の翻訳機を見て驚いた開発担当者が、そのまま本社へ直行。

「技術者同士で話し合った結果、日本市場で成算あり」という報告を受けたソースネクストの松田憲幸社長が自ら渡航、トラビス社のCEOとひざ詰めで談判し、国内の独占販売権を獲得。協力して開発を進めることになった。

しかし、欧州の一部のWebサイトで販売されていただけの製品が、成熟した日本のマーケットでそのまま通用するはずもない。トラビス社のスタッフと連携しながら膨大な量のテストと修正を繰り返し、日本版として出せるクオリティに仕上げていった。

これまで多くの海外ソフトを国内でヒットさせてきた同社の技術力に加え、全社の経営資源を集中させた結果、短期間で投入までこぎつけることができたという。

以前から人間がコンピュータにやらせたいと思ってきた夢の機能の1つに、言葉を翻訳して伝えることがある。話しかけるだけで指定した言語に翻訳し、音声でお互いがコミュニケーションできるのなら、ドラえもんの「ほんやくコンニャク」並みの画期的製品といえる。

同社の青山文彦・取締役常務執行役員は「英語に限らず、日本人は語学が苦手なことで有名。インバウンドがさらに増える今後、きっと市場で求められるはずと確信して製品化を決定した」と話す。

接客用途以外にも、海外出張・旅行者にもウケた

Wi‐Fiルーターレンタルの大手、ビジョン社にもいち早くポケトークを提供し、同社は海外へ渡航する日本人へのレンタルを開始している。

主要なターゲットは、小売りや飲食、サービス業などでの訪日外国人観光客相手の利用だ。資生堂ブランドの化粧品の販売を行う資生堂ジャパンは、全国のデパート、ドラッグストアで展開する売り場にポケトークを数台ずつ導入。中国や韓国からの旅行客とのコミュニケーションツールとして美容部員が活用している。テレビ電話を介する通訳サービスなどと比べ、コスト面でメリットがあり、スムーズでわかりやすい接客が好評で追加の注文もあるという。

飲食店などの導入事例では接客のほか、外国人従業員とのコミュニケーションにも使われている。工場・建設現場や介護施設でも同様の事例があり、想定以上の広がりを見せている。

さらに個人による利用も拡大している。ソースネクストによれば、主な顧客層は50〜60代の男性で、年収は1000万円以上が2割とやや高めだという。「発売時期が年末年始に近かったため、海外旅行での利用を考えた人も多かった。出張も含め、海外で使用するアウトバウンドの引き合いが意外に多い」(青山執行役員)。


2018年3月期、ソースネクストは売上高94億円(前期比1.1%増)、営業利益17億円(同9.1%増)と、利益は過去最高を更新する計画を立てている。

ここ数年は、主力のセキュリティソフトが順調に推移したことに加え、2012年に開始した主要携帯3キャリアへのアプリ提供が利益を押し上げてきた。

ただ、足元の2017年4〜12月期(第3四半期)は売上高が前年同期比4%減、営業利益は同37%減と振るわない。これは、前上期までのウィンドウズ10への移行特需が剥落し、セキュリティ製品の売り上げが減少したこと、そしてこのポケトークの開発やマーケティングに経営資源を集中させていたことが原因だ。

目指すはソフト超えへの育成

ポケトークはスタート当初、反響の大きさに生産が追いつかず、店頭や自社サイトで品切れの状態が続いたが、2018年に入って徐々に家電量販店を中心に商品が並ぶようになった。「(ハードを販売するため)ポケトークはソフトほどの粗利はないが、充分な利益は確保できている」(青山執行役員)

同社は来2019年3月期以降、ポケトークをさらに幅広い層に浸透させていく意向だ。そのため、ネット広告にこだわらず、PCとは縁の遠い層にも届くような宣伝や販促活動を加速させる。

また米国やカナダなどでの独占販売権も獲得した。今年1月、ラスベガスで行われた家電見本市「CES 2018」に出展、ブース前には黒山の人だかりができ、大手小売りチェーン向け販売や大手企業での導入の引き合いが来ているという。同社は、2012年に設立した米国子会社を通じて代理店を選定、2019年3月期からの販売開始をもくろんでいる。

青山執行役員は「ポケトークは間違いなく、セキュリティや年賀状作成ソフトをしのぐ当社の看板商品になる。今後はソフトだけでなく、こうした先進的なIoT製品にもチャレンジしていきたい」という。

政府は2020年までに、訪日外国人を年間4000万人、インバウンド消費額を同8兆円まで増やすことを目標に掲げ、そのための課題の1つに、英語などの外国語への対応を挙げている。

現在、量販店でポケトークは電子辞書売り場の一角で展開しているところが多いが、今後、後発のメーカーが競合製品を出して競争が活発になれば、翻訳機器は一大市場に大化けする可能性もありそうだ。