プレゼン達人が"聴衆分析"を重視するワケ

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人前で話さなければいけないときに、どこから手をつけるか。プレゼンテーションの達人は「何を話すか」という内容ではなく、「だれに話すか」という聞き手の分析から始めるといいます。優先すべきことは、自分が何を話したいかではなく、相手は何を聞きたいか。6万人以上を指導してきた研修講師の西野浩輝さんがコツを解説します――。(中編、全3回)

■「何を話すか」から考え始めるから、 プレゼンテーションがうまく行かない

みなさんはプレゼンテーションの準備を始めるときに、まず何から考えるでしょうか。多くの人は、「今度のプレゼンでは何を話そうか」ということから考え始めると思います。実はそこに落とし穴があります。

「何を話そうか」から考えると、自分自身が話したいことが頭の中に浮かんできます。けれども「自分が話したいこと=相手が聞きたいこと」ではありません。

例えばあなたがエンジニアだとして、「エンジニアとして新製品を開発することの苦労と喜び」についてプレゼンテーションをする機会があったとします。ただしプレゼンテーションをする相手が同業者なのか、経営者層なのか、あるいは学生なのかによって、相手が興味を持つ話題はまったく違ってきます。同業者には専門性の高い話が求められるでしょうが、学生相手に同じ話をしても相手はちんぷんかんぷんでしょう。

ですからプレゼンテーションの際にまず考えなくてはいけないのは、「今度のプレゼンでは、何を話そうか」ではなく、「今度のプレゼンテーションでは、誰に話すのか」ということです。そして「誰に話すのか」というイメージを明確にしたら、「ではその人に向けて、何をどのように話すのか」という順番になります。

■「聴衆分析マトリクス」で、話す相手をイメージングする

「誰に話すのか」を考えるときに役立つのが、「聴衆分析マトリクス」です。

このマトリクスでは聴衆を「話すテーマについての知識が多いか少ないか」「興味が高いか低いか」の2軸によって4つの象限に分けます(図1参照)。

このうち最も話しやすいのがAゾーンに属する人たちです。知識も豊富で、ニーズも高い。ですからあなたが持っている知識を思う存分話せば、相手はそれだけで食いついてきてくれます。

一方Bゾーンの聴衆は、ニーズは高いものの知識量はそれほどではない人たちです。こういう相手に対しては、例えば新製品についてのプレゼンテーションする場合であれば、その新製品を導入すると「要はどんなメリットがあるか」「これまでの製品と何が違うのか」といったポイントを簡潔に提示します。スペック等についての細かい知識については、必要最低限の説明に抑えます。

では知識もなければ興味もないCゾーンの聴衆に対してはどうすればいいか。この場合、まずは聴衆をBゾーンに引き上げていくことを目指します。「あなたの職場の中にこの製品が入ると、毎日の仕事がこんなふうに変わりますよ」というシーンを具体的に描いて示すことで、「何か自分にも関係ありそうな話だな」と思わせるのです。

さて4つのタイプの中でも一番厄介なのが、Dゾーンの聴衆です。彼らは「ああ、その話ね。よく知っているけど、自分には関係ないよ」と思い込んでいます。生半可に知識があるから、聞く耳持たずになっているわけです。

その「聞く耳持たず」を「聞く耳を持つ」状態にするためには、「自分には関係ないと思っていたけど、実は大いに関係ありそうだぞ」と、いかに思わせるかがカギを握ります。その際、ちょっとしたショック療法的な煽りが効果的です。テレビの健康番組でいえば、「○○の病気って、お年寄りの病気だと思っていませんか。でも最近、40代の女性に増えているんです」といったトークがそれにあたります。そうやって危機感を高め、聞く気にさせることができれば、元々知識はあるわけですから、Dゾーンの聴衆は一気にAゾーンに移行します。

■プレゼンテーションは「コンテンツ」「ストラクチャー」「デリバリー」で考える

聴衆分析が済んだら、いよいよ次は「その人たちに向けて、何をどのように話すのか」を練っていく番です。

プレゼンテーションがうまい人は、大きく3つの要素を備えています(図2参照)。

1つめは、話のネタそのものがおもしろいこと。つまりコンテンツ(内容)が充実していること。
2つめは、話が論理的でわかりやすいこと。つまりストラクチャー(構成)がしっかりしていること。
3つめは、聴き手を惹きつける話し方や振る舞い方ができること。つまりデリバリー(表現)の仕方がうまいこと。

おもしろい話(コンテンツ)を、わかりやすく(ストラクチャー)、魅力的に伝えること(デリバリー)ができたなら、鬼に金棒といえるでしょう。ですから「何をどのように話すのか」を練っていく際にも、この3つの観点で考えていくと、より完成度の高いプレゼンテーションになっていきます。

