2017年10月の対北海道日本ハムファイターズ戦。観客席は満員だった(筆者撮影)

東北楽天ゴールデンイーグルス(以下、イーグルス)が、2017年12月期決算で1億2400万円の営業利益(国際会計基準)を計上した。営業黒字は2014年12月期以来3期ぶりだ。

イーグルスが球団創設からの13年間で、営業黒字となったのは2017年12月期も含めて4回しかない。


営業黒字を達成できたのは、売上高が138億円と、過去最高を更新したからにほかならない。

経費は大きく拡大したが…

本拠地である宮城球場の改修を自らの負担で実施したうえで、所有者である宮城県に寄贈、見返りに営業権を取得している。このため、球場内の飲食や広告看板の収入は球団に入るが、この営業権を減価償却する会計処理をしているので償却負担が重い。

EBITDA(償却前営業利益)が赤字だった年は5期だけだが、償却後の営業損益では黒字化しにくい。

さらには2014年度から2016年度の3年間で、95億円もの設備投資も実施しており、2014年度まで年間5億円前後だった償却費が、2017年度には10億円近くにハネ上がった。

実際、2017年度以外で営業黒字となった3回のうち、改修前で償却負担が発生しなかった設立初年度を除くと、日本一になって、クライマックスシリーズと日本シリーズで合計8試合のホーム開催による収入の上乗せがあった2013年度、そして田中将大投手の米大リーグ移籍に伴うポスティングフィー21億円が入った2014年度と、いずれもトップラインを引き上げる特殊要因があった年だ。

一方、2017年度はクライマックスシリーズに進出したとはいえ、パ・リーグ3位だったのでホーム開催によるチケット収入の上乗せはなし。ポスティングフィーなどの臨時収入もなく、トップラインを底上げする特殊要因はなかった。

観客動員数は球団収益の源泉だ。チケット収入が増えるのはもちろん、球場にお客が来ればそこで飲み食いをし、グッズを買う。球場内の広告を見る人が増えれば広告収入も増える。球場の営業権を持つイーグルスは、観客動員数の恩恵が、チケットだけでなく、飲食やスポンサー収入にも及ぶ。

イーグルスの2017年度の売上構成は、チケット収入が34%、スポンサー収入が27%、グッズが12%、放映権が11%で、残りがスタジアムの飲食収入、ファンクラブ会費などだ。


この構成比は、売上高が90億円を割っていた2010〜2012年頃とほとんど変わっていない。当時の観客動員数は年間110万人台。つまりは「観客動員数の伸びに比例して全体が底上げされた」(球団)のだ。

成績低迷期も観客動員数は右肩上がり

昨シーズンの観客動員数は177万人、1試合平均2万4931人と、過去最高を更新した。球場の収容人数は芝生エリアも含めると約3万人だが、座席数は2万6500席なので、稼働率は実質94%となる。


10月9日の日本ハムファイターズ戦では「満員御礼」の告知も出た(筆者撮影)

開幕から快進撃が続き、8月2日まで首位を維持した効果もあっただろうが、成績が低迷していた2014年〜2016年も着実に伸びており、球団創設以来、観客動員数が前年を下回ったのは2010年だけだ。

チームの成績に関係なく動員数を増やすには、リピート率を引き上げることが必須条件。楽しかった、また来たいと思わせる仕掛けは随所に施されている。

エコ球場を標榜しているだけあり、小学生以下を対象にジェット風船の残骸をシールと交換しているので、7回裏前のジェット風船タイムが終わると、スーパーのポリ袋を持った子供が一斉に残骸を拾い歩く。

大人も触発されるらしく、ゲーム終了時点で床に落ちているジェット風船の残骸はほぼゼロだ。ゴミもほとんど残っていない。

2015年には球場外周部に660屬離哀奪坤轡腑奪廖屮繊璽爛轡腑奪廖廚鮨契漾フードも全店が異なるメニューを提供しており、球団職員が毎年テナント選定をしている。

ゲームを盛り上げる演出も豊富だ。応援歌や選手の登場曲、チャンステーマなどの歌詞を、私設応援団の動きを予想しながらタイミングよくスクリーンに表示。拍手を促すクラップ動画を球界で初めて導入したのもこの球団である。


拍手を促す「CLAP」の動画を映すスクリーンともう1枚のスクリーンは連動していた(筆者撮影)

2016年にはパナソニックのシステムを導入し、2枚の大型スクリーンを連動させた動画の表示もできるようになった。同じ2016年には、観覧車とメリーゴーラウンドを外野レフトエリアに設置し、ミニ遊園地「スマイルグリコパーク」を新設。長時間の観戦に耐えられない小さな子供の遊び場を提供した。

