Facebook CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、「迅速に動き、既存のものを壊す」という同社の2014年におけるモットーを捨てたかもしれないが、業界を震撼させている同社の動画重視のアプローチには、まだそのモットーが生きている。そして、自社とコンテンツパートナーのために、Facebookが現実的な動画戦略の策定に苦労してきたのは、それが大きな理由だ。

現在、動画をめぐってFacebookが最優先しているのはWatch(ウォッチ)だ。Watchは、7カ月前に設けられたタブで、エピソード形式の動画番組と一部のスポーツ中継を提供。2018年に充てられる予算は10億ドル(約1050億円)と報じられており、エンターテインメント専門パブリッシャーやスポーツリーグ、近い将来にはニュースメディアなど、あらゆる種類のメディアパートナーに対してFacebookは小切手を切り、特に動画を観る目的で人々にFacebookへアクセスさせようとしてきた。Facebookは同時に、ミッドロール動画広告ブレイクを挿入して、Facebookに動画を供給するメディアパートナーへ広告収入を還元している。

だが、こうしたいろいろな取り組みにもかかわらず、Watchセクションにアクセスするユーザーはほとんどおらず、アクセスするユーザーのなかで、ミッドロール広告ブレイクに達するのに十分な時間視聴する者はほとんどいない。

これらは、Facebookがテストした動画製品のなかで、ユーザーの獲得に失敗した最新例のふたつと同様だ(Facebook ライブ動画とおすすめ動画のふたつが以前の失敗例だ)。Facebookの錯乱したような製品テストアプローチは、シリコンバレーでよく見られるもので、ほかのテック分野ではうまくいくかもしれないが、プラットフォームにおけるFacebookユーザーの行動を同社が根本的に変えるのには役立ってこなかった。

Facebookは、この記事についてオンレコでのコメントを避けた。

動画「コミュニティ」を求めるFacebook



Facebookの動画に対する取り組みは、これまで常に、一連の製品テストだった。目標は、ユーザーのFacebookでの滞在時間を延ばすことにある。同社は、ユーザーにFacebookグループを作成させてFacebookで番組について語らせる番組を宣伝している。女優のケリー・ワシントン氏とCESで対談中に、製品担当バイスプレジデントのフィジー・シモ氏は、ワシントン氏のWatchシリーズであるドラマ「ファイブ・ポインツ(Five Points)」が、カスタムのFacebookグループによって、番組が提起する社会問題をめぐる会話を促進する仕組みについて語った。プロデューサーは、オーディエンスがやりとりできる「Five Points」の登場人物のプロフィールも作成する予定だ。

Watch番組を売り込むにあたり、Facebookは、こういったソーシャルまたは双方向の要素を備えたアイデアに関心を抱いている。もうひとつの例であるESPNのWatch番組「ファースト・テイク:ユア・テイク(First Take: Your Take)」は、ESPNの番組に登場する有名人と議論するよう、ユーザーに誘いかけている。

「Facebookは、動画事業の拡大を検討しているので、[ソーシャルTVを]ツールにするのは賢明な考えだ。ライブTVイベントをめぐるソーシャル体験があり、人々が考えを共有するので、Twitterはそうした夜には盛り上がっている。ライブのゲーム番組など、ソーシャル要素を備えたイベントをめぐって、チャンスがあると思う。[ビデオオンデマンド]番組が同様のチャンスを提供しているとは思わない」と、出版コンサルティング企業ガーションメディア(GershonMedia)のプレジデント 、バーナード・ガーション氏は語る。

Facebookは最近、メディア提携グループで動画コンテンツのグローバル戦略および企画を担当する新たな責任者として、BuzzFeedのマシュー・ヘニック氏を起用した。

ヘニック氏の起用により、Facebookがソーシャル主導型動画番組を重視する傾向が強まる。最近開催されたTV業界のカンファレンスで、クリエイティブ担当責任者のリッキー・バン・ビーン氏は、FacebookがNetflixと対決しようとしているわけではないと述べている。「評判の高い1時間ドラマで競争しても勝てない。差別化につながるのは、Facebookのソーシャルシステムを利用する番組だ」と、同氏はいう。

だが、これは、過去に示されたWatchのあり方とは異なる。Watchは、TV番組に似たエピソード形式の長編動画シリーズのプラットフォームだからだ。Facebookはどれかを優先する必要はないと、一部のパブリッシャーは主張している。

「Netflix(ネットフリックス)やHulu(フールー)と張り合ってはいないとFacebookはいうかもしれないが、張り合っていると私ならいう。Watchは、1時間の番組であれ、20分の番組であれ、こうしたプレミアムコンテンツを得る足がかりだ。だが、動画プラットフォームとしてのWatchと、リアルタイムの会話を取り込むための、フィード内にあるその他製品という、ふたつの異なる動画製品がある」と総合スポーツメディア、ブリーチャー・レポート(Bleacher Report)のブランド戦略担当バイスプレジデントを務めるベネット・スペクター氏はいう。

それでも、Facebookの最近の動きを受け、Watchが最終的にどうなるかという点をめぐって、「かなり不安定化」してきたと、Watch向けに複数の番組を制作してきたエンターテインメント専門パブリッシャーの幹部は指摘する。「YouTubeの10年後に、もっと小規模な別のYouTubeを最終的に作ることになる」。

Facebookに対して疑念を深めるメディア企業



Facebookは、番組の制作資金を提供するほかは、メディア企業に広告収入を大して還元してこなかった。昨年末、ライブ動画およびオンデマンドのニュースフィード動画への資金提供をやめた際には、一部のメディア企業がやむをえず、Facebookにおけるパブリッシングから手を引いた。