■具体事例で聴き手を惹きつけ、共感させる

3つのうち、コンテンツづくりでは、「今回のプレゼンテーションの聴き手は、どんな話題に興味を持ってくれそうか」について想像力を働かせるところからスタートします。「今回は経営者層が中心だから、新製品を導入することが経営にどうプラスになるかを中心に話そう」「今回は現場の中間管理職が多いから、新製品の導入によって業務の効率化がどう進むかに力点を置こう」といったふうに考えながら、話題をピックアップしていくわけです。

コンテンツづくりでは、できるだけ事例やエピソードを多く盛り込むことを意識するのも大事です。「情熱大陸」などのテレビのヒューマンドキュメンタリー番組が人気なのは、登場人物の葛藤や変化、成長が描かれており、見る側も登場人物に共感し、一体化しやすいからです。

プレゼンテーションも同じです。自社製品についてのプレゼンテーションをする際にも、過去の導入事例を多めに盛り込んでいきます。どんな問題に直面していた会社が、その製品を導入したことによってどう変わっていったかというエピソードをありありと描写する。すると聴き手も、自分の会社が抱えている課題に重ね合わせるようにしながらその話を聞いてくれ、製品を導入した場合のメリットを実感してもらいやすくなるわけです。いち事例あたり最低30秒は時間をかけてじっくり話すようにしましょう。

■あらゆる話の組み立てに使える「サンドイッチ・フォーマット」

一方ストラクチャーとは、それぞれのコンテンツをどんな順番で話せば、聴き手にわかりやすく伝わるか、プレゼンテーション全体の組み立てを考えることをいいます。その際に使える万能のフォーマットが、私が「サンドイッチ・フォーマット」と呼んでいるものです。

サンドイッチ・フォーマットは、「イントロダクション」+「ボディ」+「エンディング」の三部構成となっています(図3参照)。

まず「イントロダクション」では、プレゼンテーションのテーマを示します。同時にそのテーマに関して、「もしかしたら皆さんもこんな問題を抱えていませんか」といった課題を提示します。そうすることで聴衆を「その話は自分に関係ありそうだ。もっと聞かせてよ」と聴く姿勢にしていくのです。

次に「ボディ」では、メインメッセージを打ち出します。メインメッセージとは、プレゼンテーションを通じて自分が最も伝えたい主張のことです。自社製品についてのプレゼンテーションでいえば、「今回当社が開発したシステムは、業務の効率化に悩んでいる企業の救世主となるシステムです」といった言葉が、メインメッセージとなります。

このメインメッセージを説得力のあるものにするためには、主張の根拠や、主張を実現するための具体的なプロセスを聴き手に示す必要があります。これがサブメッセージです。サブメッセージは2つだとやや物足りず、4つだと多すぎて覚えてもらいにくい。3つがちょうどいいでしょう。

そして「エンディング」では、もう一度メインメッセージと重要なポイントを繰り返します。ダメを押すことで、こちらが一番伝えたいことが、相手の心に深く刻み込まれるのです。

■聴衆の前でライブで話していることを最大限に活かす

3つめのデリバリーでは、聴衆の前でライブで話していることを最大限活かすようにしてください。

せっかく目の前に聴き手がいるのだから、一人ひとりに目線を配りながら語りかけるように話します。話の内容に応じて、表情にも変化をつけます。またキーワードを口にする際には意識的にゆっくり話すなど、言葉に強弱をつけます。

逆に聴衆と目線を合わせず、手元のメモをそのまま読み上げるだけなら、プレゼンテーションなんかしないで、メモをそのまま相手に渡した方がまだマシです。プレゼンテーションはライブであることを肝に銘じてください。

こうしたことは本番で突然できるものではありません。「コンテンツ」や「ストラクチャー」を作り上げたら、本番前にリハーサルの機会を設け、そこでは「デリバリー」を意識しながら話すようにしてください。その際には録画や録音をし、自分でチェックしながら改善をしていくとよいでしょう。

聴衆分析をおこない、「コンテンツ」「ストラクチャー」「デリバリー」をしっかり準備するのは、最初のうちは時間も労力も使います。ただし慣れてくると、短時間でこうしたことができるようになります。何よりかけた手間の何倍ものリターンが本番のときに返ってきます。どうか愚直に実行してみてください。

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西野浩輝(にしの・ひろき)
マーキュリッチ 社長
米テンプル大学MBA。大阪大学大学院修了。リクルートにて法人向け教育プログラムの営業、商品開発、マーケティングを担当。その後、アメリカン・マネジメント・アソシエーション(AMA)を経て、2003年に創業。これまで約6万人に指導。著書に『仕事ができる人の伝える技術』(東洋経済新報社)などがある。アダットパートナー講師。

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(マーキュリッチ 社長 西野 浩輝)