長野駅前に発着する各社の路線バス。ナビタイムは全国515のバス事業者の検索に対応した(筆者撮影)

1月24日、株式会社ナビタイムジャパン (以下、ナビタイムジャパン社)から「『NAVITIME』など7サービス、日本初!全国バス会社カバー率100%達成」という発表があった。ナビタイムジャパン社が展開するアプリサービスで全国515事業者のデータに対応したというものだ。具体的にはバスの発着時刻や行先などに加えて停留所の位置標柱(ポール)位置まで対応したのだという。

これまで、バス事業者の持つデータを経路検索アプリに対応させるには時間がかかるとされていた。それが今回、ナビタイムジャパン社がほとんどをカバーしたことによって、一歩抜きんでた形だ。

そこでナビタイムジャパン社を訪問し、同業他社に先駆けてバス事業者のカバー率100%を達成した狙いやその経緯などについて、同社開発部の村川貴則部長、バスデータエンジニアの仲摩さんと前原さんに聞いた。(以下敬称略)

515のバス事業者をカバー

――どうしてバス事業者カバー率100%を目指したのですか。

仲摩:弊社では2006年3月から都営バスをカバーしたのを皮切りに、徐々に全国のバス事業者をカバーするようになりました。するとお客様からバス事業者の対応を要望する声が多く寄せられました。そこで、弊社の「人々が安心して移動できるために」という基本方針のためにも国内の交通機関を網羅すべく、バスのカバー率100%を目指しました。100%の基準としては、国土交通省の「全国乗合バス事業者の移動円滑化基準適合車両導入状況」に掲載されている事業者のうち、総車両台数5台以上ある事業者のすべてということです。これが515事業者でした。

村川:バスのデータを10年間(アプリサービスに)入れてきて、いつまでにどこまで(何%)入れるかという期限は決めていませんでしたが、これまでのペースでは100%達成までまだ十年単位でかかってしまうということがわかりました。そこで2015年から100%達成へ向けた検討を行い、組織改編などで全社的な取り組みとし、スピードアップを図りました。そして、3年で100%達成という試算が立ち、実際に3年間で289事業者の追加対応を実行してきました。

――今回対象になったバス事業者であれば、その事業者の路線はすべてカバーしているのですか。

仲摩:路線バスは基本的にすべてカバーしています。臨時バス、実証運行バス、東日本大震災の復興支援で運行されているバスや、スクールバスのようにバス事業者から掲載しないでほしいと言われた路線は除いています。そのため(路線でなく)「会社カバー率100%」となっています。

――コミュニティバスや高速バスも対象外なのですね。

仲摩:高速バスはほとんど入っており、まずは具体的な要望件数が多い路線バスを優先しました。一時期は多い月ですと100件以上の要望があったのですが、整備されるにつれて月10件を切るまで減っています。今後は5台未満の小規模事業者やコミュニティバス、高速バスのデータもどんどん入れたいと思っています。

――バス事業者からはどのようにデータを手に入れましたか。

仲摩:515の事業者にすべて電話などでコンタクトを取り、説明したうえで契約をさせていただきました。ほとんどの事業者から快く対応していただき、ナビタイムのアプリを通じて利用者に情報提供することに同意をいただき、データを提供していただけました。

データ形式が各社で違う!

――515事業者のデータ対応で苦労した点はどんなところでしたか。


ナビタイムの経路検索アプリでバスを検索した結果イメージ(筆者撮影)

前原:仲摩の言っていた交渉もそうですが、事業者ごとにデータの形式が違うという点ですね。ファイルの形式もデータの書き方も、515事業者あれば515通りの形式があるといったところでした。それを弊社独自のフォーマットに変換する必要がありました。そこで変換ツールを独自に開発して、ITの力で省力化に取り組みました。ツールも数えきれないほど作りましたし、それでもツール任せにはしきれず、手を加える部分はありました。

村川:今回注力したのは、ツールを使った効率化・自動化の追求です。弊社はエンジニアが社員の8割を占める会社なので、その強みを生かしました。データ入力だけではなく、チェックもツールで行いました。

――今回の大きなポイントとして、バスの時刻だけではなく、停留所の位置も正確にナビできるようになっていることが挙げられます。停留所の位置の情報は各事業者にデータがあったのですか。

村川:いえ、バス事業者がデータを持っているところは多くなかったです。なので、基本的には弊社の独自調査です。その他有用なデータも外部から調達し、位置をとっていました。もちろんそれだけでは足りないので、現地調査も行きました。新潟県では5日かけてリストを基に目星をつけて正確な位置を確認し、全国35万件の停留所の位置の情報に対応しました。

――時刻表と停留所調査、とても地道で大変だったかと思います。コストもかかる作業だと思うのですが、社内ではコストを疑問視する声はなかったのですか。

村川:特にそういう議論はありませんでしたね。まず、バスのカバー範囲が増えることによって全体の利用者が増えますし、バスのデータ単体というよりもシナジー効果により全体で利益を確保するという考え方でした。また、弊社では検索ログの分析を行っているのですが、そのためのデータもより取りやすくなりました。データを用いた行動分析は(地域交通の)コンサルティング事業にも利用しており、BtoCだけではなくBtoBでも役立っています。県単位でコンサルティングするとなると、すべての移動手段のデータが入っていないと難しいのです。

