何気ない普段の習慣が、いい眠りを阻害しているかもしれない(写真:torwai/iStock)

脳を休め、記憶を整理し、精神機能を回復させ、免疫力を高めることで健康を維持する大事な働きをする「睡眠」。「睡眠負債」という言葉が話題になり、すでに多くの方がご存じかもしれませんが、「睡眠」はムダな時間どころか、人が健やかに生きていくために、なくてはならない大切な時間です。

あなたの睡眠は大丈夫?

睡眠をないがしろにすると、意欲、免疫力、記憶や学習機能、感情のコントロール機能などが低下し、心臓や血管系疾患の発症リスクも上昇するなどいいことがありません。

自分はちゃんと寝ているはずだという方でも、以下のような状態ではありませんか?

□ 目覚めに熟眠感がない
□ いつも眠い
□ 仕事に集中できない、スピードが落ちたと感じる
□ ヒヤっとするミスが増えた
□ イライラしがちで、つい人に当たってしまう
□ やる気が起きず、ため息ばかりでてしまう

これらに当てはまる方は、いい睡眠が取れていないのかもしれません。逆に、質のいい睡眠は翌日のベストコンディションに通じ、仕事上のミスを減らす効果があるばかりか、ひらめきや意欲的な活動に通じます。

新年度を迎えるにあたり、ライフスタイルが大きく変わる方も多いのではないでしょうか。特に自由に寝起きできた学生から、毎朝決まった時間に会社がスタートする社会人への変化は大きなものとなります。

また、春先は気候の影響もあり眠気を感じやすい季節です。睡眠不足のまま無理をしていると、仕事に支障を来すだけでなく、ゴールデンウィークを迎える頃には心身ともになんらかの問題を抱えることになってしまうかもしれません。生活習慣を整えるためのコツを知って、日々意欲的に過ごせるようにしましょう。

特に病的な理由がないのに日頃から眠れないとしたら、普段なんとなくしていることで、自ら眠れなくしているのかもしれません。次のチェックで、NG項目のほうが圧倒的に当てはまったという方は、ライフスタイルがいい眠りを阻害している可能性大。この機会にご自身の睡眠を見直してみましょう。

<朝>

GOOD
・毎朝決まった時間に起きている
・カーテンを開けて朝日を浴びている
・朝食をとっている
・週末の起床時間の違いが、平日と2時間以内に収まっている
NG
・毎日起きる時間がバラバラ
・週末や休日は「寝だめ」と称してダラダラ眠っている
・暗い中、いつまでもふとんの中で過ごしている
・食事は食べたり食べなかったりする

<昼>

GOOD
・活動的に過ごす(外出し、太陽の光を浴びる/ランチを食べに外に出掛ける)
・午後1〜3時の間に15分程度の仮眠をとる
・タンパク質をしっかり取る(バランスのよい食事を心掛ける)
NG
・まったく外出しない
・ほとんど運動しない
・食事はいつも食べたい物だけ食べる

<夜>

GOOD
・食事や飲酒を寝る2時間前に終える
・寝る2時間ほど前に、ぬるめ(39〜41℃程度)のお風呂にゆっくり入る
・夜はリビングや寝室の明かりを間接照明や暖色系に変える
・カフェインの摂取を控える
・リラックスできる時間を持つ
・眠くなってからふとんに入る
NG
・深夜、極端に明るい店内に入る
・寝酒をするなど寝る直前まで飲食する
・寝る前に熱いお風呂に入る
・ふとんに入ってもスマホを見る
・眠くなるまでテレビを見る
・カフェイン入りの飲み物を飲む
・寝る直前まで喫煙する
・7時間は寝るべきだ!と強く思いながら、眠くないのにふとんに入る
・部屋のあかりをつけっぱなしで寝る

睡眠改善の3つのポイント

睡眠は、体内のさまざまシステムが織りなすサイクルのバランスの上に成り立っていますが、主に深部体温の変動と、睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」の分泌が大きなカギになっています。主なメカニズムを理解し、自分の体の中で起きている変化に寄り添うことがいい眠りにつながります。

ポイント1:昼間に体温を上げておく

人の体温は一定のリズムで変化しています。朝型、夜型の違いはありますが、平均すると19〜21時ごろ最も高くなり、明け方4〜5時ごろ最も低くなるというサイクルを繰り返します。

深部体温(体の中心部の体温)が下がりはじめると眠気を生じますが、体温が十分に上がっていないとなかなか眠れないということが起こります。

そこで大切なのが日中の活動です。運動習慣のある人に不眠が少ないという報告もあります。1日中座りっぱなし、休日はゴロゴロしっぱなしでは運動不足になるだけでなく、睡眠にもいい影響はありません。立ち上がって活動的に過ごしましょう。体温を上げるには有酸素運動がおすすめですが、ふだん運動習慣がない方は、1駅分歩いてみる、エレベーターやエスカレーターを階段に変えてみるのもいいでしょう。

運動をするなら体温が上がり、筋肉も動きやすい夕方がおすすめです。夜は寝る3時間前までにしましょう。軽いストレッチも効果的です。ただし、就寝直前の激しい運動は、睡眠には逆効果なので注意してください。

