中島はマリ戦で代表初ゴールを挙げ、ウクライナ戦でも存在感を発揮した。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 マリ戦、ウクライナ戦の2試合は1分1敗。
 
 勝敗は大事だが、ロシア・ワールドカップの最終選考ということを考えれば、選手の見極めこそが今回のベルギー遠征の最大の目的。結果が出ない状況に選手は心理的なダメージを受けているだろうが、ワールドカップの試合こそが大事ゆえ、現状を認識できたことをポジティブに捉えていけばいい。
 
 では、本来の目的であるロシアで戦える選手として評価を上げたのは誰だろうか。
 
 DF陣では槙野智章。ウクライナ戦でセットプレーからゴールを決めたように、その得点力の高さは魅力的。ワールドカップでは大きな武器になる。守備面も自分の間合いで守れるようになって余裕が出てきており、最終ラインもしっかり統率できていた。吉田麻也が復帰すれば、センターバックの守備は計算が立つだろう。
 
 植田直通も悪くなかった。ヘディングの強さは相変わらずであるし、ビルドアップでも長短織り交ぜたパスで貢献していた。Jリーグでたまに見せる軽い守備も今回は露見しなかった。戦えるという部分で極めて海外試合向きなので、ロシア・ワールドカップでも十分使える選手だと思う。
 
 そして、最も評価を高めたのが、中島翔哉だろう。
 
 ポルトガルでの活躍から勢いそのままにプレーし、結果を出したが、中島は単なるラッキーボーイではない。今回の活躍は、尋常ではない練習量と高い向上心という裏付けがあっての結果だ。
 
 中島は「練習の虫」である。
 
 カターレ富山時代は午前中にチーム練習を終えた後、午後はひとりやスタッフに手伝ってもらって長い時で7時間、普通でも5、6時間練習をしていた。フィジカルトレーニングを始め、シュート練習、ドリブルしている時のスピードと持久力向上、ターンや初速の早さを身に付ける練習をだいたい1種目30分から1時間程度こなす。選手にとって「休息も大事だけど」という話をすると中島は「夜休めるからいいし、そもそも身体が強いので練習で壊れることはないです」と涼しい顔をしていた。
 
 FC東京でも個人の練習時間を確保し、そこでは世界を見据えた練習をしていた。中島はそれまで1回ボールを受けると、相手と駆け引きしてというプレーが多かったが、最近の世界のサッカーではそれだと遅くなってしまう。そのためにボールを受けたら相手に考える暇を与えないくらい早く攻める、後ろ向きでもらってもすぐにターンして早いタイミングでシュートまで持っていくプレーを練習していた。そのプレーが今回のマリ戦、ウクライナ戦にも出ていた。
 
 チームの練習をこなすだけでも大変だと思うが、なぜそこまで練習するのか。
 
「基本はサッカーを楽しむためです。理想通りのプレーができれば楽しいと思うんです。もちろん下手でもサッカーは楽しめると思うけど、相手が強くなると自信がなくなったりする。でも、練習してうまくなればブラジルやスペインやバルセロナと試合をしても自分の理想とする完璧なプレーができる。そのために日々練習しているんです」
 
 中島がこれだけの練習を当たり前のようにこなすようになったキッカケが、もうひとつある。エディー・ジョーンズが率いたラグビー日本代表の活躍だ。ラグビー・ワールドカップのイングランド大会で日本は南アフリカから歴史的な勝利を挙げたが、中島はその前から日本代表のホームページなどで、その練習内容や量について興味を持って見ていたという。「あのくらい練習しないと国際舞台で良い結果が出ないんだ」と深く感じ、自らハードな練習を課し、それを今まで継続してきている。
 
 練習嫌いな選手はたくさん見てきたが、これほどまで質も量も半端ない練習をしている選手を見たことはなかった。ストイックを通り越して、サッカーをするために生まれ来たアンドロイドのように見えるが、そんな見られ方もどこ吹く風といった感じで世間の視線を気にする素振りはまったくない。中島には確固たる理想の選手像があるからだ。