採用の募集要項などに記載されている職種の文言が、実態とは乖離しているケースもある(写真:A_Team / PIXTA)

本格的な就職活動シーズンとなり、すでにエントリーが済んだ人もいれば、まだどの企業にエントリーをしようか迷っている人もいるだろう。エントリー先を決める際に参考にする情報は、「求人ページ」や「求人票」が一般的だ。


20代向けのキャリアカウンセリングを行っていると、求人票に記載してある、給与や年間休日といった”条件面”を気にしている人が多いように感じる。また、そこに記載されている業務内容の文言だけでエントリーするかどうか、決めている人もいる。

独立行政法人労働政策研究・研修機構が実施した「若年者の能力開発と職場への定着に関する調査」(2016年実施)によると、新卒3年以内の離職者の離職理由として、「肉体的・精神的に健康を損ねた」(男性 26.9%、女性 29.3%)に並んで男女ともに多いのが、「労働時間・休日・休暇の条件が良くなかった」(男性 31.8%、女性 28.7%)と、「自分がやりたい仕事とは異なる内容だった」(男性 28.4%、女性 20.4%)だ。この2つは、就活のときに事前に条件を確認していたにも関わらず、短期離職につながってしまっている。

仕事内容を”盛る”求人が少なくない

その多くは仕事内容や労働条件を勘違いしていたり、詳しく把握してなかったりしたことに原因がある。特に求人に記載されている情報には、注意して見ないと勘違いしやすいものもあることを、知ってもらいたい。

中には、仕事内容を拡大解釈して“盛る”ことで、就活生を引き付ける「釣り求人」が少なくない。就活生に有利な売り手市場の中、企業側は少しでも自社に学生を振り向かせるため、必死となっている。そのために「釣り求人」で会社を良く見せようとする動きが強まっている。

今回は企業側がやっている求人にまつわる、釣り求人の手法について解説していきたい。「釣り情報」となる求人は、以下の3つに大別される。

1. 人気ワードを盛り込んだ「募集ポジション(職種)」
2. ちゃんと計算してみると損をしている「雇用条件」
3. 参考にはしてもそれだけで決めてはいけない「働いている人」

​どの企業も、人気人材(特に新卒人材やIT系の即戦力人材)を採用するために、あの手この手を使ってくる。では、大別した「釣り情報」について、それぞれ解説していこう。

1. 人気ワードを盛り込んだ「募集ポジション(職種)」

企業としては、「必要な仕事のポジション(職種)」でありながら、人材側からは「人気がない仕事のポジション」に関して、特に頭を悩ませている。そこでイメージを変えるため、職種の名称を工夫して求人を行うケースが少なくない。

一昔前、「SE(システムエンジニア)」という募集ポジションは、人気があった。IT業界全体が右肩上がりで伸びていて、その中でも特に市場価値が高く年収も高いSEに対し、魅力を感じる就活生が多かったからだ。しかし今、SEと聞いて、良いイメージを持っている就活生は、どのくらいいるだろうか? 「残業が多い」「何となくブラック」「35歳定年説」といった、マイナスイメージを持たれてしまい、現在は当時ほどの人気はない。

印象のよい”職業ワード”で、就活生を引きつける

どうしてそのように印象が悪くなったかと言うと、本当のSEではない「ITに関連するポジション(市場価値がそこまで高くない、年収も低い)」に対しても、SEという名称が多用されたからだ。つまり、人気者のSEに他の不人気なIT職種が便乗したことによって、イメージが悪くなってしまったのである。

そこで最近では、SEに変わる好印象な募集ポジションとして、「ITコンサルタント」や「Sier」(エスアイアー、募集ポジションではないが混同して使用)といった言葉を使うケースが出てきている。

こうした就活生の心を引き付ける”職業ワード”は、新たに出てきては消え、また登場する……そうしたいたちごっこを繰り返している。次のようなものが今、就活生の心を引きつける「募集ポジション」の一例だ。

コンサルティング営業「コンサル」という言葉を追加することでイメージを良くする。
企画営業「企画」と検索した際にヒットするようにしている。
アカウントプランナー実際は「広告営業」だが、横文字を使うことでスマートなイメージを抱かせる。
クリエイティブ◯◯「クリエイティブ」という言葉で就活生を引き付けるが、実際は泥臭い業務が多い。
◯◯ディレクター「ディレクター」とあるが、外注の進捗管理等の泥臭い業務が多い。

多くの就活生は、自分の条件に合った求人を見つけるために、検索機能を使っていると思う。「コンサル」「マーケティング」といったカタカナ言葉や、「企画」「開発」といったちょっと印象の良いワードで、検索している人も多いのではないだろうか?