Facebookのライブおよびオンデマンドの動画ライセンス取引に参画していたTV・デジタルパブリッシャーのある幹部は、Facebook向けの新たな動画の制作をやめたと語る。いまは、ほかのプラットフォームに公開している既存の動画クリップをFacebookページに投稿しているだけだという。同じくFacebookから月々の制作資金を受け取っていた最大手ニュースパブリッシャーの別の幹部は、ライブおよびオンデマンドの動画の制作にFacebookが金を出していたときより、掲載するネイティブ動画が約90%少なくなったと述べている。

「もう金銭的な見返りがなかった。オンサイトのオーディエンスを食い合っているのかどうかという点について、常にこうしたやりとりがあった。それに正直言って、ほかでマネタイズできるのに、なぜ無料でコンテンツをFacebookに提供するのか?」と、ニュースパブリッシャーの幹部はいう。

CBSニュース・デジタル(CBS News Digital)のエグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのクリスティ・タナー氏によると、CBSはFacebookにコンテンツを公開し、プラットフォームパートナーと常に対話しているが、「マネタイゼーションなしでコンテンツを手放すことはない」という。CBSニュースは、大きなニュースの速報中に中継するなど、意味がある場合には、動画配信にFacebookを利用するが、自社のサイトとアプリに人々を連れ戻すことを優先している。

最終的に複数のWatch番組を制作したTV・デジタルパブリッシャーは、ニュースフィードで番組を宣伝しないという方法で、Watchのオーディエンスをテストしたという。

「Watchのオーガニックなオーディエンスの率直な意見を知りたかった。答えは、数百か数千の意見のなかにあった――つまり、文字どおり答えなどなかった。最終的にFacebookに対して、『一緒に動画事業を行いたいが、事業として成り立ったときに、また声を掛けてもらわないと』と言った」とこの幹部は語る。

Watchでのミッドロール広告ブレイクが成功していないため、Facebookは最近、Watchでプレロール広告ユニットのテストを開始したが、メディアパートナーにあまり情報を公開していないと、情報筋は述べている。

ある情報筋は、Facebookと行った最近のミーティングを振り返った。このミーティングで、Facebookの代表は、新しいバナー広告ユニットのアイデアをサンプル付きで提案した。広告ユニットは、動画プレーヤーの下に掲載されるということだった。「思いがけないことだった。だが、動画のマネタイズに向けてFacebookが行ってきたあらゆる取り組みについて考えると、うまくいったものはひとつもなかった」と、この情報筋はいう。

ユーザーにとって、Facebookは動画プラットフォームではない



こうした摩擦の根底には、製品主導型の企業が本当にエンターテインメント事業に進出できるのか、という疑問がある。「Facebookは、製品最優先の姿勢で物事を考える。Netflixは、データに基づいて、人気ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』を獲得したわけではない。プロデューサーは、あちこちにこの番組を売り込み、Netflixが最大の金額を提示した――実に従来どおりだった」と、TV・デジタルパブリッシャーの幹部は指摘する。

それが、Watchにのしかかる最大の問題のひとつだ。バン・ビーン氏は、Netflixと競争したくないと述べた。ストリーミング大手のNetflixがコンテンツに充てる年間予算は、80億ドル(約8400億円)だ。Facebookは、YouTube Redとの競争も望んでいない。YouTube Redは、支出額がNetflixの何分の1かにとどまるが、TV番組や映画の獲得に全力を注いでいる。

ユーザーがほかでは得られない新タイプの製品や視聴体験を生み出せば、動画で成功するに決まっている、というFacebookに都合のよい主張もある。そういう意味では、FacebookはNetflixやYouTubeと競争しようとすべきではない。

「人々をWatchに長時間つなぎ止める番組に投資したいのであれば、Facebookは通常の番組制作のやり方から脱却しなければならないだろう。だが、現実には、有用性に絡む大きな行動の変化を話題にしているので、製品は、規模がもっと小さくなり、オーディエンスの獲得に時間が掛かるようになる」と、ミレニアル世代向けオンラインマガジン、インバース(Inverse)のCROを務めるデビッド・スピーゲル氏はいう。

Facebookは現在、そうした根本的な問題に対処中だ。人々は、動画を視聴するためにFacebookにアクセスしていない。慣れないことをするよう人々を説得するのには、時間と大きな労力が必要になる。

だが、Facebookは、誇らしいことにシリコンバレーの企業でもある。シリコンバレーでは、さまざまな製品をテストして、うまくいくものに投資し、うまくいかないものを断念するのがモデルとなっている。Facebook自体は、2018年を通してコンテンツへの支出を約束しただけで、2019年以降にどういう支出を行うか、一切示唆していない。したがって、Watch番組へのソーシャル主導のアプローチが失敗すれば、FacebookはWatchへの投資をやめるかもしれない――おすすめ動画やFacebook ライブ動画、音声なしの自動再生ニュースフィード動画フォーマットと同じように。パブリッシャーはいつものように、板挟みになるだろう。

「Facebookバッシングが現在のトレンドだ。誰もが、そろそろFacebookを叩くべきだと感じている。その権利があるのは確かだが、これほど長いあいだ、ろくでもないプロジェクトに協力して金を貢いできたのだから、Facebookが行っているこうした取り組みが、いずれも自分たちの最善の利益にならないのであれば、それは恥ずべきことだろう」と、インバースのスピーゲル氏は語った。

Sahil Patel(原文 / 訳:ガリレオ)