焦点:政府・日銀、円高進行で物価に懸念 デフレ脱却遠のく可能性

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[東京 29日 ロイター] - 年初来の円高進行を受け、政府・日銀は物価への影響を警戒している。早期のデフレ脱却も、日銀が目指す物価2%目標と金融正常化の道のりも遠のく可能性があるためだ。足元の物価上昇を支えてきた既往の円安効果がはく落し、年後半以降は円高が影響してくるとみられる。

一方で経済の好循環に向けて、出足好調な賃上げへの期待は高まっている。政府・日銀は今後の展開について、円高と賃上げという物価への強弱材料の綱引きになるとみており、動向を注視している。

<秋以降に物価押し下げ圧力>

「デフレ脱却はそう簡単ではない」──。経済官庁の複数の幹部は今年3月中旬以降、円高が一段と進行するにつれて物価への影響を気にし始めた。

年初には経済財政諮問会議で「今年はデフレ脱却に向けた重要な年」との発言もあったが、そうした機運はやや後退したように見える。

米トランプ政権の保護主義的な政策発動などを背景に、1月8日に113.40円だったドル/円は3月25日に一時、104.56円までドル安/円高が進んだ。29日は106円台後半で推移しているものの、市場の円高懸念は消えていない。

政府関係者の1人は、円高について「消費者物価に対して3四半期程度たつと影響してくる。足元のCPIの上昇傾向は続かない。今年後半から押し下げ圧力が働いてくる」と指摘する。

その関係者は「為替がどう動こうとも、着実に物価が上がっていく経済にならないと、デフレ脱却と判断できない」と述べる。

少なくともGDPデフレーター(前年比)のプラス推移が明確に定着し、かつ現在0.5%にとどまっている生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIが前年比1%以上のプラスで安定することが必要とのスタンスを示す。

<インフレ期待に影響>

日銀も為替動向を注視している。輸入物価の押し下げを通じて実際の物価が抑制されれば、インフレ期待にも悪影響が出かねないためだ。

日銀は4月26、27日の金融政策決定会合で、2020年度までの経済・物価見通しを示す新たな「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を議論するが、円高傾向が定着すれば、現在「2019年度ごろ」と見込んでいる物価2%の到達時期について、さらなる先送りが議論される可能性も否定できない。

物価が依然として「弱めの動き」(幹部)を続ける中で、日銀は当面、現在の金融緩和政策を粘り強く続けていく方針。

経済官庁の幹部は「政府のデフレ脱却判断が先のことなのだから、日銀の出口政策についても今心配する必要はない」とみている。

<賃上げに先行する値上げ>

一方、昨年の円安や人手不足を背景に、足元で食品やその他の値上げが目立ち、消費への悪影響が懸念されている。

オリエンタルランド<4661.T>は、14年から16年にかけて3年連続でチケット価格を合計1200円分値上げした。その結果、17年3月期の客数がピークの15年3月期から4.4%減少。

ロイヤルホールディングス<8179.T>は 今年1月から傘下の「てんや」で天丼を500円から540円に値上げしたが、客足は2カ月連続前年割れ、2月は5%以上減った。

今後も値上げの動きは続く。4月1日には明治ホールディングス<2269.T>傘下の明治が原材料価格や物流費を価格転嫁し、ブルガリアヨーグルトを4%以上値上げする。

先の経済官庁幹部は「今回、物価が(賃金よりも)先に上がってしまった」として、消費に水を差しかねないと不安げだ。

もっとも今年の春闘賃上げの出足は好調で、先行した物価高を補う所得の伸びにつながれば、値上げの動きも物価上昇に寄与できる。

連合が23日発表した春闘の第2回集計では、賃上げ率が2.17%と昨年2回目の2.05%を上回った。特に実質的な賃上げに当たるベースアップ分は0.64%と、昨年より高く、最近のピークだった15年の0.65%に肩を並べている。

経済官庁幹部は「予想より良い結果と受け止めている」と概ね評価する声が多い。7月にかけて中小企業の回答が追加されるにつれ、例年平均賃上げ率は下振れていくが、今年は人材確保のため、最終結果に期待が持てそうだと政府関係者は口をそろえる。

人手不足感が強まる中、日銀も今春闘における非製造業や中小企業への広がりに期待を寄せる。

雨宮正佳副総裁は20日の就任会見で、物価目標実現に向けた重要な要因として需給ギャップ、インフレ期待、賃金の3点を挙げ「重要なファクターは需給ギャップの改善」と指摘。その改善が続けば「労働需給のひっ迫を通じて、賃金にも影響が及ぶ」と語った。

一方、円高・株安が長期化した場合、輸出や生産など日本の実体経済に波及し、着実な引き締まりを続ける日本経済の需給への影響も懸念される。

(中川泉 伊藤純夫 編集:田巻一彦  )