米トランプ大統領の中国をやり玉にあげた強硬的な貿易政策は、「米中貿易戦争」も意識される緊張感を生んだ。このため、一時1ドル=105円割れのドル安・円高局面も迎えた。外為どっとコム総研の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏(写真)は、「政治が外為市場に与える影響は短期間。一時的な混乱が落ち着けば、通貨間の金利差という経済要因が材料視され、ドル/円はドルが買い戻されることになろう」と見通している。

 ――ドル/円は一時1ドル=105円を割り込む波乱の展開になった。今後の展望は?

 22日に、米トランプ大統領が通商法301条に署名し、中国に報復関税を課すと表明したことで、市場に「米中貿易戦争」への懸念が高まり、株価が大幅安となるとともに、リスクオフの円高が進んで1ドル=105円を割り込んだ。米国株価はNYダウ平均が22日と23日の2日間で1000ドル以上の下落、日本の株価も23日に1000円近い急落となった。

 しかし、その後、ドルも株価も戻している。今回の騒動も、トランプ大統領お得意の交渉術で、最初に大風呂敷を広げて危機感をあおり、現実的な落としどころを探ることになるとみている。実際、ムニューシン米財務長官は、中国と関税を巡って協議をしていることを認めているし、中国の李克強首相も「米国との貿易問題は対話で解決できる」と言っている。すぐに解決する問題ではないので、再燃すればドルの上値を抑える要因にはなるが、再び、ドルが大きく売られるような心配はないと考えられる。

 このようなトランプ大統領の強硬姿勢は、鉄鋼とアルミの関税強化の時にもあった。当初は、「一切の例外を認めない」という強い姿勢だったが、結果的には、カナダ、メキシコ、EUもオーストラリアも、韓国も関税強化の対象外となった。

 今年の中間選挙を控えて、トランプ大統領は中国に対して厳しい姿勢で臨む大統領というイメージをアピールしたいのだろう。したがって、そのために米国の景気が悪化するようなことになってしまっては意味がないので、最初の態度は強硬に見えるものの、それが長続きするものではないといえる。このことに、市場は気が付いてきたのだと思う。いずれ、政治的なイベントから市場の関心が薄れ、経済に関心が移っていくものと考えられる。

 もともと、政治的なイベントをきっかけとした市場の変動は長続きしない。これは、2016年6月のBREXIT(英国のEU離脱)の時にもよく表れている。当時は、英ポンドが大きく下落したものの、その後、英国経済が大きく崩れないことなどから、英国中銀(BOE)の利上げ観測が浮上してポンドが買い直された。4月は米国のFOMC(連邦公開市場委員会)がないため、雇用統計などの経済指標を確認し、日米の金利差の変化を注意深く見ていくことになると思う。

 一方、日銀の出口観測が円高要因と見る向きもあるが、これは市場が行き過ぎた反応をしているように思う。日本のコアインフレ率は、ようやく1%に乗ってきたところで、目標の2%は遠い。加えて、2019年10月に消費増税を控えて、そこまでの期間が1年間を切ると、「出口」で消費を冷やすことはやりにくくなると考えられる。この秋までに、インフレ率が2%台にのせて、それが続くようなことは極めて難しく、冷静に考えれば、日銀が出口戦略を考えるような局面ではないといえる。黒田総裁が「粘り強く緩和を続ける」というメッセージを発信し続ければ、円高圧力の後退につながるだろう。

 ――予想されるドル/円のレンジは?

 当面は、米中貿易戦争や北朝鮮情勢で円高に振れるリスクは後退したと思うが、米国のトランプ大統領、中国の習近平国家主席、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長という顔ぶれを考えると、安心はできない。ただ、基本的には、米国の強い景気を背景に日米の金利差が拡大し、ドルが徐々に持ち直していくと考える。