しかし、このワード検索にも、実は落とし穴がある。業務内容を理解せずに、印象の良いキーワードだけで検索をかけると、名前と中身(業務内容)が異なった求人に、エントリーしてしまうことがある。業務内容を理解していないため、その違いに気づかないのだ。

特定の分野について助言や指導するのがコンサルティングだが、営業でも顧客に対してアドバイスをすることはある。「企画営業」も、顧客にイチから提案することを考えれば、“企画”と解釈できなくもない。

とはいっても、実際の仕事の中身と噛み合わない募集タイトルは多く、それだけで求人を選んでしまうと、入社してからミスマッチに気が付き、短期離職につながる可能性がある。

賞与や手当など、見た目の条件で読み誤るな

2. ちゃんと計算してみると損をしている「雇用条件」

特に就活生が気にしている「雇用条件」でも、釣り情報をよく目にする。特に、「賞与」や「福利厚生(手当)」にばかり目が行ってしまっている場合、読み誤ることが少なくない。

例えば、以下の2つの条件は、どちらのほうが良いだろうか?

<賞与も手当もある求人>
月給:20万円(基本給16万円、業務手当4万円)
賞与:1.5カ月分(前年の平均支給月数)
福利厚生(手当):住宅手当が2万円/月
平均残業代:3万円/月
<賞与も手当もない求人>
月給:25万円(すべて基本給)
賞与:なし
福利厚生(手当):なし
平均残業代:3万円/月

​一見すると、「賞与も手当もある求人」のほうが良い条件に見えるが、「理論年収」で比較すると実態が見えてくる。理論年収は次のような計算式で求める。

理論年収=<月給(手取りではなく額面)+平均残業代+固定手当(住宅手当等)>×12カ月+(基本給×賞与月数)
<賞与も手当もある求人の理論年収>
理論年収:25万円(月給20万円+平均残業代3万円+固定手当2万円)×12カ月+(基本給16万円×賞与月数1.5カ月)=324万円
<賞与も手当もない求人の理論年収>
理論年収:28万円(月給25万円+平均残業代3万円+固定手当0万円)×12カ月+(25万円×0カ月)=336万円

​比較すると「賞与も手当もない求人」の方が年収で12万円高くなっている。つまり、「賞与」や「手当」に目がくらんでしまい、諸々を合計した年収において、悪い条件を選んでしまうことがある。このほかにも、雇用条件に関する落とし穴には、以下のようなケースにも注意が必要だ。

月給は多く見えるが、「みなし残業代」が含まれている。
月給に業務手当が含まれていて、基本給を低く設定している(賞与が少なくなる)。
インセンティブが設定されているが、達成ラインが高い(代理店営業を行っている会社に多い)。
想定年収が「平均額」ではなく、「最高額」で記載されている(数百万円のズレがある場合も)。

​さらに、初任給は高いが昇給の伸び率が低く、30歳時の給与や平均給与を低く抑えている会社もある。このように給与に関する条件には、さまざまな“見せ方”が存在する。事前に確認できることは細かく確認しておくことをおすすめする。

情報収集して実態をつかむことが重要

3. 参考にはしてもそれだけで決めてはいけない「働いている人」

1社目を短期離職した人に、会社を選んだ理由を聞くと、「人が良かったから」という理由をよく耳にする。このように「働いている人」にひかれてしまうケースも相当数いる。下記のような例がそうだ。

企業説明会で、何となく立ち寄ったブースで話した採用担当者の印象が良かったので、そのまま選考に進み、入社した。
ベンチャー企業の社長講演を聞いて、感化された(ベンチャー企業の長時間労働や成果主義といったことを考慮せず、「勢い」で入社してしまう)。
特殊なエピソードのある社員の印象が強く残り、入社の決め手になる。
イケメン社員や美人社員を前面に押し出されていたことで魅力を感じる。

​ところが、入社してしまうと採用担当者や社長と一緒に働くことはまれで、実際は現場の社員と一緒に働くことになる。そうすると、その会社に入社した理由が徐々に薄れていってしまい、「何でこの会社で働いているんだっけ?」という、“退職フラグ”が立ってしまう。

ここまで解説してきたような「釣り情報」を見破り、就活を自分の希望通りに進めるための対策をいくつか紹介したい。企業や就活方法によっては、実施できない対策もあるが、1つの参考にしてもらえればと思う。

1. 「募集ポジション」の釣り対策

仕事の中身(業務内容や実態)をちゃんと把握するため、OB・OG訪問や口コミサイト、業界分析記事等で情報を収集する。

求人の業務内容を読み込み、不明点をまとめて、選考後に質問できるよう準備しておく(選考中に細かい質問をし過ぎてしまうと、選考に影響が出るだけでなく、適当な回答をされることがある。内定後に聞くのがおすすめ)。

2. 「雇用条件」の釣り対策

給与は理論年収を計算し、それで比較する。

把握できない条件は、内定後に確認する(内定後に正式な雇用条件が確定するため)。

3. 「働いている人」の釣り対策

選考時に実際に配属される部署がわかっていれば、「どのような人がいるのか」「職場の雰囲気」を確認しておく。

「働いている人」以外にその仕事を選ぶ理由を1つでも多く探す。

就活は一大イベント。こうした対策を実施して、「釣り情報」に惑わされず、自分自身が納得のいく就活を行ってもらいたい。