貨物専用線のBetuweルートをロッテルダムへ向けて走行するコンテナ列車。完全立体交差化された貨物専用線は、総延長113kmに及ぶ(筆者撮影)

昨今、自動車の自動運転技術が脚光を浴びている。いずれ完全な自動運転が実用化されれば、運転手どころか運転免許すら要らないという時代が訪れるかもしれないが、現状では突然の歩行者飛び出しなど、万が一の際の対応についてはまだ課題も多い。実際に、米国では公道で実験中の自動運転車が歩行者をはねて死亡させる事故が発生し、議論を呼んでいる。


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一方、線路という決められた場所を走る鉄道は、ほかの車や歩行者といった障害物の心配がある道路交通と比較すれば自動運転を実現しやすい環境にある。

地下鉄など都市交通ではすでに自動運転が導入されているが、このたびオランダの貨物専用線、Betuwe(ベートゥヴェ)ルートで貨物列車の自動運転試験が行われる運びとなった。1月に運行事業者やシステムのメーカーなどが契約を結び、2018年中にも実施の予定だ。

地下鉄の自動運転は普及

鉄道において、世界で初めて発進から停止まで自動での運転を実用化したのは、英国のロンドン地下鉄だ。1968年に導入されたこのシステムは、ドアの開け閉めと発車のためのボタン操作については運転士の仕事になるが、ドアを閉じた後、出発ボタンを押せば、あとは信号に従って次の駅まで自動で加速し、減速して停車位置に停車する。

当時、新たに建設されたビクトリア線で採用され、まずは末端区間で暫定的に営業を開始した後、1969年3月に正式開業。この開業式典で、一区間ながらエリザベス女王が運転席に添乗し、発車ボタンを押した話は有名だ。現在は、他の2路線にも導入されており、最終的には全路線に広げる予定だ。

その後はさらに一歩進んで、運転席もない完全自動運転を実現した鉄道が誕生した。世界で初めて完全自動運転による営業運転を行ったのは、1981年に誕生した神戸の「ポートライナー」だ。ゴムタイヤを使用した小型の車両がドア開閉や発進・停止までを完全自動で運行するもので「新交通システム」と呼ばれ、日本ではその後東京や広島など各地で採用された。それ以降、全自動運転の鉄道は主に地下鉄など都市交通を中心に、世界各地に広まっている。

一方、完全自動運転といえばゴムタイヤ車両による新交通システムである日本と異なり、海外では通常の鉄車輪を採用した鉄道で完全自動運転を実現している例も多い。


ミラノ地下鉄5号線は、定評のある旧アンサルドブレダ社(現日立レールイタリア)の自動運転システムを採用している(筆者撮影)

1987年に誕生した、英国ロンドンのドックランズ・ライトレイルウェイ(DLR)は、通常の鉄車輪を使ったシステムで、検札や安全確認を行うための乗務員は添乗しているが、基本的にはドア開閉から発進・停止まで、完全自動運転を実現している。コペンハーゲンやミラノの地下鉄などで採用されている、旧アンサルドブレダ(現日立レールイタリア)が開発したシステムも、ドライバーレス(運転士なし)の完全自動運転を実現している。

一般の鉄道でも実用化なるか

だが、これらは新設された地下鉄など、基本的にほかとは隔離された路線での実用化だ。多数の路線と混じり合い、複雑なネットワークで運行されている従来からの一般鉄道システムでの自動運転は、現実的には安全上、まだ多くの課題を抱えている。

そんな中、オランダで予定されている貨物列車での試験は、一般の鉄道における自動運転の実用化に向けた動きの一つといえる。


ロッテルダムは欧州最大の港湾施設を持ち、そこを目指して欧州各地から貨物列車がやってくる(筆者撮影)

自動運転の試験が行われるBetuweルートは、ロッテルダム南郊Kijfhoek(カイフフック)から、ドイツ国境に近いアーネムの郊外Zevenaar(ゼーフェナール)との間を結ぶ全長113kmの貨物専用線。欧州交通ネットワークTEN-T計画の一環として建設され、ドイツや近隣諸国からの貨物を欧州最大のロッテルダム港へ輸送するための重要な幹線として2007年に完成した。線路は完全に立体交差化され、曲線や勾配を抑えた設計となっている。


アルストムの全自動運転システムを採用した、パリ地下鉄14号線(筆者撮影)

今回の走行試験に向けては、アルストム社の技術が採用されている。システムとしては、パリ交通公団の地下鉄などで実績のある自動運転技術を貨物運転用に最適化し、すでに同路線に設置されている欧州標準信号システムETCS Level2(European Train Control System)との組み合わせで、前方列車との間隔や走行速度などを細かく自動制御する仕組みだ。ただし、緊急時の対応のため、完全な無人運転ではなく保安要員としての乗務員が添乗する。

Betuweルートは1時間に片方向最大8本の列車を運転できるキャパシティを持つが、接続するドイツ側の線路改良が完了していないため、現時点ではまだ最大本数での運転は行われていない。しかし、自動運転が実用化されれば、この最大本数よりさらに列車間隔を詰めることも可能となり、より多くの列車を安全に運行することが可能となる。

貨物列車自動化は早期に進むか


複雑に入り組んだターミナル駅周辺の線路。一般鉄道における自動運転技術の普及には、まだ課題も多い(筆者撮影)

日本の新幹線とは異なり、主要都市のターミナル駅付近では在来線を走行する欧州の高速列車は、現時点ではこうした自動運転技術をそのまま転用することは難しい。しかし、ヤード間のみを走行する貨物列車であれば、完全に隔離された専用線だけを走行することが可能となるため、自動運転技術の実用化は早いものと考えられる。

欧州には今回の走行試験を実施するBetuweルートを筆頭に、長大な貨物専用線がいくつか存在しており、システムが実用化されれば将来的には他路線への導入も考えられる。もちろん安全上、完全な無人化は難しいが、自動運転技術の導入によって運転間隔の短縮などが実現すれば輸送力が増強され、運用の大幅な効率化や輸送のコストダウンも図られることになるだろう。自動車よりも実用化で先行するであろう貨物列車の自動運転化は、ほかの輸送手段を含めた物流全体にさまざまな影響を及ぼすのではないだろうか。