入浴で体温を上げるという手もあります。就寝の2〜3時間前に39度程度のお風呂に入ることで、眠りやすくなります。ただし、あまり熱いお湯に長時間浸かると交感神経が刺激されるだけでなく、体温が下がりにくくなります。どうしても熱いお風呂が好きという方は、できるだけ短時間で済ませたいものです。

「光」と睡眠の関係

ポイント2:夜はメラトニンの分泌の邪魔をしない

「メラトニン」は、目覚めてから15〜16時間後に分泌され、体温が低くなるにつれて分泌量が増え、一定量に達すると自然と眠気が起こるという睡眠に大切なホルモンです。

しかし、「メラトニン」には光を浴びると分泌が停止してしまうという特徴があります。

朝、カーテンを開けて光を浴びることは、「メラトニン」の分泌を停止させ、体内時計のリセットに効果的。ですが、分泌してほしい夜間の停止は困りもの。家庭用の100〜200ルクス程度の照明でも長時間浴びると止まってしまうのです。特に青白い光で強く抑制されてしまうので、青白い蛍光灯やパソコン、スマートフォンの光はよくないとされています。

逆に赤みのある光は分泌を抑制しないとされています。夜はできるだけ青白く明るい光を避け、温かく柔らかい光の下で過ごしましょう。

ちなみに軽いものでもいいので、朝食をとるというのも体内時計を整えるのに役立ちます。朝起きて、カーテンを開けて朝日を浴び、朝食をとることで、体は一気に活動モードへと切りかわります。

朝食は軽いものでかまいません。「メラトニン」の生成に効果的なアミノ酸「トリプトファン」を含む食材は大歓迎。トリプトファンをもとに、神経伝達物質「セロトニン」を経てメラトニンが合成されますが、トリプトファンは体内で合成できないので、食事での摂取が大切なのです。

トリプトファンは身近な多くの食材に含まれているので、ふつうに食事をしていれば欠乏することはありませんが、特に牛乳やチーズ・ヨーグルトなどの乳製品、豆腐・納豆などの大豆製品やナッツ類に多く含まれます。生成にはビタミンやミネラル類も欠かせませんので、1日を通じてバランスのいい食事を心掛けましょう。

ポイント3:体の入眠準備をサポートする

体内で起こるさまざまな事象を自分の意志でコントロールすることはできませんが、体内のリズムに合わせて昼夜のメリハリのある、規則正しい生活習慣を送り、体温と光をうまくコントロールすることで、自然な流れでいい睡眠を得る準備ができます。

さらに、入眠を阻害する数々の行動を避けることで、スムーズな入眠や深い眠りが得られます。ポイントは「交感神経を刺激しない」こと。

眠くなるまで……と見始めたパソコン、スマートフォンやタブレットは、光がメラトニンの分泌を止めるだけでなく、刺激的なニュース、すぐコメントしたくなる投稿や返信したくなるメッセージが交感神経を刺激するため、さらに眠れなくなります。寝る30分前にはナイトモードにして見るのをやめましょう。リアクションするなら、翌日、頭が冴えているときのほうがいいはず。

つい翌日の会議のことを考えて緊張してしまうときは、自分の呼吸に意識を集中しながら深呼吸する、楽しいことを考えるなど、気持ちを切り替えてみましょう。

もしリラックスしたいからと寝る前にお酒を飲みながら喫煙しているとしたら、二重によくありません。タバコのニコチンが強い覚醒効果を持っていますし、アルコールで眠気は得られても、深い眠りが得にくくなり、中途覚醒しやすくなります。カフェインレスのお茶などに切り替えることをおすすめします。

しかし、いくらNG行動を避けても、毎日違った時間に就寝、起床していては体内時計に混乱が生じ、結果的にいい睡眠が得られません。子どもの頃から言われていた「規則正しい生活」の価値は、いい眠りがもたらす健康効果だといえそうです。

良質な睡眠を取る8つのポイント

睡眠習慣を整え、良質な睡眠を取るポイントは以下の8点にまとめられます。

・毎日決まった睡眠時間帯(サイクル)で眠ること
・毎朝、体内時計をきちんとリセットできる環境をつくること
・日中は光を浴び、活動的に過ごし、しっかり体温を上げること
・晩ご飯や晩酌は就寝2時間前に終えること
・夜間はリラックスできる環境をつくること
・強い光、ブルーライト、神経を刺激するカフェインやタバコなどの刺激物、刺激的なコンテンツなど、交感神経を刺激し、睡眠を阻害する要因をできるだけ排除すること
・寝酒はしないこと
・睡眠に導く物質「メラトニン」を作るために、つねにバランスのよい食事を心掛けること

いい睡眠とは横になっていた時間ではなく「質」ですから、「○時間に満たないから自分の睡眠はよくない」などと気にする必要はありません。推奨時間とされているものはあくまでも平均値であり、個人差、年代による違いなどがあるからです。昼間の覚醒中に過度の眠気に襲われず、意欲的に活動できていれば、いい睡眠が得られていると考えられます。

当てはまるNG行動があった方は、その中でまずは2つできそうなことを選び、今日から改善に取り組んでみましょう。