ウィンターミーティングでメジャーのノウハウ吸収

観戦の都度チケットを購入して来場する観客からの収入をフローの収入とすれば、ストック収入と言えるのが年間シート。座席の種類(座種)は球界最多を誇る39もあるが、このうち半分以上がネット裏に広がる高価格席だ。


キャッチャー目線で観戦できるプレステージ・プラチナの座種(2018年3月、筆者撮影)

キャッチャー目線で観戦できるプレステージ・プラチナをはじめ、ロイヤルボックスやVIPシートなど、1席で100万円以上、1室で1000万円する席が開幕前に完売、一部はキャンセル待ちになっている。

ほとんどの座種が年間シートとして購入可能で、「ネット裏を中心に、開幕前に球場全体の3割強の座席が年間シートとして売れている」(球団)という。

スポンサー収入を得るためのアイディアもユニークだ。全試合にゲームスポンサーが付き、座席の背もたれも広告スペース。ベンチ前とホームベースの後ろは球場のネーミングライツとセット、場内の案内・誘導スタッフにはイエローハットのベストを着用させ、ゴミステーションは森トラスト、スマイルグリコパークはその名の通り江崎グリコがスポンサーだ。

親会社の楽天から受け取っているスポンサー収入は5億円だけ。逆にシステム使用料を支払っている。

数々のアイディアのお手本はメジャーだ。繁閑に合わせてチケット価格を変えるフレックスプライスや、発売後需要動向に合わせて価格を変える、ダイナミックプライシングもメジャーから学んだ。

イーグルスは毎年新人職員をメジャーの球場視察に出し、新たなサービスの考案につなげている。球場入口近くに設置された、本日のメンバー表と、そこに広告スペースを設けるアイディアも新人による視察の成果だ。


立花陽三社長は球団創設9年目でチームを日本一に導いた立役者の一人だ(編集部撮影)

球団社長の立花陽三氏も可能な限り、ウィンターミーティングを訪れている。

メジャーのウィンターミーティングは、メジャー30球団と160を超すマイナーリーグの関係者が集まるイベントで、選手のスカウトの場であるとともに、スポーツメーカーや分析機器メーカーから食品会社、グッズ開発会社など、プロ野球興業に係わるありとあらゆる業者がブースを出す、一大コンベンションの場でもある。

メジャーのGMクラスでも、聞けば気軽にいろいろなことを教えてくれる」(立花球団社長)が、さすがに英語でのコミュニケーションが通訳なしでできないと厳しいからか、「スカウトクラスではなく球団の社長や役員レベルで日本から来ている人は少ない」(同)という。

選手にも球団経営を理解

他球団にない強みは「選手が球団経営というものを理解していること」(立花球団社長)だという。球団の使命は“使えるお金”を稼ぐこと。収入が増えれば選手に年俸の形で報いることができ、戦力を向上させる設備投資も可能になる。

そして収入は、稼いだお金を再投資し、サービスを向上させてリピーターを増やすことで増え、観客が増えることでスポンサー収入も増やせる。

「球団職員の後ろにファンやスポンサーがいるのだということを、イーグルスの選手たちはよく理解しているし、新たに入団してくる選手には理解させる努力もしている。だから球団職員と選手とのコミュニケーションは密」(立花球団社長)だという。

ファンサービスを心掛け、自分のグッズの売れ行きを気に掛け、ヒーローインタビューでグッズの購入を呼びかけたりもする。球界には球団職員に尊大な態度を取り、ファンサービスには無関心な大物選手が少なくない。


立花 陽三(たちばな ようぞう)/楽天野球団(東北楽天ゴールデンイーグルス)代表取締役社長。1971年東京都生まれ。外資系証券会社を経て2012年8月から現職。2017年10月からはヴィッセル神戸の代表取締役社長も兼務(編集部撮影)

その中で、イーグルスでは意識改革に成功しているのは、「ファンを大事にしない、球団職員に尊大な態度をとる選手はその選手評価にも反映する、という姿勢をはっきり示しているから」(立花球団社長)だそうだ。

ハード面の投資が一段落した今シーズン、目玉は私設応援団との連携だ。応援を更に盛り上げ、そしてチームを勝利に導くため、球団職員と私設応援団員で応援プロデュースチームを発足させた。

球団職員のうちの一人は、2015年シーズンまで千葉ロッテマリーンズの応援団長を務め、数々の応援歌の作曲を手掛けてきた伝説の応援団長・神俊雄氏である。

今シーズンは180万人の動員を目指す

今シーズンは開幕から4ヶ月間首位を走った昨シーズンをさらに上回る、年間180万人の動員を目指す。

4月3日の東北開幕戦のチケットは即日で完売した。動員目標が達成されるということは、チケットを買えないファンを生むことと表裏一体だ。

次なる課題はチケットが買えない不満をどう昇華させるか。イーグルスの知恵が試されるのはこれからだ。