クライアントからエージェンシーにかけられるプレッシャーは、年々大きくなる一方だ。そのなかで犠牲者となっているのは、グローバル・最高クリエイティブ責任者(CCO)たちかもしれない。

先週、広告代理店であるJ.ウォルター・トンプソン(J. Walter Thompson)はグローバルCCOの役職を無くすと発表した。そして2014年7月からその役職に就いていたマット・イーストウッド氏は会社を去った。社員向けのメモによると、これは「(会社の)構造的な判断」であり、これによって彼らの会社が前身するスピードが早まるとCEOであるタマラ・イングラム氏は説明している。

「クリエイティビティは今後も、私たちのビジネスのもっとも中心的な部分に存在し続ける。しかし、今日では、業務プロセスはさらにコラボレーションを必要とし、ボーダレスとなっている。また業務のフォーカスも幅広くなってきている。実際のクリエイティブ制作の現場で働いているスタッフに対する責任が増えてきている」と、イングラム氏は書いている。

大きくなるプレッシャー



エージェンシーに対するプレッシャーはますます大きなものになっている。それはメディアにおいてもクリエイティブにおいても同様だ。クライアントたち自身もまた統合や削減をやりくりしており、そんななかで彼らがエージェンシーに対して支払っている金額に見合った価値をちゃんと手に入れようと必死になっている。

彼らは当然、必要でないものに対してお金を払いたくない。また、クリエイティブエージェンシーのビジネス自体も大きな転換期を迎えている。エージェンシーたちが制作する物の種類は幅広くなってきており、さらにそれが絞られたローカルのターゲットに合わせて、微妙なさじ加減で完成され、素早く納品されることが求められている。加えて、計測可能な指標で結果を出すことも求められてきている。そして、コストが一体何に使われているのかも事細かに知らせる必要がある。

これらすべてを組み合わせた結果、グローバル規模での役職に対する必要性が下がってきているわけだ。グローバルCCOはカンファレンスやアワードの授賞式に出席するため、飛行機に乗って世界中を常に移動しているのが仕事となっているからだ。

コスト削減の格好の対象



広告ホールディング企業たちも統合モードに入っている。世界最大の広告代理店グループであるWPPは2017年、2009年以降最悪の収益成長となった。彼らが抱えるエージェンシーはすべて、コストの膨張を心配しており、クライアントはコントロールを取り戻そうとしている。

グローバルCCOたちは通常、複数の案件を監督する。ほかのグローバル役職とは違って、この役職への報酬はクライアントから支払われてはいない。そのため、彼らに渡る多額の給料は、コスト削減の格好の対象となるのだ。

また、今日の業界では、グローバルCCOの役割はマーケティングの性質を見せるようになってきた。グローバルCCOは各種アワードで審査員を務め、授賞式でスピーチをする。そのためエージェンシーのマーケティングの一環としても捉えられる。イーストウッド氏自身も昨年は、カンヌ・エンターテイメント・ライオンズ審査員、ワン・ショウ(The One Show)映画部門審査員、ロンドン国際広告アワードの審査員プレジデントを務めている。そして今年のカンヌ審査員にも、複数のグローバルCCOたちが名を連ねている。そこにはVMLのデビー・ヴァンデヴェン氏、FCBのスーザン・クレードル氏が含まれている。

「これらは私のクライアントにとっては関係がない。それよりも誰が彼らの仕事の担当となるのかということを彼らは気にする。米国のCCO、北米のCCO、もしくはグローバルのCCOをミーティングに連れてきても、クライアントが最初に尋ねるのは『それはいいんですが、誰が我々の制作をするんですか?』ということだ」と、検索コンサルタント、アーク・アドバイザーズ(Ark Advisors)のパートナーであるアン・ビロック氏は言った。

クライアントが求めている物



先日インソース(InSource)によって発表された調査結果によると、クライアントは大手ではなく小規模なクリエイティブのチームに依頼するようになってきている事がわかった。インソースはインハウスのクリエイティブ向けの業界組織だ。これは、仕事を素早く、現場で行うスタッフをクライアントは求めている、ということを意味している。そして調査に参加したクライアントのうち55%はビジネスへのインパクトでもってクリエイティブの価値を測ると答えた。クライアントのうち、アワードをクリエイティブの成功かどうかの指標として認めたのは22%だけだった。

