働き方と保育は、表裏をなす問題だ(写真:Fast&Slow / PIXTA)

政府は盛んに「働き方改革」を叫ぶ一方で、待機児童対策も議論しています。しかし、この2つをセットで考えるような論調は見られません。

今、夜間保育を必要とする家庭のニーズが高まっています。たいへん切実な状態のため、もっと整備が必要であることは言うまでもありません。しかし、全体の保育時間が徐々に膨張しているため、保育に関する問題を一層解決しにくくなっています。

会社員の働き方に合わせてきた保育園

育児休業制度の普及により会社員の利用が急増していた20年ほど前、認可保育園の保育時間が短いことが問題になりました。延長保育の実施率が低く、東京でも10時間30分開所(たとえば午前7時30分〜午後6時まで)が一般的でした。

勤務時間が午後5時15分まで、通勤時間が1時間という一般的な会社員でも子どものお迎えに間に合わなかったのです。この反省から、その後、認可保育園も標準開所時間は11時間と決められ、延長保育もどんどん普及しました。


今、新規開設園は必ず延長保育を実施します。上記グラフは保育園を考える親の会『100都市保育力充実度チェック』(首都圏主要市区と政令指定都市が対象)の数字から推移を描いたものです。

これを見ると、延長保育を実施する保育園の延長時間(11時間を超える開所時間)は、実施率の高まりとともに徐々に延びています。2013年度以降は1時間20分以上で推移しています。

通常、1時間延長の保育園は午後7時〜7時30分の間、2時間延長の園は午後8時〜8時30分の間に閉園します。4時間延長、それ以上の延長保育を実施している園もあります。

この閉園時間を見て、「通勤時間を考えると、1時間延長だと大して残業できないね」と思う人が多いでしょう。日本の会社員の普通の感想だと思います。

しかし実は、こんなに長時間保育が普及している国はほかにはないのです。

保育制度が整っている先進国の取り組みを見ていきましょう。たとえば、子どもが保育を受ける権利を保障しているノルウェーでは、1歳から5歳の子どもの9割が保育園入園を希望し、全入できています。

ただし、保育園の開所時間は、午前7時ごろから午後5時ごろまでの10時間が一般的。2011年の調査では、週当たりの平均在園時間は35時間で、実際の利用時間も短いことがわかります。

北欧のほかの国でも、早朝に開園して午後5時、6時ごろに閉園するというパターンが多く、保護者が子どもを迎える時間帯は午後4時ごろが多いといいます。これらの国では、親たちは短時間勤務制度や、フレックスタイムをよく利用しています。

フランスは、日本と同じように保育園の待機児童が多い国ですが、保育ママ(母親アシスタント)などの多様な保育制度が利用できるため、日本ほど待機児童問題が深刻になっていないと言われます。

ただし、これら制度もおおむね、延長保育を含めて遅くとも夕方6時半ごろまで。保育ママについては、利用者との個別の交渉で保育時間が決まります。

日本でも2010年から自治体の保育ママ制度に国が補助金を出すようになり、2015年からの子ども・子育て支援新制度では家庭的保育(認可事業)に進化させています。

しかし、前出の『100都市保育力充実度チェック』の100市区調査では、新制度前の2014年に1262カ所だった保育ママ事業が、2017年には1101カ所(家庭的保育移行事業と従来の保育ママ事業の合計)に減っています。

新制度の「標準保育時間」認定の最大利用時間が週6日・11時間とされたことや、給食提供(猶予期間あり)を求められたことがネガティブに働いた可能性があります。

保育士が担当する園児数が多すぎる

今年3月、横浜市の認可保育園が保育士不足のために閉園するというニュースが流れ、衝撃が走りました。

保育士不足の根本には、待遇の問題があることが明らかですが、仕事の負担の大きさも課題になっています。解決策として業務改善ばかりが言われますが、そもそも保育士配置基準において、保育士1人が担当する子どもの数が多すぎることが問題です。

前述したヨーロッパの国々と比べても、日本の1歳以上児の保育士配置基準は低すぎます。保育事業者団体は配置基準を上げることを国に要請し続けていますが、なかなか実現せず、幼児教育の無償化が優先されてしまいました。

さて、前述の11時間の標準開所時間は、8時間労働の保育士がローテーションでカバーしています。「朝夕の利用者は少ないからできるでしょ」というのが国の言い分です。しかし、お迎えのピークは午後6時から7時の間にずれこんでいます。

延長保育については、補助金と利用料から最低限の人件費は出ていますが、どこの園でもローテーションをぎりぎりの人数で回している状態です。

午前7時から午後8時まで開所するある保育園では、午前6時45分から午後8時15分までの時間帯を、各8時間45分勤務の5つのシフト(休憩時間45分間を含む)でカバーしています。

このローテーション勤務がネックとなり、出産後は正規では続けられないという保育士も少なくありません。子育て中の保育士が遅番をこなすにはパートナーや祖父母の助けが必要であり、パートナーが長時間労働者だと継続は困難になります。経験を積んだ保育士が継続できないことは、保育の質にとっても痛手です。

全体として日本の保育は、ほかの国と比較して、開園時間が長くて保育士の数が不足している状態です。同じ労力とコストでも開園時間を短くすれば、待機児童対策が進めやすくなるでしょう。しかし、今のままでは難しいかもしれません。

「保育先進国」に遠く及ばない日本

今年2月、認可保育園の0歳児の保育時間を一律に午後5時までとしていた東京都荒川区で反旗が翻りました。荒川区は「0歳の間は家庭で育てることが子どもの健やかな成長につながるため」と説明していました。

しかし、親たちは、時短勤務ができず復職できない人、毎日午後4時に帰ることで肩身の狭い思いをする人、給与が大幅削減される人がいると訴えました。ネットで多くの共感を集め、メディアも取り上げた結果、陳情が採択され、この4月から家庭の事情に応じて0歳児の保育時間も延ばすことが決定しています。

さきほど紹介した北欧の国々では、育児休業制度が充実し利用率が非常に高いため、そもそも0歳児保育が実施されてなかったり、あっても利用が少なかったりすると言います。

とはいえ、ここは日本です。2014年に荒川区が調査した結果では「午後5時までに帰宅できる母親は27.9%、父親は1.7%であり、共働きやひとり親でフルタイム勤務の場合、多くの家庭で午後5時までのお迎えは困難」(change.org「荒川区に保育時間の延長を求めます」)であることが明らかになっていました。

財界にも待機児童問題でやるべきことがある

今「1日6時間労働」に向かっているという北欧の国々の保育時間だけを見習うのは無理です。もしも、日本の働き方のまま保育を縮めれば、働く親たちは勤務との間で板挟みになって仕事をやめざるをえなくなり、20年前に逆戻りです。

「保育」と「働き方」は、まさに表裏をなす問題です。現状は、「働き方」が膨張しすぎているために、それが社会のコスト(負担)になっている状態です。

特に、マスを占める平日の日中労働者の労働時間を男女ともにコンパクトにし、結果として、保育の利用時間が全体的にコンパクトになるという将来像は描かれるべきです。特に男性の働き方がカギになります。働く母親の現状はカツカツですが、父親がもっとカバーできるケースも多いはずです。

保育を子どもの権利としているヨーロッパの国々では、子どもを含めた家族が家庭ですごす時間を大切にする権利も認めています。

「働き方」の問題は職場風土や経営の問題に根ざしており、個々人では解決できません。待機児童問題に苛立つ財界には、自分たちにもやるべきことがあることを知っていただきたいと思います。