前原:ほかにもテレビ番組で弊社の分析データを利用して、外国人観光客に人気だが、日本人にはあまり知られていない観光地を見つけたということもありました。

「路線バスで日本縦断」の実験も

――やはりデータは大事ですね。ちなみに、バス事業者のカバー率が上がったことで変化はなにかありましたか。

村川:今までなかったルートが出るようになったので、新しくカバーしたエリアの検索回数は増えています。詳細な分析はこれからです。新しく対応したバス事業者のデータをSNSで流すと反響は大きいです。それから、路線バスと徒歩だけで日本列島縦断できるかを社内のバス好きを中心に実験してみました。その結果、乗り継ぎが約200回、移動所要時間が21日、運賃が10万円以上になるという結果がでました。10km以上の徒歩が3カ所ありますが(笑)。

旅行関連のメディア、インバウンド関連のメディアからの取材も多く来ます。ローカルメディアからはその地域特有の事情を聞かれることも多いですね。

バスは停留所を探すのが大変ですし、そもそもどこへ向かうバスがどこを走っているのかわからないという方が多いのが実情です。今回の取り組みで、そういう方が経路検索をしたときにバスのルートが出るようになったということは大きいと思います。私の家族が子どもを公園に連れていきたいというときに、バスでないと行けないところにあって、弊社のサービスがあってよかったと言っていました。バスでしか行けないところも、弊社アプリで検索すれば行けるようになりました。

――今後課題になってくるのは集めた膨大なデータのメンテナンスだと思うのですが、どう考えられていますか。

村川:データ入力とともにこれもかなり大変です。それでも自動化と効率化を突き詰めて人の手をかけないようにしています。ただ、体制づくりはこれからです。まだ見えていない部分も多いので、ひとまずバスの時刻改正が多いこの春に対応をしてみて、感触をつかむところからになります。体制を整えるのはその後になります。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。


今回話を聞いた方々。写真右からナビタイムジャパン社開発部村川貴則部長、バスデータエンジニアの仲摩さん、バスデータエンジニアの前原さん(筆者撮影)

村川:小規模事業者やコミュニティバスをどんどん入れていきたいですね。突き詰めていくとまだすき間がありますから(筆者注:国土交通省「全国乗合バス事業者の移動円滑化基準適合車両導入状況」に掲載されている事業者は全949事業者でまだ434事業者が残る)、どこからどこに行くにも安心して移動できるようにすべての交通手段を網羅していきたいです。

バスのデータは複雑怪奇

今回話を聞いて思ったのは、ナビタイムジャパン社の「データ」に対する意識の高さと「IT技術者」パワーの強さだ。

データ提供や検索エンジンの進化だけではなく、人の動きというビッグデータをつかむところまで見通し、地域交通のコンサルティングまで行うのは大きな強みだ。ナビタイムジャパン社のアプリ利用者はひと月で延べ4100万人、訪日外国人もひと月で延べ11万人に上るという。これだけの人が利用しているアプリの検索ログは大きな資産だ。BtoCと異なり、BtoBの取引までできれば莫大な売り上げを見込むことができる。

こうしたデータの流れとビジネスの観点から見ると、ナビタイムジャパン社のバスデータの整備はあくまでも、さまざまなサービスやビジネスの基となる「基盤データ」でしかないわけである。

一方で、基盤データの整備だけでもかなりの手間となっているのが実情だ。ナビタイムジャパン社のように多くのIT技術者を抱え、大量のツール群で対応しようとしてもまだ手直しが残ってしまう。それだけバスのデータは複雑怪奇ということだが、そんな形のデータのままでは、今回のナビタイムジャパン社のような企業がないかぎり、バス事業者の中で埋もれてしまいそうだ。バス業界で一致団結して効率化・省力化できるところはまだまだ多い。

実際、すでに取り組みは始まっている。それはバスのデータフォーマットの標準化だ。昨年、東京大学の伊藤昌毅助教を中心とした検討会が「標準的なバス情報フォーマット」を作成した。その検討会にはナビタイムジャパン社をはじめ経路検索大手各社も協力している。それだけ期待が大きいのだ。現在、「標準的なバス情報フォーマット」は栃木県日光市、奈良県大和高田市および広陵町、北海道上川北部地域の3エリアで実証実験が行われている。

また、一部事業者ではデータの流れを意識したシステムに改変することにより、効率化を図る独自の動きもある。この取り組みにはバス事業者内のデータマスタを1つに束ね、そこから業務用の時刻表・乗客向けの時刻表・経路検索サービスへの情報提供を行う。こうすることで出力結果毎にチェック作業をすることが不要になるという大きなメリットがある。

このように「時間のかかる作業」の省力化、効率化を行うことで、きめ細かな情報提供をはじめとする利用者側を向いた施策により注力することができる。今後はデータをうまく使って効率化を行う事業者が増えていくことを期待したい。

バス業界生き残りにデータ化は不可欠

こうした、ある意味で非効率といえるバス業界のIT化事情を鑑みると、ナビタイムジャパン社の取り組みはより意義深いと感じられる。しかし、バス業界もこのまま経路検索サービス業者がなんとかしてくれることばかりに甘んじているわけにはいかないだろう。

経路検索サービスに対応してもらえなければ、検索によって利用してもらえるチャンスを失い続ける。非効率なデータのままでは、ある日突然、コストに見合わないからという理由で経路検索サービスが対応してくれなくなる可能性もある。

また、人手不足で疲弊しているバス業界では、不必要な作業を省力化することは人的リソースの有効活用につながる。そうすれば、今までなかなか対応できなかった利用者の声にも耳を傾けることができ、乗客を増やすことも可能になってくる。だからこそ、データ利用による業務の効率化は重要なことなのだ。

そしてよりよいデータ化の先に、地域に合った交通機関が現れてくる。地道だが、一刻も早い基盤データ整備による省力化・効率化が図られること。それこそがバス業界が生き残るために必要なことの1つではないだろうか。