メディアに取材される秘訣ってあるの?

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株式会社フロンティアコンサルティング
代表取締役社長 上岡 正明

ショウワノートが半世紀近く販売し続けている子ども向けのノート『ジャポニカ学習帳』が、リバイバルヒットしています。「表紙に昆虫の写真を使わなくなった」と、ネット上で大きな話題になったのがきっかけでした。その仕掛け人がPR会社・フロンティアコンサルティング代表の上岡さんです。最近では著書『共感PR』(朝日新聞出版)で、企業や商品・サービスを“バズらせ”て、成長の階段を急速に駆け上がる方法を提示しています。そんな上岡さんに、経営者が知っておくべき最新のPR戦略について聞きました。

目次◆ ユニクロの「100色」作戦に学べ
◆ テレビはネットで取材先を決める
◆ 手札を強くするための方法論
◆ 「炎上」リスクには誠実な対応を

【PROFILE】

上岡 正明(かみおか まさあき)

株式会社フロンティアコンサルティング 代表取締役社長

1975年、東京都生まれ。多摩大学院情報経営学修士(MBA)。大学在学中に放送作家としてデビュー。『スーパーJチャンネル』(テレビ朝日)、『めざましテレビ』(フジテレビ)など多くの番組に携わる。29歳でPR会社を設立し、企業のブランド構築や広報の支援を手がける。これまでに全日本空輸株式会社や三井物産株式会社など200社以上のブランディングコンサルティングのほか、スペイン大使館やドバイ政府観光商務局の国際観光誘致PRなどの実績多数。『共感PR 心をくすぐり世の中を動かす最強法則』(朝日新聞出版)のほか、株式投資についての本など著書多数。
◆PHOTO:INOUZ Times

ユニクロの「100色」作戦に学べ

──「PRなんて必要ない。よい商品・サービスをつくり、それがお客さまに認められて、少しずつ広がっていけばいい」。中小・ベンチャー企業の若手スタッフが社長に、「PRをやりましょう!」と意見具申しても、そんな反応が返ってくる例が多いそうです。社長の認識のどこに間違いがあるのでしょう。

いえ、間違ってはいません。本当に「少しずつ」成長していくことをめざしているのであれば。ただ、多かれ少なかれ、「自社を大きくしたい」「よい商品・サービスだから、もっと広まってほしい」という気持ちを、経営者の方はもっていると思います。そして、その成長のスピードを「速くしたい」という気持ちをもっている方も少なくないはずです。

成長スピードを速くして、飛躍的な成長を遂げたいとき、PRという手段はきわめて有効です。いま大きくなっている会社さんは、そのきっかけを探ると9割はPRです。「あのときテレビに出たから」とか「日経新聞に露出したから」とか。そこがターニングポイントになっています。たとえばソフトバンクもサイバーエージェントも、いまでは国内有数のメガ・ベンチャー。そのポジションに立つにいたったきっかけは、孫さんや藤田さんがマスメディアに取り上げられたこと。そこから成長スピードが一気に加速したのです。

──「孫さんや藤田さんはメディアにウケるキャラクター。私にはムリだ」と考える社長もいそうです。

それでは、商品のPRで成功した例を紹介しましょう。ユニクロ(ファーストリテイリング)です。同じ型のフリースの色違いを100色もそろえていることが話題になりましたよね。あれは、非常によいPR戦略です。実際には、多くの消費者が好むのは、はっきりした色。“赤とピンクの間で、微妙にピンクに近い色”とか、きっとそんなには売れなかったはずです。でも、「100色もある!」というインパクトから、多くのメディアに取り上げられ、話題になりました。

それによって得た認知度を、仮に広告宣伝だけで獲得しようとしたら、何百億円もかかったでしょう。売れなかった色の商品の原価と処分費用の総計は、多く見積もっても数十億円レベル。十分に引き合っています。

テレビはネットで取材先を決める

──なるほど。しかし、中小・ベンチャー企業はPRに大きな予算をさくことができません。

いまは、多額の予算を投じなくても、効果的なPRが可能です。 “バズらせる”ことができるからです。“バズる”とは、ネット上のクチコミが盛り上がっている状態のこと。従来から「クチコミで新規顧客を獲得する」ことをめざす企業は多かったのですが、とても時間がかかる戦略でした。アナログに情報が伝達されていましたからね。でもいまや、ネットからネットへ、シェアからシェアへ、クチコミは一気に広がっていきます。

そして、マスメディアと呼ばれるテレビや新聞などは、この“バズっている”情報をもとに、番組や記事をつくっているんです。私は以前、放送作家をやっていました。昔は、番組の企画会議のテーブルには雑誌が山のように置かれていたものです。みんな、それをパラパラめくりながら、企画を立てる参考にしていました。でもいまは、企画会議の参加者みんながノートパソコンやタブレットで、ネットの情報を閲覧している。それを参考にして、番組の企画がつくられていくんです。

PR戦略を推進する企業の側からすれば、これは大きなチャンスです。最初に“バズる”きっかけだけつくれば、あとはネット上で勝手に、そして急速にクチコミが広がっていく。それをマスメディアが取り上げる。自社に取材に来てくれるわけです。多額の予算をかける必要はありません。