グレース・ブルー(Grace Blue)のリクルーターであるジェイ・ヘインズ氏も同様の現象を目撃している。「クライエントはクリエイティブのスタッフに身近にいて欲しいと考えている。毎日、彼らのビジネス周りにいてくれて、いま現在の事情に精通しているクリエイティブが欲しいと思っているのだ。そのため、クリエイティブ役職以外のところへと資金をまわすことが起きている。クリエイティブの成功を目指して、大きな目標を設定することは大事だが、それが現実的にクライアントが求めている物と一致することは珍しい」と、彼は語った。

10年前、ファウンディングクリエイティブディレクターもしくはCCOの役割は、エージェンシーが制作したものすべてが、ちゃんとそのエージェンシーの仕事だと識別できるようになっているようにすることだった。その時点では役職に対するアイデンティティは確立されていた。ジーニアス・スティールズ(Genius Steals)の創立パートナーであるファリス・ヤコブ氏によると、クリスピン・ポーター+ボガスキー(CP+B)のボガスキー氏がその好例だった。長年に渡ってボガスキー氏は、CP+Bが生み出すアイディアの総責任者となっていた。いまではグローバルCCOたちは、アワードにフォーカスを据えており、オフィスからオフィスと移動して、カンヌに参加するための仕事を見つけたり、エージェンシーがブランド刷新を行うときに、その象徴として前面に出されたりする。

もはや必要とされない役職



マーケティング関連の組織はどこでも、グローバル規模での地方分権と言えるような分散化現象が見られる。少なくとも個々の案件を通して見てみるとそうだ。そして、よりローカルの文化に適合したキャンペーンを作るという方向にシフトしている。「グローバル規模でクリエイティブを調整することは非常に効率的に見えるものの、多くのマーケットにおいては、それほど効果的ではない」と、ヤコブ氏は言った。

「(グローバルCCO)はスタンダードを設定する役職だ」と、ビロック氏は語る。それによってエージェンシーが大規模なグローバルネットワークを横断して、スタンダードを維持することができたわけだ。少なくとも理論上は。

しかし、もちろんデジタルによって多くの変化が起きた。エージェンシーは1カ月に何千、少なくとも何百ものクリエイティブを制作している。ソーシャルメディアやプラットフォームの台頭によって、クリエイティビティはよりターゲットを絞る必要が出てきた。そして制作量も増えた。ひとりの人物がすべてのスタンダードをチェックするのは不可能になっている。

クリエイティブ・レジスター(Creative Register)のファウンダーであり、何十年も業界に何人ものCCOを送り込んだリクルーターであるダニー・レノン氏によると、CCOの役職は適切に就任された場合は、「素晴らしく価値を認められたものであった」という。スタンダードを設定し、エージェンシーをまとめ、大手エージェンシーにおいては種々のオペレーションをつなぎとめるためにグローバルCCOの役職は重要だった。「しかしそれはもう必要ない」とレノン氏は言う。というのも、クリエイティブエージェンシーが行う業務は、非常幅広い種類やメディアに広がっているからである。エージェンシーや彼らのクライアントが欲しているのは、それぞれの分野における専門家であり、理論的に全体を統合する監督的な役職ではない。

「ほとんどの場合は人材による」



しかし、それも役職にどんな人材が就任するかによると、ビロック氏は語る。最近になってグローバルCCOの役職を追加したところもある。たとえば、ピュブリシス(Publicis)がそのひとつだ。R/GAに長年務めてきたベテランのニック・ロー氏は、ピュブリシスのCCOに今年就任した。

人材による、という点にレノン氏も同意する。「ほとんどの場合は人材による。多くの場合、制作の現場では活躍できない人々が就任している。しかし、実際にハンズオンで活躍できるグローバルクリエイティブも存在している」。

長年エージェンシーで働いてきたエグゼクティブのひとりは匿名希望で次のように語った。グローバルCCOたちは通常、自分ひとりではエージェンシーひとつを運用する能力を持たないけれども、会社的には昇進させないといけない人材であることが多いという。そういった行き詰まった人材がグローバルCCOとなって『象牙の塔』のなかにこもり、クライアントから離れてしまうのだという。「グローバルCCOが自分自身でチームを組み、チームをマネージメントしていない限りはやる業務は少ない。彼らが1日中何をしているのか、私だって知りたい。あんまり多くのことはしていないはずだ」。

Shareen Pathak(原文 / 訳:塚本 紺)
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