──成功事例を教えてください。

私たちが支援した例だと、ショウワノートさんのケースがあります。同社の子ども向けノート『ジャポニカ学習帳』は、1970年から累計で12億冊以上を販売しているロングセラーです。私たちはその「発売45周年」のPR企画立案を依頼されました。どんな切り口で『ジャポニカ学習帳』をPRするか。関係者からヒアリングするなかで、「昆虫の表紙をやめた」という話が出てきた。『ジャポニカ学習帳』といえば、チョウやカブトムシなど「虫の表紙」というイメージあったので驚きました。「私と同じく、世間も驚くだろうな」と。この話題を軸にPRしていくことにしました。

そして、「昆虫の表紙をやめた」理由が「子どもが気持ち悪いと感じるから」というもの。「これは“バズる”だろうな」と思いました。「私も子どものころ、気持ち悪いと思ってた!」とか「過保護すぎる」とか「虫を気持ち悪いと思うこと自体が問題」とか、賛否両論出てきそうなテーマだからです。ネット上で論争が起きると注目が集まり、“バズり”やすいんです。

私たちはまず、「『ジャポニカ学習帳』から虫の表紙が消えていた」という話題を、ネット上に掲載しました。ねらい通り、多くの人がSNSやブログで取り上げてくれた。すぐに賛否の論争も起きました。「バズった」わけです。そのタイミングで、「昆虫の表紙のノートの復刻版を出す」「歴代の表紙の人気投票を実施」といった仕掛けをして、さらに盛り上げていきました。結果、テレビ東京の『ワールドビジネスサテライト』をはじめ、多くのマスメディアで取り上げられたのです。

手札を強くするための方法論

──「昆虫の表紙をやめた」のような、世間の話題になる要素が見当たらない場合はどうしたらいいのでしょう。

ぱっと思いつかなくても、見つけ出すための方法論があります。私はそれを「8×3の法則」と呼んでいます。

まず「8」とは、自社や自社の商品・サービスを8つの観点でみて、強みがあるかどうか検討していくことです。以下に列挙します。

1. 新規性
これまでになかったものやサービスであること

2. 優位性
競合や既存のものやサービスと比較したときに、自社にしかない付加価値があること

3. 意外性
見たり聞いたりした人が「へえ!」「本当に!?」などと驚くようなインパクトがあること

4. 人間性
ものやサービスを作るときに、携わった人の苦労や思いがあること

5. 社会性
世の中の流行やトレンドとの関係性があること

6. 貢献的意義
社会や世の中の問題解決になる要素があること

7. 季節性
季節・記念日との関係性があること

8. 地域性
ものやサービスを地域に限定していること

この8つの観点から検討して、「『新規性』はあっても『優位性』はない」とか「『意外性』」も『人間性』もあるな」と分析してみてください。トランプのポーカーゲームのように、ワンぺアよりツーペア、それよりもスリーカードといった具合で、組み合わせが多ければ多いほど、PR戦略を推進するうえで有利になります。

──観点の数が8つもあると、「ウチにもありそうだな」と思う経営者が多いでしょうね。では、法則の後半の「3」とはなにか、解説をお願いします。

抽出した「強み」を、以下の3つの視点でチェックすることです。

1. 社会
社会が求める情報かどうか

2. 人
ターゲットとなる人に本当にアピールできるかどうか

3. メディア
メディアが取り上げたくなる情報かどうか

8つの強みを抽出するだけでは、「内輪ネタ」「楽屋ウケ」になってしまう可能性があります。そこで「社会が必要としているか」「人は共感してくれるのか」「メディアが求めているか」をチェックして、客観的にみて“バズる”確率の高いものなのかどうかを検証するわけです。

──なるほど。当事者は思い入れがあるので、ひとりよがりの「人間性」になってしまうかもしれませんね。「ものすごく苦労して開発に成功した!」というような。

ええ。その苦労が、メディアが「取り上げたい」と思うほどの苦労だったのか、チェックする必要があるわけです。

「炎上」リスクには誠実な対応を

──批判的な言説がネット上に出てしまうのは、企業にとってマイナスではないのですか。

いいえ。批判や論争が起きてこそ、“バズっている”といえるのです。むしろ、PR戦略を推進するうえで、「論争になりそうなネタ」を見つけることが有効なぐらいです。

経営者をはじめ、企業のみなさんは自社や自社の商品・サービスに誇りをもっていると思います。だから、批判的な意見が出てくるのは気分のいいものではないでしょう。また、批判が集中する事態、つまり“炎上”を警戒するのも当然のことです。でも、みな自由にものをいいあっているから“バズる”のです。それを無理やりコントロールしようとしてはいけません。

批判的な言説のうち、個人的見解に属するものはスルーすればいい。間違った情報にもとづく批判に対しては、しっかり正確な情報を開示して誤解をとけばいい。疑問を投げかけるような意見には回答してあげればいいのです。誠実に、正直に対応することで、“炎上”することを防ぎつつ、PR戦略を推進することができますよ。